パラサイト
高校生活に面白味を感じなくなった俺は、入学して僅か二ヶ月で授業をサボるようになった。
もともと行きたい高校でもなかったし、やりたい部活があったわけでもない。ただなんとなく周りに流されて、高校生になる道を決めただけだ。別に義務教育でもないってのにな。
そんな俺が高校を辞めるのにそれほど時間はかからなかった。むしろ二ヶ月は通ってたことの方が驚きだ。
この件に関して親は叱り半分、心配半分といった割合で俺に接してきた。
本当なら全てを叱りに割り振ってもおかしくはないのだろうけれど、そこはやはり自分の子供ということなのだな。
甘やかしてしまう部分が残っているのを俺は感じ取った。
だから俺はその甘えに乗っかることにした。
設定的には、人間関係が上手くいかなかったってことにしているが、そんなことはなかった。退屈だったとかそんなことでもない。ただなんとなく、俺が高校に通いつづけることの意味がわからなかっただけだ。
別に俺は無気力ってわけじゃないぜ。自堕落な性格なのは認めるが、もともとこういう感じの人間なんだ。
そりゃあ高校に通い続ける意味は、言葉の上では理解している。将来いい会社に入るためだとか、社会に出て困らないために知識を身につけるとか、集団生活での規範を身につけるとかさ。
でもだから何?
──将来いい会社に入るため?
普通じゃダメなのかよ。それに高校行ってたらいい会社に入れるのかよ。
──社会に出て困らない常識を身につけるため?
んなことねえよ。もし高校通わないと身につかねえってんなら、それこそ義務教育にしろよ。
あくせく働いて、一体なんの意味がある? 明らかにその労働量に見合った報酬が支払われてないのは、昨今の状況を見てれば誰だってわかってることじゃねぇか。
だったら適当に死なない程度にやってる方が俺にはちょうどいい。
といっても俺は親に甘えることに決めているんだけどな。この世の中で一番楽な生き方だ。親が死ねば自分も死ぬけれど、それまでは甘い汁を吸わせてもらうつもりだ。
そんなニート生活を続けて約一年。
ある日俺のスマホに、中学時代の同級生からLINEが届いた。
《なあ、お前高校辞めたって本当かよ》
おいおい、いつの話してんだよ。一年も前だぞ。
《ああそうだが?》
《じゃあ今何してんだ? ニートか》
《だから?》
《やっぱりそうか。お前はそうなるんじゃないかと思ってたんだよ。お前、中学のとき言ってただろ。「親が勝手に俺を産んだだけだ」とかさ。アレ傑作だわ。マジお前屑の鑑だよ》
《お前こそなんなの。俺に用?》
《なあ今度会わね? 飯でもどう?》
《あー、面倒くせぇからパス》
《お前ほんと屑だわ。まあそう言うなって。この世で一番美味いもん食わしてやっからさ》
俺は拒否し続けた。だがそいつはいつまでもLINEを送り続けてきた。正直うざかったからLINEからそいつのアドレスを消した。しかしそいつはどこから情報を入手したのか、ツイッターで話しかけてきたり、メールを送ってきたりと、あらゆる手段で部屋に引きこもる俺と連絡を取ろうとしてきた。
《な、一回くらい家を出ようぜ。お願いだよ》
腰が低い割にはかなりしつこい。
俺は屑だが、こいつも大概だ。
仕方なく俺はそいつに会うことにした。
久しぶりに昼間に部屋を出た気がする。家の中が静かなのは、両親とも仕事に出かけているからだろう。
俺は待ち合わせの場所へと仕方なく向かった。
◇◆◇
「よお! 久しぶりだなあ」
目的地に着くと、そいつが笑顔で声をかけてきた。
「お前さあ、何なの? ツイッターとかでメール送ってきたりしてさ」
俺はこの際、面と向かって不満をぶつけた。
「あ? うっせえなぁニートのくせによぉ〜。どうせ学校行ってねぇんだから暇だろ。まあそんなことどうでもいいや。これから俺ん家いこうぜ」
「何でお前ん家なんだよ」
「あ? 言っただろ。この世で最高に美味いもん食わしてやるって。さあ行くぞ。お前のためにもう用意してんだからさ。喜べよ俺の手作りだ。さ、早くしないと腐っちまう」
そうして俺は奴の家へと向かった。正直面倒だったが、ここで拒否してもまた以前のように無理やり連絡を取ってくるのが目に見えている。こういう明らかに頭のおかしい奴には逆らわない方がいい。それに一回言うこと聞けば、文句もないだろう。
そうして奴の家についた。
中に入ると、そこには誰もいなかった。まあ俺ん家も静かだったし、こいつの両親も仕事にでも出ているのだろう。
「適当に座って待ってろ。今用意するからな。あ、ゲームやっててもいいぞ」
キッチンに向かい、そいつは準備を始めた。
しばらくかかりそうだと思った俺は、床に座ってテレビゲームをして待っていた。
十五分くらいすると不意に後ろから声がかかった。
「ほら、出来たぞ。熱々だ」
出来上がったそれはラーメンだった。
「これが俺に食わせたかったやつかよ」
「いいから食ってみろって。絶対美味えからよ」
俺は一旦ゲームをセーブし、テーブルに着く。
そいつは俺の真正面の席に座り、ニヤニヤと笑いながら俺が食べるのを今か今かと待っていた。
そんなに美味いのか、と俺は少し期待しつつ麺を一口啜った。
「んぐッ──!!!」
クッソまずい。なんだこの不快なまでも不味さは。食えたもんじゃない。
「おいおい吐き出すなよ。汚ねえなあ。そんなに美味かったのか?」
「馬鹿言ってんじゃねえよ。これのどこが美味いんだよ。味見したのかよお前」
「するわけないだろう。俺が食ったって美味いわけねぇんだからよぉ。な、それよりスープはどうよ。甘いダシは出てたか?」
「はあ? 何言ってんだよ。甘い?」
「じゃあ、この骨つき肉囓ってみろって。これが一番美味いんだろ? なぁ」
「ちょっと待てよ。さっきから何言ってんだよ」
狂気に満ちた目で奴は見ていた。
俺の反応を見て楽しんでやがる。
「おい、このラーメンに何入れやがった!」
狼狽える俺に、そいつ──鷹橋禹柘は狂ったように笑う。
「うひゃひゃははははは! 何入れやがっただって? これゃ傑作だよ。お前、何も知らねえんだな。部屋出ないから分かんねぇんだよ。ほら、いいからもう一口食えって」
レンゲを持って、鷹橋は肉を口に押し付けようとする。
「やめろっ」
俺は手を振って払いのける。レンゲは宙を舞って遠くへ飛んでいった。
すると鷹橋は今までの興奮した状態から打って変わって、スッと眼に色がなくなっていった。
完全なる社会病質者がそこにいた。
「はあ……つまんねえな。お前が美味いって言ってたから作ってやったのによぉ……」
そして心底ガッカリした顔して俺に近づき、そっと耳元で囁いた。
「なぁ、自分の親を食べた気分はどうだい? 脛かじりのニート君」
最近『意味怖』じゃない話が続いてしまいました。




