餃子の中身
俺は長年通い続けてきた地元の中華屋へと今日も足を運んだ。
「しゃっさっせー!」
暖簾をくぐり中へと進むと、店員が大きな声で挨拶をした。店内はテーブル席が三つ、カウンターが三つそれぞれある。決して大きい店とは言えず、むしろ狭い。壁はどことなくうす茶色く、長く経営してきたことがわかるように油が染みていた。だが俺はこれが好きだった。
俺はいつも座っているカウンター席の一番奥が空いていることを確認し、そこへと座った。
「大将、いつもの頂戴」
「あいよ。肉炒飯と餃子だね」
俺はいつものセットメニューを注文し、壁に置いてあるテレビを見て、しばしの間出来上がるのを待った。テレビではニュース番組が映っていた。
『では、続いてのニュースです。カビュエラ美術館に収蔵されていた画家のゾムールによって描かれていたとされる絵画数点が、贋作であることがこのたび判明しました。今回贋作であると認定されたのは、「万色の空」「日没のソブュール」などの十八世紀後半に描かれたもので……』
俺はセルフの水に手を伸ばしながら、何気なく大将に話しかけた。
「なぁ大将」
「なんだい?」
「今ニュースでやってたんだけどね。どこかの美術館にあった絵が贋作だったらしいよ」
「へぇそうですか。俺は絵のことはからきしですけんねえ」
大将は俺の話にしっかり答えながらも、手際よく手を動かしていた。
「でね俺思ったんだよ。どうやら贋作だと価値が下がるそうなんだけどね、でもそれっておかしいんじゃないかってさ。だって絵そのものは何にも変わってないんだよ。別人によって描かれたって知っただけで、中身はそっくり同じままなんだからさ」
大将は目でうなずき、答えた。
「まあ、価値観なんてそんなもんじゃあないですかねぇ。言われなきゃ気づかないなんてことはザラにありますよ。てめぇがなに食ってるか知らないで一生を終えるやつだっているんですぜ。――さぁ、お待ちど! 肉炒飯と餃子のセット」
そして炒飯と餃子が出来上がった。大将のたくましい腕で運ばれた皿には、見るからに旨そうな炒飯が乗っかっている。
俺はレンゲを手にとり、一口頬張った。
「うん。流石だよ大将。美味いね」
「あざっす!」
ここの炒飯は肉がごろっと入っていて美味い。米と卵がうまい具合に絡まってしっとりとしている。相当な技術と腕力が必要に違いない。なるほど、あれだけ腕が太いわけだ。
そして餃子も口に運ぶ。一口噛むと中からじゅわっと肉汁が溢れてくる。これがたまらなく美味い。
俺はものの十五分で全てをたいらげた。
「いやー今日も美味かった。ごちそうさん!」
「まいど!」
すっかり満足した俺は会計を済まして、店をあとにした。
◇◆◇
――その日の夕方。
「店長、あんなこと言ってよかったんですか?」
「ん? なんだ」
店長と呼ばれた男は肉の仕込みをしながら、皿洗いしているアルバイトの青年に返事した。
「あれですよ。昼間の男性に話してたこと」
「ああ、あれか――ちょっ」
「僕気づかれるんじゃないかと隣で聞いててヒヤヒヤしましたよ」
「ありゃわかりゃしねぇよ。――ん、こいつ」
アルバイトは手を動かしながら、眉を八の字にした。
「いいんだよお前が気にすることはねぇ。さっきも言っただろ。知らなきゃ気づきさえしねんだからよ。――ほら動くな」
「そうですかねぇ……」
「いいから口ばっか動かしてないで。手を動かせ」
「はーい。すいません」
アルバイトは口をむくれさせる。その横で店長は仕込みを続け、
「――おりゃ!」
あの太い腕で肉の処理をしていた。




