妖怪
妖怪が夜に出るのには訳がある。それは人目につきにくいということだ。
彼らは人間社会に、どうしようもなく相容れない
ゆえに人目を忍ぶ。
それでは今から、私がかつて出会ったとある「妖怪」についての話をしよう。
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私の趣味は、深夜に散歩することだ。
深夜の散歩は、朝方の散歩とは違った趣がある。
人が少ないのはもちろんのこと、夏なんかは特に涼しくて気持ちがいい。
散歩コースは気分で変えているため、特に決まってはいない。けれども家の近くを回るだけなので、だいたいは同じだ。
夜は暗いので怖いと感じることもある。けれどそれは、暴漢に襲われるのではといった類の心配で、妖怪が出るのではといった心配はしていない。
むしろ私は会ってみたいとさえ思っていた。そう、実際に体験するまでは。
ある日の散歩で私は、向かいから歩いてくる人を見た。
遠目で見ていたのだが、その人は、大型犬を連れていた。
初めは、こんな時間に? なんて思ったりもしたけれど、自分も同じなので、特別に変とは思わなかった。
けれど、ああ、なんて言えばいいのかな。
別の日、また別の日と、何回かその犬の散歩をする人に出くわしたわけなんだけど、なにかがおかしい。
犬……なのだろうか?
どうも違う気がする。
犬にしては歩き方が変だった。足を怪我しているとは違う、おかしな歩き方……。しかもその犬は毎回、私の方に顔を向けるのだ。
何かあると思った私は、ある日の散歩で注意深く見ることにした。さり気なさを装って、近づいて、その犬を見ると……。
私は、ハッと息を呑んだ。
その犬はなんと──人間だったのだ。
人間が犬の格好をさせられて、散歩されていたのだ!
気づくと、私は飛びのいた。
そして、気づかれてしまった。
飼い主がふいに立ち止まる。と、そのとき犬が何かをつぶやいた。
犬となった人間はこう言っていた。
「逃げて」
それからというものの、私は深夜の散歩を二度としていない。




