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【書籍化】意味がわかると怖いお話・解説付き(370万PV達成!)  作者: 絢郷水沙


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映画『呪詛』感想。

 どうも絢郷です。

 今回は、この短篇集でちょくちょくやっている映画のレビューをまた書いていきたいと思います。

 今回の映画は、台湾映画の「呪詛」です。


 まずは軽くあらすじを。


 主人公の女性・ルオナンはある日、男仲間二人とともにカルト教団の呪いについて調査と取材を試みていた。そして撮影の最中で、彼らはとある()()を犯してしまう。実はその時ルオナンは子供を身籠っていた。時は経ち六年後。ルオナンは母となり娘を産むが、その子に呪いが降りかかる。彼女はなんとか娘を助けようと記録として動画を撮影するが……。


 ネットで話題になっていたので見てみましたが、想像を軽く超えてきました。これは本当に怖いです。なぜ怖いと感じるのか、恐怖を感じさせるポイントを筆者なりに分析し、今後の創作においての参考になればと文字に起こして、ついでにみなさんにも共有しようと思い、今回は投稿してみることにしました。ぜひ読んでいってください。ネタバレは極力しないようにしますが、少しだけ含みますのでその点はご注意ください。また、あくまでも個人的な考察ですので、その点もご了承ください。


 ◆


 まずですが、かなりグロテスクです。

 終始目を逸らしたくなる描写で溢れています。それは映画が始まってものの数分で登場します。ホラー映画ではグロ描写が全くないものから、あっても数シーン、あるいは直接見せつけず間接的に描いたりするものが少なくありません。ですがこの映画は違います。始まって間もなく現れるのは、交通事故に巻き込まれ体があり得ない角度で折れ曲がり、血を多量に流した運転手のシーンです。他には、なぜか拳銃自殺する警察官(なぜ自殺するのかは最後まで見ると理解できます。)など、とにかく衝撃的なシーンがいきなり登場してきます。これはいい手法だと思いました。冒頭に登場させることで、中盤や終盤にはこれ同等、あるいはそれ以上のシーンがあるだろうと視聴者に予感させることができるからです。実際、これらに匹敵するシーンがたびたび出てきました。この『恐怖を予感させる』というのがホラーにはかなり重要なことだと思います。


 そしてグロテスクにも色々ありまして、この映画には多種多様なものが登場しました。

 例えば虫。血は見られるけれど虫は駄目だという人も中に入るでしょう。この映画には多量の芋虫やげじげじ、ゴキブリなどが登場します。その他にはコウモリや、ぬめっとした蛙なども登場します。

 服に付いた芋虫を払おうとして潰してしまう場面なんかがありますが、これなんかは我々も実際に体験しそうで、容易に想像できてしまうところがまさに現実的な恐怖感(不快感)を与えてきます。


 そのほかには王道ですが、血みどろなシーンが多いです。

 血を吹き出すほど頭を何度も打ち付ける自殺行為や、天井から滴り落ちる血のような液体など。呪いにより衰弱していく娘の皮膚に現れる無数の傷跡。抜け落ちる歯。並の映画なら間接的に描くようなシーンも、この映画では容赦なく視聴者に見せつけてきます。(※「蓮コラ」もありますので苦手な人は本当に注意してください。)


 これらように、とにかくこの映画ではあらゆる場面で多彩なグロ描写を細かく挿入し、不快感や、グロの奥に潜む根源的な死の恐怖を引き出させようとしてきます。多彩であるゆえに視聴者はどれかには恐怖を感じると思います。


 ◆


 この映画は、基本的には一人称視点のような形で映像が流れていきます。主人公たちはハンディカメラを用いて取材に臨みますが、そのカメラで撮られた映像を見ているような、あるいは主人公が記録用として撮っている六年後の映像のような、はたまた医者が患者の様子を残すための映像のような形で視聴者は映画を観ていきます。この手法の素晴らしさは没入感ではないでしょうか。たとえば普通のドラマのような映像を思い浮かべてください。これらはどこか“物語としての”あるいは、“創作としての”見せ方のように感じます。神視点というべきなのでしょうか、一歩引いたところから俯瞰してみているような、創作者の編集を感じさせるそんな映像です。これが悪いわけではありません。むしろ不要な部分はカットし、視点に切り替えや見せるべきところをアップしたりするのは、伝えたい意図をわかりやすくするためで、それは視聴者にとっても理解しやすくなり、都合がいいのです。


 この映画でも当然ながらそれらはあるのですが、登場人物が撮影した映像を見ているような形にすることによって、視聴者があたかもその場で体験しているに近い映像になっているのだと思います。まさしく『没入感』です。主人公が逃げる姿を並走するように写した映像と、主人公が手に持つカメラで撮られた揺れに揺れるブレブレの映像。どちらがより臨場感を感じるでしょうか。

 また、この“登場人物の手持ちのカメラで撮られたような映像”のホラー映画におけるメリットは、意味深な画面の固定が可能という点だと思います。


 この映画ではたびたびカメラが地面に置かれるなどして、場面が固定化されることがあるのですが、そうすると、普通なら見せたい対象物に向かって向けられるはずのカメラが関係ない方向に向いたままになったりします。登場人物が画面の端に移動したら、視聴者の視線も画面の端に移動するのです。つまり中央には不自然な空白が生まれるのです。人は不自然なものに恐怖を感じるのだと思います。一人の登場人物が画面に顔を向けているとき、通常なら画面の中央に配置されます。しかしこれが端によっていたらどうでしょう。その不自然にあいた空白に視聴者は無意識に意味を見出そうとして、恐怖を感じるのではないでしょうか。


 また、見せ方という点でこだわっていると感じたのが、カメラアングルです。例えば床に置かれたカメラからの映像は、まるでベッドの下から覗いているときの感覚を想起させます。その他には、天井隅にある監視カメラからの映像のような場面があるのですが、普通に過ごしてはまず見ることのないありえない角度で映像を見せることで、非日常を演出しているのではないでしょうか。



 ◆


 人はあまりにも想像を超える恐怖に出くわすと、逆に恐怖を感じなくなってしまうのではないでしょうか。例えばナイフで手を刺す映像と、紙の端で指を切る映像とではどちらがより痛みを想像しやすいでしょうか。ナイフで手を刺されたことがある人なら前者を選びそうですが、多くの人はそんな経験自体がないと思います。前者は未経験で、後者の経験だけしたことがある人にとっては、後者のほうが恐怖を感じるではないでしょうか。そこにあるのは『イメージのしやすさ』です。容易に想像できるからこそ、恐怖を感じるのです。たとえば映画の中では、娘の腕に点滴を打つシーンがあるのですが、これも針を指す瞬間を画面いっぱいに見せてきます。


 ◆


 禁忌を犯すというのは、ホラーの定石で、その点もこの映画では取り入れられています。やってはいけないことをするのは見ているだけでもドキドキしてしまいます。この『禁忌を犯す』はそのドキドキを引き出す効果だけではなく、ストーリー上のメリットもあると思います。何もしていないのに理不尽に襲われる話だと、恐怖と同時にかわいそうという感情が現れ、そこから発展して怒りのような感情も引き出すのではないでしょうか。怒りはとても強い感情で、恐怖に打ち勝つものとして恐怖を和らげる効果がある気がします。その点、禁忌を犯す話では、自業自得ですので、呪いが降りかかってきても怒るのはお門違いで、とくに視聴者は主人公に感情移入していますので、まるで自分のことのように過去を悔やみ、許しを請うのではないでしょうか。


 ◆


 恐怖のドキドキと恋愛のドキドキは勘違いしやすいという話で、よく「吊り橋効果」という言葉を聞きます。この手の話ではドキドキの理由を「恐怖→恋愛」に錯覚させるものとして登場しますが、これは逆の場合もあるのではないかと思っています。つまり「何かドキドキする体験→恐怖」という感じです。このドキドキさせる体験を映画の中では「驚き」を使って作っていました。ネットでよく見かける悪戯に、迷路を解かせていたらいきなり画面が怖い画像に切り替わり驚かせる、というのがありますが、あれに近いものを感じました。ほか、いくつか不意打ちなものがあり、毎度毎度驚かされました。つまり『強制的に心拍数をあげさせる』ことが重要なのだと思いました。


 ◆


 ホラー映画によくある展開がこの映画には随所で観られます。たとえば“何もない場所に向かって声をかける子供”や“とつぜん明かりが消える部屋”などです。これらを一言でまとめるなら『不可解な存在と現象』ではないでしょうか。人は既知のものに安堵し、逆に未知のものに恐怖します。未知のものを描くのは重要なポイントです。


 ◆


 この映画ではある“呪文”が何度も登場します。(この呪文が唱えられるシーンもなかなかに怖いです。)この呪文を唱える意味は、映画を最後まで見ると理解できるのですが、その理由に筆者はなかなかの衝撃をうけました。また彼女が記録用にと撮り続けていた動画。実は冒頭で「これを見ている人は娘を救うために協力してほしい」と語っていたのですが、普通に考えて恐ろしいものを見せられて誰が協力しようと思うのでしょうか。しかし、それもまた最後まで見ると理由が分かるのです。


 不可解なものを描くのがホラー映画ですが、オチは必要です。その世界の中だけでもいいので論理的な展開をみせてくれないと視聴者は納得してくれません。その点でもこの映画はそれなりに良いオチだと思いました。


 これは筆者の個人的な感想ですが(全部そうですが)自らの死をも超える強い感情があるとするなら、それは「愛」だけではないでしょうか。とりわけ親から子へと注がれる愛は、自分が死ぬかもしれない、あるいは確実に死ぬと分かっていてもそのために行動しようと思える原動力になると思います。その点を踏まえても、主人公の行動原理は腑に落ちるものでした。話の都合上、動機が薄いまま行動させられるキャラを作らないにはどのようにしたらいいか、という課題の答えの一つを見た気がします。


 ◆


『逃げられない状況』というのはホラー映画には切っても切り離せない重要なポイントです。密室などの物理的なものから、期限が迫るなどの時間的なものまで、余裕を奪い焦りを引き出す設定はこの映画でも使われています。



 ということで、いかがでしたでしょうか。

 他にも語りつくせないほどの魅力が詰まっている作品でした。アジア圏のホラー映画と、ヨーロッパ圏のホラー映画の違いなどを分析してみても面白いなと思いました。

 正直言うとあまりお勧めはしたくないです。理由は単純にグロテスクだからです。

 映画というのは決して長くない時間の中で一つの完結した物語を見せなくてはならないため、世界観の説明がはぶかれがちです。筆者も初めの方は状況があまり理解できていませんでした。最後まで見てなんとなくですが理解できました。今から見始める方は、ネタバレを避けてあらすじをどこかのサイトで読んでから見始めてもいいかもしれません。

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