死に行く彼女を見て思うことは…… (夏のホラー2020参加作品)
私には、なぜ彼女がそこにいながらそんな平然としていられるのか、それがふしぎでならなかった。
◇◆◇
八月一六日、午前一時二十五分。
組頭子駅構内にて。
昼間の熱気は嘘のように、冷たい風が穏やかに吹いていた。
駅にいたのは、私とその女の二人のみ。
ただし、同じ駅にいながら立っていた場所はそれぞれ違っていた。
駅のホームとその線路。
線路に立つのは明らかな自殺行為だ。
そんなのは誰だってわかるはずだ。
それなのに――彼女だってそれは理解しているはずなのに――彼女は笑っていた。
黒のワンピースに身を包み、鞄などの類は一切持っていなかった。二十代前半であろう彼女は、嬉しそうにその場でくるりと踊った。長く伸ばした黒髪は、さらさらと舞った。
まるでこれから起こることが、心躍らせるものごとであるかのように。
そして躍るのをやめると、私に向き直り、うっすらと微笑を浮かべて、見つめてきた。
私には理解できなかった。
「なんで! なんでそんな顔していられるんですか!」
叫ばずにはいられなかった。
目の前に『死』が迫っていることを理解しているはずなのに、彼女は笑っていたのだ。
「あなたこそ、なんでそんな顔しているの? 別にあなたと私は赤の他人でしょ」
「だからって……だからって、おかしいじゃない! 今から死ぬんですよ!」
彼女はむすっとした顔で、言った。
「他人にどうこう言われたくないわね。あなただってそうでしょ」
もう間も無く電車がやってくるだろう。
そうすればこの世から一人、人が消える。
それなのに何故、平然としていられるのだろう?
彼女に言わせれば、そう、私は赤の他人。しかし――いや、だからこそか。
そして、遠くの方から光が飛んできた。
電車のライトだ。
「さあ、もうすぐだね」
ああ、もうすぐ死ぬのか……
私を見下ろす彼女の顔は、今か今かと心躍る少女のようだった。




