第18話 次元移動
イオ達着いたのは
僕の目に入ってきたのは大勢の人間。だけじゃないな。馬もいる。それにオークと思しき姿も見える。それに立派な髭をたくわえた僕よりも背の低い人、なのかな。良く見ると人間だと思っていた人達も、姿形は人間にそっくりだけど、耳がとんがっている。どうも僕と同じ人間の方が探すのに苦労するんじゃないだろうか。色んな種族でごった返しているようだ。こりゃ一体どこなんだ?僕は唖然としていた。
「ようこそ、エルフのマーケットへ」
まだ僕の腕を掴んでいたエリスがそう言った。僕は思考が停止しているようで、彼女の言葉をそのままオウム返しにしてしまった。
「エルフのマーケット?」
エルフって聞いた事があるけど、まさかそんな。僕は再度周りを見渡す。確かにあの耳、エルフの特徴だ。そう思っていると、オークの一団が僕らの方にやってきた。彼らは僕を邪魔そうに避けて歩き去っていく。どうやら僕達三人は通りのど真ん中に突っ立っているらしい。
「そうよ。ほらこっち」
言いながらエリスは僕とスコルを引っ張っていく。彼女の為すがままに通りの端まで来た。僕は今の状況がまだ飲み込めずにいた。僕らは人間とオークと吸血鬼という取り合わせなのに周りは気にする事もない。別に珍しくもないようだ。それにしてもどうやって……。
「でも、どうやって……?」
思わずつぶやく。さっきまで静かな川原にいたじゃないか。それが気付いたらこんな賑やかなところにいるだなんて信じられない。
「次元移動の術だよ」
スコルが僕に向かって言った。移動はわかったけど、次元ってなんだろう?僕はまたもやオウム返し。
「次元移動?」
「そういや、お前さんには次元については何も教えてないよな」
スコルは僕の反応を茶化す事もなく真面目な顔で言った。
「スコルったら、この子に何にも言ってないの?」
エリスは呆れたように言う。彼女の反応からすると、どうやら僕は大事な事を教えられていなかったらしい。ここは一つその教えてくれていなかった事を聞かせてもらいたいものだ。そう思いスコルを見ながら少し強い口調で言う。
「何にも聞いてませんよ」
スコルは自分のミスを指摘されたようで居心地が悪かったのか、頭を掻いてから僕の方に手の平を見せる。これ以上僕に喋らせる気はないようだ。僕は黙って彼の次の言葉を待つ事にした。彼は腕を組んでから話し出す。
「ざっくりと教えてやる。遠い昔にどこかの高名な魔術師か科学者か、どっちが先だかわからんが、自分達の住む世界以外に別の世界がある事を知った。そいつらは別世界の事を次元と呼ぶ事にしたんだ。次元にはそれぞれ違う種族が住んでいるんだが、次元と次元は通常の方法じゃ行き来できない。歩いても泳いでも飛んでも、次元の壁を超える事はできないんだ。だが、苦心の末、別次元と行き来する方法を見つけた。そのうちの一つが次元移動の術ってわけだ。今、エリスにその術を使ってもらって、人間の次元からエルフの次元に移動したんだ」
「はぁ……」
スコルの話を聞いて、僕は相槌ともため息ともつかない声を出した。どうも僕は自分のいた世界とはまったく別の世界に来たようだ。オークやエルフって地続きのどこかにいるんだと思っていたけど、そうじゃないらしい。普通じゃ行けない世界に住んでいるって事だ。
「スコルは簡単に言ってるけど、次元移動の術を覚えるのに結構苦労したんだから」
エリスが口を挟んでくる。どうやって術を学んだのかは見当もつかないけど、彼女の術で人間の次元からエルフの次元に来たのは間違いないらしい。
スコルがエリスを見て、そして次に僕を見て言う。
「わかってるよ。とにかく、次元を移動しちまえば簡単には追って来れないはずだ。それにここはエルフの次元だからな。エルフってのは基本的には争いを嫌うんだ。エルフのマーケットで血を見る様な行為を行えば厳罰に処されるって事さ。ここに居る間はひとまず安心していいと思うぜ」
「はぁ……」
僕はまた生返事。別にスコルを疑うわけじゃないけど、本当に大丈夫だろうか。別の次元というのに来た事がないから何にもわからない。とにかく僕の住んでいた次元とは違うんだから、スコルとエリスを頼るほかになさそうだ。
「ぽかんとしやがって。ちゃんとわかってるのかね」
スコルが僕の反応を見てぼやいた。彼がぼやきたくなるのもわかるけど、僕の置かれた状況を考えてみてほしい。ちょっと抜けた反応をしたってしょうがないじゃないか。
「ちょっと戸惑ってるだけよ。突然なんだから仕方ないじゃない。ね?」
エリスがそう言ってフォローしてくれたけど、
「はぁ……」
とまた同じ反応をする僕。スコルは呆れたように首を横に振り、エリスはクスクスと笑う。こんな体験をすれば誰だってこうなるはずさ。僕は心の中で自分を慰める。
僕はなんとか気を取り直してスコルに言った。
「だいたい理解しましたよ。スコルはオークの次元に、エリスは吸血鬼の次元に。種族ごとにみんな別の次元に住んでいるって事ですよね?で、今その次元を移動したと」
「そうだな」
スコルが頷く。僕はそこで気になった事を聞いてみた。
「次元ってどれくらいあるんですか?」
「人間、オーク、吸血鬼、エルフ……。数え切れないほどの次元があるんだ。正確な数はわからんな」
そんなにあるのか。僕の知っている種族から未知の種族まで、それだけ多くの次元があるってなんだか想像できないや。世界って自分が思っていたより複雑なんだな。
「あなたはどれくらい行った事があるんですか?」
また気になって聞いてみる。
「俺だって全部は行った事はない。ほんの一握りだけさ。お前さんのところみたいに呑気できる次元もあれば、そこにいるだけで命が危険に晒される次元もあるって話だからな。全部行ってみたいとは思わんよ」
人間の次元は比較的安全らしい。命の危険って何だろうか?危険な生物がいるとかかな。僕だってそんなところには行きたいと思わない。
僕とスコルのやり取りが長くなると思ったんだろうか。エリスがまた口を挟んできた。
「お話はそれくらいにして、どこかで腹ごしらえでもしない?イオは初めてだから見て回りたいでしょうけど、我慢してね」
至極まっとうな提案だ。そういえば食料を取りに行って、あのオークに襲われたんだっけ。走り回ったおかげで余計にお腹も空いている。腹が減っては戦はできぬ、って言葉があるくらいだ。拒否する理由もない。
「いいですよ」
「そうするか」
僕とスコルが同意する。僕達は食事をする為の店を探し始めた。
エルフのマーケットで食事




