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第21話 スコルの事情

スコルがすべてを話す

「え?」


 僕は耳を疑った。スコルの魔術を封印した?でも、確か彼に初めて会った時……。


「僕達が初めて会った時に、あなた魔術を使ったじゃないですか。突然現れたり、僕を宙に浮かせたり……」


 僕の言葉に彼はにやりと笑ってみせる。なんだか悪戯をしている子供のような笑顔だ。


「あれにはタネがあるんだ。エリスに飛ばしてもらって、こいつを使ったんだよ」


 スコルは右の手の平を僕に見せる。そこにはどこからか取り出した金の指輪が一つ。指輪の外側には細かい模様が入っているけど、別段珍しいものには見えない。


「これは?」


 その指輪が何なのか分からず、彼に聞く。


「この指輪は魔力の籠もった浮遊の指輪さ。こいつを使えば自分で浮遊の術を使わなくても、物を宙に浮かせる事ができる。値段は張るがな」


 言い終わってスコルはズボンのポケットに指輪をしまい込む。その指輪を使わなきゃならないって事は、本当に魔術が使えないって事なんだろうか。僕をからかっているとか?


「本当に魔術を封印されてるんですか?」


 僕は疑いの眼差しを向ける。


「疑いたくなる気はわかるが本当だ。俺は今、自前の魔術は使えないんだ」


 スコルは堂々たる態度でそう言った。そこで堂々とされてもな。それにしてもなぜ言ってくれなかったのか、僕に言ったところで何もできないけど。


「何でその事を僕に言ってくれなかったんです?」


「聞かれなかったからな」


 あっさりとスコルは答える。そりゃ確かに、あなたは本当に魔術が使えますか、と彼に聞いた事はない。でも、こんな大事な事を言わないなんて、あまりにも不誠実じゃないだろうか。僕は睨みつけたけど、全部話してしまうと決めて開き直った彼にはのれんに腕押しだった。仕方がないので僕は不機嫌な顔をしながら話の先を促す。


「魔術が使えないと黙ったまま僕を弟子にして、どうして僕が襲われるんですか?」


「どこかに行ったカロンを俺は何とかして捕まえたかった。そうすりゃ、俺への罰も少しは軽くなるんじゃないかと思ってな。でも、見つけるのは難しい」


「あなたが言うんだから難しいんでしょうね」


 カロンが次元移動の術を使えるなら、見つけ出すのは至難の技だろう。ましてやスコルは魔術を封印されてしまっているんだから尚更だ。


「じゃあ、どうするのか。見つけるのが難しいなら、あいつに来てもらえばいいと考えた。破門された後にあいつがいろいろやらかしたのは、俺への嫌がらせみたいなもんだ。元弟子である自分が事を起こしたら師匠だった俺が責任を問われるだろうってな。実際そうなったわけだ。そういう事を考える奴なら、もし俺が新しい弟子を取ったと知ったら、その弟子をどうにかしてやろうとして姿を現すんじゃないかってな」


「つまり僕は……」


「そう、率直に言っちまえば、お前さんはカロンをおびき出す為の囮なんだ」


 いくらなんでもひどいじゃないか。魔術を封印されている事も、囮として利用する事も僕に黙ってるなんて。なかなか話してくれないはずだ。こんな事を聞かされて冷静でいられるほど大人じゃない。僕は思わず席を立って、スコル達に背を向けた。


 彼らは何も言わない。僕が落ち着くまで待っているんだろう。ゆっくりと深呼吸をする。ふぅ、少しは頭が冷えたかな。僕は椅子に座り直した。


「エリスも最初から知ってたんですね?」


「ごめんね」


 エリスはそう言いながら、申し訳なさそうな顔をしてテーブルの上に乗せた僕の手に触れた。ずるいな、彼女にそんな顔をされたら僕が悪い事をしたみたいな気分になる。ひんやりとした彼女の手の感触で僕はだいぶん落ち着いてきた。


「何もかも僕に黙っていたのは……」


「お前さん、初めて会った時に俺が魔術を封印されている上に、自分が囮にされるなんて聞いてたら弟子にはならなかっただろう?」


「そりゃそうですよ」


 当たり前じゃないか。魔術が使えないというのはぎりぎり許容できたとしても、囮になって自分の身が危険に晒されるようなまねをしたいわけがない。本当の目的を聞いていたら、きっと僕は断っていただろう。


「どうして僕を選んだんですか?」


「別にそこに深い理由はない。魔術師見習いなら弟子にしやすいと思ってな。手当たり次第探して誘ってみるつもりだったのさ。浮遊の術のはったりをかましたら、コロッと騙されて弟子になったのがお前さんだったってだけだ」


 こんな時にまで人を馬鹿にするなんて本当にスコルはいい根性をしている。僕はまた怒りがこみ上げて来たけど、それを抑えつけて冷静を装った。


「で、コロッと騙された僕を囮にしたんですね」


 僕はスコルに冷たい視線を向けたけど、彼はそれを平然と受け止めながら話す。


「本当にあいつが来るかどうかは五分五分ってところだったけどな。お前さんが最低限身を守る為にいくつか術を覚えたらエリスに頼んで、カロンが聞きつけそうなところを選んで噂を流してもらったんだよ。スコルって魔術師が人間の次元で新しい弟子を取ったそうだぞってな」


「そしたらあいつが本当に来て、僕を襲ったんですか」


「そういう事だ」


 スコルにとっては一種の賭けだったけど、見事賭けに勝ったってわけだ。でも……。


「もしカロンが現われなかったら、どうするつもりだったんですか?」


「すぐ現れるとは思ってなかったしな。気長に待つつもりだったんだよ。ずっと来なかったら来なかったで、お前さんを一人前にしてから別の案でも試すかと考えてたんだ」


 スコルはしれっと言ってるけど、僕が一人前になるなんていつになるかわかったもんじゃない。そんなに長い間待つつもりだったのか。僕はまた別の質問をする。


「せっかくあいつが現れたのに、どうして逃げたんですか?捕まえるつもりでいたんでしょう?」


「いやぁ、そこは俺の計算違いだったところでな。さっきも言ったが、あんなに早く現れるとは思ってなかったんだ。捕まえる為の準備は進めていたが、準備が整う前に来ちまったんだよ。幸い、もしもの時は俺達をここに連れて来るようエリスには話を通してたんだ」


「それは不幸中の幸いでしたね」


「そう思うだろ?」


 スコルは得意げな顔をしているけど、結局のところ彼の策は失敗してるじゃないか。僕が知らずに囮になった甲斐もなく、準備が間に合わずに逃げ出している。騙されてこんな事に付き合わされた僕はどうすりゃいいんだ。

この後どうするのか

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