例の彼女
季節は冬、十二月だ。今年ももう直ぐ終わり。僕こと加藤央井は今年で二十八歳になった。今は焼肉屋でアルバイトをしている。この歳で一度も正社員として就職した事がないのは我ながら悲しい。果たしてこの歳で就活を試みたとして雇ってくれる会社はあるのだろうか? 以前はしっかりと就活をしていたが、ことごとく落ちまくった。全く、どこの会社も見る目がないのだ。最近は半ば諦めている。このままいけばお先真っ暗。金はあまり貯まらず、つまらない日々を過ごしている。
そんな中での最近の楽しみは、新しく入った女の子──若崎さんと話をすること。彼女はとても可愛らしい。ちゃんと聞いたことがないからわからないが、見た目若いから今は大学生だと思う。(それとも僕と同じかな?)
そして今日はバイトの忘年会にきている。しかも今日はなんと二十五日、クリスマスだ。店長が独り身だから、わざわざこの日を狙ってやっているらしい。まぁ僕には関係ないんだけどね(泣)
「こんばんは」僕は例の彼女に声をかけた。
『あ、こんばんは』
「若崎さんも来てたんですね」
『はい。そういう加藤さんも来てたんですね』
「まあ、暇ですし」
悲しい事に嘘ではない。トホホ……。
『じゃあ、加藤さんは今付き合ってる方はいないんですね』
「……まあ、そうですね」
どういう意味だろう。いや、そういう意味なのか? こんな質問をするってことは、これは期待していいのかな?
『そういえば加藤さんって今おいくつですか?』彼女が上目遣いで訊いてきた。
僕はその時、なんだか正直に答えるのは恥ずかしかった。「……二十八です」
『へ~、私と十違いますね』若崎さんはニコッと笑った。ぐっ……かわいい。
ということはあれかな、若崎さんは十八歳か。大学生かな?
僕と若崎さんがそんな感じの雑談をしていると、時間になり忘年会が始まった。
「えー皆様、今日はお集まりいただきありがとうございます。それではこれより忘年会を開催いたします」
チーフによる開会宣言の後、店長の挨拶が終わり乾杯へと移った。
「料理は後にして、先に飲み物頼みましょう。みなさんそれぞれ言ってってください」チーフが皆に向けて言った。「俺はビールを。鷹目さん達は何飲みます?」
「俺もビール」
『私も同じのを』
「俺は、下戸だから烏龍茶で」
注文が終わり、各人のもとに飲み物が行き渡った。いよいよ終わりが始まる。
「みなさんコップを持ちましたか。それでは店長お願いします」
「うむ。では……乾杯!」
「カンパーイ!」
来年は良い年になれるかな?
【解説】
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彼女の台詞には『』が使われている。彼女もビールを頼み、周りの人間が止めないところを見ると彼女は成人している。語り手の男との会話からして彼女の年は38歳だろう。しかし、見る目がないのは果たして誰だろうか?