第22話 進退
スコルの事情を聞いてイオはどうするのか
「これからどうすればいいんです?僕達ずっとここにいるんですか?」
スコルの事情は聞いたけど、この後どうするのか急に心配になってきた。それを聞いたスコルとエリスは顔を見合わせる。どちらでもいいから答えてほしいなぁ。
「どうするかは、お前さん次第だな」
スコルが言った。僕次第?僕がこの先どうするか決めなきゃいけないんだろうか。
「どういう事ですか?」
「俺はカロンをとっ捕まえるって方針に変わりはない。エリスもたぶん手伝ってくれるだろう。お前さんは?俺達と一緒にいるのか、どこかに行くのか、あそこに戻るのか。黙ってた事は教えてやったから、どうするか自分で決めるんだ」
そういう事か。それならこの後は確かに僕次第だ。でも、そんなに簡単に決められる事じゃない。押し黙ってしまった僕を見て、エリスが言う。
「スコル、すぐには無理よ。時間をあげましょ」
「時間をもらえるとありがたいです」
考える時間が欲しかった僕はエリスに続いて言った。スコルは僕の言葉に頷いて、少し迷ったように目を泳がせてから口を開いた。
「……ぼうず、こんな事言えた義理じゃないが、今後もお前さんが一緒にいてくれた方がどちらにとっても有益なはずだ。無理にとは言わないが」
「しばらく考えてみますよ」
スコルが言った言葉の意味がよく理解できないけど、とりあえず返事をする。
「それじゃ、この辺りで宿でも取るか。数日はここにいるから、その間に決めてくれ」
そう言ってからスコルは立ち上がる。全部話した事で喉のつかえが取れたんだろうか、彼はすっきりしたという顔をしていた。僕とエリスも席を立って、店を後にする。
店を出て宿を探している途中、いろんな物が目に入って来たけど、ここに来た当初のように見て回りたいとは思わなかった。確かに興味は惹かれるけど、それよりも考えなきゃいけない事がある。僕は黙ってスコルとエリスにおとなしく付いていく。彼らも僕が付いて来ているか振り返って確認する事はあるけど、声はかけてこなかった。今はその方がありがたい。
ほどなくして一軒の宿屋に行きついたようだ。スコルが建物の中に入っていく。カウンターにいた宿屋の主人らしきエルフとスコルが話をしている。宿賃はスコルかエリスが払ってくれる事を期待しよう。なんせ僕は手持ちが無いんだから。
話がついたらしく、僕らは宿屋の奥に通された。通路の両側に小さな部屋がいくつも並んでいるようだ。
「お前さん、右側の一番奥の部屋だ」
スコルがそう言って、指で指し示す。
「はい」
僕が返事をして部屋の前まで来た時、スコルが話しかけてくる。
「俺は向かいの部屋、エリスはその隣だ。俺達に何か話したい事があったら部屋に来るといい」
「わかりました」
そう言ってから僕は戸を開けて部屋の中へ入った。
こじんまりとした部屋だけど、宿屋だけあって綺麗に掃除は行き届いているみたいだ。窓際にベッドが置いてある。ランプがあるけど、窓の外はまだ明るいからを点ける程でもない。僕は急に疲れを感じてベッドに横になった。枕はふわふわしていて僕が住んでいた小屋の寝床とは比べ物にならない寝心地の良さだ。
僕は仰向けに天井を見ながら考える。いやはや、今日は本当にいろんな事があった。一日にこんなに詰め込まれたんじゃ、僕には処理しきれない。カロンというオークに襲われた事から、スコルにその事情を聞くまでをざっと頭の中で回想する。今までに起こった事もそれぞれ忘れられないくらいの衝撃があったけど、この先どうするかが非常に重要だ。
僕にはいくつかの選択肢がある。その中でできるだけ最善のものを選びたい。そう考えながらいくつかの候補を頭に浮かべる。
まず、スコルの弟子を辞めて、一人で元いた人間の次元に戻るというのはどうだろう。スコルの弟子ではなくなるからカロンに狙われる事はなくなるだろうか。うーん、その保証はどこにも無いように思える。それこそ戻った途端に待ち構えていたあいつにこっぴどく痛めつけられるか、最悪命を奪われる可能性が高いかも。それにもし狙われなくなったとしても、師匠がいなくなるわけだから魔術の修行は思うように進まなくなるだろう。
じゃあ、弟子を辞めて、このままエルフの次元で一人でなんとか暮らしていく事はできるだろうか。確かエルフのマーケットでは争い事は禁止されているとスコルが言っていたから、ここにいれば安全なんだろう。魔術師協会というのがあるらしいから、そこを頼れば僕みたいな半人前にも魔術を教えてくれるかもしれない。でも、いくらここが安全と言ってもやっぱりカロンが襲って来ないという保証は無い。
こう考えるとカロン、あのオークをどうにかしない限り、僕は一生狙われ続けるかもしれないという事になる。どうにかしたいのなら、カロンを捕まえようとしているスコルとエリスに協力するのが最善なんじゃないだろうか。
弟子を辞めても彼らはカロンを捕まえるまでは一緒にいてくれるかもしれない。でも、もし捕まえられたなら彼らは去っていくだろう。そもそも、僕はなぜ弟子を辞めようと思ったんだろうか。スコルが僕を騙していたから?そう、魔術を封印されている事や僕を囮にした事を黙っていたからだ。でも、彼が魔術を使えないからって、悪い師匠だっただろうか。彼が来てくれたおかげで僕の魔術はずいぶんと進歩した。それは間違いない。彼が来なかったら僕はいまだにあの小屋で一人で四苦八苦していただろう。魔術は使えないかもしれないけど、彼の知識は本物だ。僕はただの囮に過ぎないのに、彼は師匠として魔術を教えてくれたじゃないか。だから、スコルを悪い人間、というかオークとは思えない。まぁ、人を馬鹿にした態度はどうにかして欲しいし、囮にしたのには腹が立つけど。
それに、そうだ。エリス。僕が弟子を辞めてしまったら、彼女ともこれっきりになるかもしれない。せっかく知り合えたのに会えなくなるのは非常に残念だ。できれば彼女とはこれからも親しくしていきたい。彼女だって僕の事を悪からず思ってくれているはずだ。そんな事を考える僕は魅了の術にでもかかっているんだろうか。
とにかく彼ら二人と別れてしまうのは惜しい気がする。少なくともカロンを捕まえるまでは。スコルの言ったように一緒にいるという方向に考えが行ってしまうのは癪にさわるけど、それが一番良いのかもしれない。僕は思っていた以上に疲れていたんだろう。そんな事を考えながら眠りに落ちてしまった。
イオの心は決まった




