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第19話 エルフのマーケット

エルフのマーケットでお店探し

 食事のできるお店を探す為に歩き始めたけど、僕の目には何もかもが珍しく映ってそれどころじゃない。お店もそうだけど、通りを行き交う様々な種族。


 一番目に入るのはやっぱりエルフだろう。人間と同じ姿形だけど、耳がツンととんがっている。それに男性も女性もみんな端正な顔立ちだ。僕の住んでいた小屋の近くの村には、お世辞にもこんなに整った顔の村人はいなかった。


 オークもちらほら。スコル同様の緑の肌に牙、頑丈そうな体格。シャツとズボンを着ている者もいれば、鎧を着こんでいる者もいる。やっぱりオークって鎧を着ている方がしっくりくる。


 背の低いのはドワーフなのかな。みんな髭を生やしている。背は低いけど体つきはがっしり。


 吸血鬼なのか、青白い肌をした人。トカゲのような顔をした人。赤い肌の人。人って言ってるけど、人間じゃないだろう、色んな種族がいるみたいだ。


 通りに並ぶお店にも興味津々。普通の服を売っている店もあれば、剣や鎧を売っている店もある。つやつやとした果物や野菜などの食料の店も。中には杖や指輪を売っている店もある。たぶんあれば魔術師用なんだろうな。


 ただ、一軒ずつ見て回るわけにもいかない。スコルとエリスが店を探して先に歩いていってしまう。スコルはエルフのマーケットは安全だと言っていたけど、見知らぬ場所で置いてきぼりなんて御免こうむりたい。


 僕は横目で立ち並ぶ店を見ながらも、スコルとエリスに遅れないように歩いていく。しばらく歩くと、どこからか何やらいい匂いが漂ってくる。目的の店が近いようだ。スコルが一軒の店の前で足を止めて、看板を眺めている。


「あそこはどうだ?種族問わず歓迎って書いてあるぜ」


 スコルがエリスに話しかけている。へぇ、様々な種族が集まる場所ならではの謳い文句なんだろう。中には人間お断りなんて店もあるかもしれない。そんな事を考えながら僕は向かいの店を眺めた。何かの肉を焼いている匂いがする。あっちも悪くないんじゃないかな。


「良さそうね。イオ、こっちよ」


 エリスがよそ見をしている僕に言った。まぁ、いいか。向かいの店は何の肉を焼いているのやら分からないし。もしかしたら……。嫌な想像をしかけて僕は思わず身震いした。


「はーい」


 と僕はエリスに返事をして店に入っていく。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」


 店に入ると待ち構えていたように、小奇麗な格好をしたエルフが作り笑いとともに聞いてきた。勝手が分からないからスコルに任せておこう。


「三人だ」


「三名様ですね。お席にご案内致します」


 店の中は客で一杯だった。繁盛しているらしい。店員のエルフについていくと、店の中を抜けて通りに面した外にあるテーブルに案内された。通りを歩く人々がよく見える。僕達は席につく。


「ご注文は?」


 エルフがスコルにメニューらしきものを渡して聞いてきた。何があるのかな?と聞いてみたいところだったけど、スコルがさっさと注文してしまった。


「俺とこいつにはこれにこれ、あとこれだな。彼女向けのこれも」


「かしこまりました」


 注文を書きとめたエルフが店の中に戻っていく。


「何を頼んだんですか?」


 気になった僕はスコルに聞いてみる。変な物を食べるはめにならなきゃいいけど。


「お前さんの食べられる物だから安心しろ」


 スコルが答える。それを聞いて安心した僕はさらに気になっていた事を聞く。


「それにしても広いところですね。一体どれくらいなんですか?」


「お前さんのいた小屋に比べれば、どんなとこでも広く感じるだろうよ」


 初めてのマーケットに興奮気味の僕を馬鹿にしたようにスコルが言った。僕の住んでいた小屋は確かに質素そのものだったけど、それなりに愛着もあった。あんまり馬鹿にしてほしくないな。彼に抗議の視線を向ける。それを見たエリスが割って入って僕に話してくれた。


「そうね、小さな町一つ分ってとこかしら。たいていの物はエルフのマーケットに来れば手に入るのよ」


 そりゃすごいや。僕はせいぜいちいさな村にしか行った事がないから、こんなに広い場所に店が集まっているのは珍しくて仕方がない。


 僕は通りを歩く多様な種族を眺めながら呟いた。


「エルフの次元なのに、いろんな種族がいるんですね」


 今度はスコルも馬鹿にしたりせず真面目に説明してくれた。


「魔術師の間じゃエルフは有名なんだ。魔術の適性が高いし友好的だってな。奴らはいろんな次元に行っては親交を深めてな。そのうち別の次元からここに足を延ばす奴が増えていったんだ」


「へぇ……」


 エルフは魔術が得意で次元移動もお手の物なんだろう。魔術の修行に四苦八苦する僕にはうらやましい限りだ。スコルは話を続ける。


「で、そういう奴らの相手をする為に店が集まって来たんだと。今じゃ他の次元からも品物が集まってきて、次元移動できる奴らにとっちゃ便利な場所になっていったってわけだ」


 エルフの友好性も相まって他の次元にいる者にとっても居心地のいい場所になってるんだな。友好的なところはスコルにも見習ってほしいものだ。言っても無駄だろうけど。


「ここは次元移動できる者にとってはちょっとした観光名所になってるの。吸血鬼だって歓迎してもらえるんだから」


 エリスが付け加える。吸血鬼だと言うだけで剣で追い立てられた経験でもあるんだろうか。僕だって初めて会って吸血鬼だと知った時、多少驚いたものだ、多少ね。


「そうなんですね」


 僕が相槌を打った時、店の中から両手の盆に料理を載せたエルフが出てきた。


「お食事をお持ちしました」


 エルフは器用にテーブルの上に料理を移していく。スコルと僕の前には湯気を立てるスープにふわふわのパン、スパイスの香る鳥のもも肉が置かれた。小屋で食べていた食事とは大違い。思わず僕は涎が溢れんばかりになった。料理を置いたエルフが去っていくと僕はさっそくがっついた。


「いただきます!」


 鳥のもも肉を一口がぶり。こりゃおいしいや!皮はパリッと肉はジューシー。どんな料理が出てくるかと思ったけど、こんな料理なら大歓迎だ。


「そんなに慌てると喉につまらせちゃうわよ」


 お腹を空かせた犬のようにがっつく僕をたしなめるようにエリスが言った。僕は彼女の方をチラリと見る。彼女は透明のコップに入った真っ赤なワイン……。深く考えずにそういう事にしておこう。をおいしそうに飲んでいた。


 僕達はしばらく無言で食事を続けた。お腹が減っていたんだろう。みんなの料理が空になって満腹感に満たされた頃、僕は思い切って口を開いた。


「ねぇ、スコル」


「なんだ?」


「もう聞いてもいいですか?襲ってきたオークはあなたの弟子だって言ってましたけど、本当ですか?なんで僕は襲われたんです?」


 僕はこの次元に来るはめになった理由をまだ聞いていない。あのオークから逃げる為に来たのは分かるけど、そもそもなぜ僕は襲われたのか。スコルは一つ息をついてから答える。


「まぁ、知りたいよな。襲ってきた奴はカロンって名前でな。以前俺の弟子だったのは本当だ。奴から事情は聞いてないんだよな?」


「えぇ、事情を話す気はないって言われました。ただ、あなたの弟子になったのが悪いと言ってました。」


「うーん、奴がどういうつもりで襲ってきたのか、本当のところは奴にしかわからん。でもな、その、こうだろうって言う理由はあるんだ」


 どうもスコルにしては歯切れの悪い感じだった。何か話し辛い事情があるんだろうか。


「何なんです?」


 僕は先を促してみたけど、スコルはますます口ごもった。


「それはだな……その……」


「おや?そこにいるのはスコルではないですか」


 その時、通りから突然声をかけられた。

声をかけてきたのは?

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