第20話 魔術師協会
話しかけてきたのは老いたエルフ
通りで足を止めて声をかけてきたのは年老いたエルフだった。どこかでエルフは長命だって聞いた事があるから、年老いて見えるって事はかなりの年齢なんだろう。白い髪、口の周りから顎にかけて白い髭を生やし、白いローブを身にまとって威厳たっぷりといった感じだ。これぞ魔術師って見た目。
「スコル、こんなところで何をしておるのか」
威厳のあるエルフは眉間に皺を寄せながらスコルに話しかける。
「オルクス、久しぶりだな」
スコルは固い表情で挨拶を返す。彼らの表情を見るに、知り合いには違いないけど仲が良いってわけじゃなさそう。口調にも棘がある。
「そちらにいるのはエリス嬢か」
オルクスと呼ばれたエルフはエリスとも知り合いらしい。スコルに話しかけた時とは大違いで今度は笑顔だ。彼女に会えば笑顔になるのもわかるけど、露骨な変わりよう。
「はぁい、オルクス」
エリスが笑顔で手を振る。それを見たオルクスはますます顔がほころぶ。エルフと言えども男性だからなのか、吸血鬼である彼女の魅力は効果絶大らしい。
そこで、またオルクスの表情が変わり、今度は怪訝そうに僕の方を見る。ころころと表情を変えて忙しい事この上ないって感じだ。
「こちらの子供は……」
「イオ。俺の弟子だよ」
オルクスが何か言い終える前にスコルが紹介してくれた。どうすればいいのか迷った僕はとりあえずぺこりと頭を下げる。でも、オルクスの反応は僕が予想していたものじゃなかった。
「弟子!?あんな事があったのに、また弟子を取ったのか?」
目を剥いて驚いて、しかも怒っている。僕じゃなくてスコルに対して怒っているみたいだけど、思わず僕は身をすくめてしまった。
「いやぁ、こっちにもいろいろ事情があるんだよ」
スコルの方はあっけらかんとしたものだった。オルクスの怒りなんてまったく気にならないらしい。オルクスはその様子に呆れたような顔をして言った。
「まったく、お主と言う奴は。何を考えているのか分からんが、協会に迷惑をかけるような事をしているのではあるまいな?」
「全然、そんな事考えた事もないぜ」
スコルは頭の後ろで手を組みながら答える。オルクスは彼が誰かに迷惑をかけるのを心配しているようだけど、スコルは余計なお世話と言わんばかりの顔だ。彼に何を言っても無駄と思ったのか、オルクスは今度は僕に話しかけてきた。
「だったらいいが……。イオと言ったか、こ奴の弟子になるなど変わった子だ。今からでも別の師匠を探した方が良いぞ」
何の話だろう。スコルは多少人を馬鹿にするところはあるけれど、ちゃんと魔術を教えてくれる。悪い師匠には思えないけど。僕はわけがわからなくてオルクスを見つめ返すばかり。
「ちょっとオルクス、その辺にしてあげて。スコルだって反省してるんだから」
エリスがオルクスをなだめるように言った。スコルが反省してるって?珍しい事もあるものだ。僕がチラリとスコルを見ると、
「そうそう」
とスコルは言ったが、相変わらず頭の後ろで手を組んだまま。それに彼の口調はどう聞いたって反省しているようには聞こえない。オルクスをおちょくっているみたいだ。そんなスコルをエリスが注意する。
「スコルもふざけないで」
まるで子供を叱りつける母親みたいだ。僕も人を小馬鹿にする彼の態度に何か言いたくなったけど我慢。
「お主、ふざけたところは変わらんな。もういい。これで失礼」
だけどオルクスは我慢ならなかったみたいだ。そう言うと踵を返して通りを歩き去ってしまった。スコルのせいで弟子の僕まで悪い印象を与えてなきゃいいけど。
「じゃあな、オルクス」
スコルはせいせいしたと言った表情で言った。彼とオルクスが何の話をしていたのかよくわからなかった僕は尋ねてみた。
「一体何なんです?」
「あいつはオルクスってエルフだ。魔術師協会の一員なんだ」
見た目でエルフだって事とオルクスって名前はわかってるけど、魔術師協会って何だろう?
「魔術師協会?」
「魔術師の集まりさ。魔術の普及の為に研究や記録、他にも各次元の情報交換だとか若い魔術師の指導だとか、いろいろ手広くやってるんだ。魔術師ならたいていの奴は世話になるんだ」
「そんなのがあるんですね」
そりゃ知らなかった。知っていれば僕もその協会を頼っていただろう。知らなかっただけで僕の次元にも同じような協会があるんだろうか。
「お前もそのうち世話になるかもな」
スコルはこれで話は終りといった感じだけど、まだ聞かなきゃいけない事を聞いていない。僕は口を開いた。
「で、彼がいろいろ言ってましたけど」
「まぁ、カロンが襲ってきた理由と無関係ってわけでもないんだが……」
スコルはそう呟いた。
「ちゃんと話してくださいよ」
僕は真剣な表情でスコルに頼んでみた。
「いや……それはな……」
スコルは言い淀んでいたけど、エリスが彼に言った。
「もうスコルったら。この子にも話してあげなきゃ」
「わかったよ。わかった」
スコルはとうとう観念したように椅子に背を預ける。僕は彼が話してくれるのを黙って待った。
「カロンがお前さんを襲ったのはな、俺が原因なんだ」
僕の目を見ながらスコルが言った。まぁ、そうなんじゃないかとは思っていた。でも、何がどうなって僕が襲われなきゃならないのかがわからない。
「何かしたんですか?それでなんで僕が襲われるんです?」
「カロンはさっきも言ったように元々俺の弟子でな。魔術を教えてやってたんだが、ちょっとした行き違いがあってな。仲違いしてあいつを破門にしたんだよ。だが、あいつはそれをきっかけにいろいろとやっちゃいけない事をやらかしてな。そのあと姿をくらましたんだよ」
なにやらいろいろあったらしい。もっと詳しい事を聞きたい気もするけど、あまり踏み込んじゃいけない話なのかも。僕は先を促す。
「それで?」
「破門にしたとはいえ弟子だった事は間違いない。あいつのやらかした事の責任は俺にあるってわけだ。事態を知った魔術師協会は俺に罰を与える事にしたのさ」
魔術師協会ってそんな事もしてるのか。僕みたいな見習いもあまり変な事をすると罰せられたりするんだろうか。おっと、それよりも話の続きだ。
「どんな罰なんです?」
「俺は魔術を封印されちまった。弟子が魔術を悪用した罰さ」
スコルの事情とは




