悪魔のようで悪魔ではない、ただそれに限りなく近い概念を持つ何か
突如、男の前に現れた異形の者。奴は男に取引を持ちかけた。
『モシオ前ガ望ムナラ、オ前ノ残リノ寿命三年分ト引キ換エニ、顔ヲ男前ニシテヤロウ』
男は当然だが驚いた。だが目の前にいるそいつを人間と呼ぶにはあまりにも現実味がなく、周囲に漂うオーラや奴の風貌は、人智を超えたものであることを確信させるに十分であった。
突然のことに戸惑いつつも、男は状況を飲みこみ、「三年は長くないか? たかが顔を変えるだけだろ?」と切り返した。すると奴は言った。
『ソレハ違ウ。ヨク考エテミロ。顔ガ変ワッタオ前ヲ見タ奴ラハ、オ前ノコトヲドウ思ウ』
「……あっ」
男は気づいた。
『誰モガオ前ノコトヲ別人ダト思ウダロウ。故ニオ前ノ顔ヲ知ッテル奴一人一人ノ記憶ヲ変エル必要ガアル』
「それで三年か……」
男は少し納得した。
『想像シテミロ。オ前ノ葬式ニ誰モ来ナカッタラ寂シイダロウ。コレハオ前ノコトヲ思ッテノコトダ』
奴はヒッヒッヒ、と不気味な笑みを浮かべてた。
「少し考える時間をくれ」
男は状況を整理し始めた。
(これはかなり得かもしれないぞ。確かに整形という手段もあることにはあるが、顔にメスを入れるのはかなり怖い。何より骨格からして異常に不細工な私は、整形すれば明らかに別人になる。その点これは、記憶を操作してくれて、なおかつ整形のように不自然な顔にならない。年取ってぼけて何年も生きてくことを考えれば三年という寿命は許容範囲内ではないか? それより何よりも、私は相当な不細工である事を自覚している。)
男の悩んでいる姿を見ていた奴は、さらに付け加えた。
『ソレニオ前ニ言ウコトデモナインダガ、我等ニモ規則ガ存在シ、三年以上寿命ヲ取ル事ハ禁ジラレテイル。ダカラ安心シロ。騙シテ多ク取ッタリハシナイ』
よくわからないが奴らにも事情があるらしい。
『今スグ決メナクテモ構ワナイ。タダシ期間ハ、七日以内トスル。ソノ間ニ決メロ』
「一応確認するが、取るのは寿命三年分だけで、副作用とかはないんだよな」
『アァ、ソウダ』
奴は簡潔に返事した。それを聞き、男は決心した。
「よしわかった。契約してやる」
そして男はその場で契約を結んだ。その瞬間、男の周囲を謎の光が包み込んだ。その数秒後、光は緩やかに広がっていった。光の中心、そこには誰もが羨むような絶世の美男子の姿へと変貌した男が立っていた。
それから一週間は男にとって最高に生き生きとした生活を過ごすことができた。
【解説】
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男の残りの寿命は後一週間で三年を切りそうだった。奴等は最大で三年しか寿命が取れない。だから今のうちに契約しないと損をする事になる。
奴が言っていた葬式のことは、契約すれば近々開かれることがわかってのことだった。