書き足された暗号
僕は小さいころ東北のとある田舎町に住んでいた。
僕の父は、僕が五歳の時にその地で病死した。
母親は女手一つで僕を育ててくれた。だが、僕が七歳の時に再婚した。
その相手の都合上、僕たちは関東のとある町に引っ越しをすることになった。
当時七歳だった僕は、当然小学校に通っていて、少ないながらも友達がいた。その友達と別れるのは寂しかった。けれど、小学校低学年だった僕にとって親は絶対であった。引っ越ししたくないと訴えてもそれは無駄だった。
そうして関東での暮らしを始めてもう七年が経つ。新しい父との関係は完璧にうまくいっているとは言えない。けれど、それでもお互い立場を理解して過ごしていた。
そんなある日、僕のもとに一通の手紙が届いた。差出人は、転校する前の学校のクラスメイトであり、家が近所の女の子だった。
彼女はよくいじめられていて、僕が間に入っていじめっ子を蹴散らしていた。気が弱い子なのだ。僕はその子のことが気がかりで、転校したてのころ何回か手紙を出していた。最初のころは返事も返ってきたが、ある時を境にぱたりと返事は返ってこなくなった。最後に出したのは六年ほど前だ。
幼馴染からの突然の接触に、僕は戸惑いながら中の手紙を取り出して読んでみた。
『こんにちは。華子です。わたしは元気よ。まさる君は元気? きれいな月を見ていたら勝君のことを思い出して、手紙を書いたの。いま私は夜も眠られなくて、どうしたらいいのかなやむ日々です。勝君はそっちで大変だろうけど、今すぐにでも会いたいな。お願いします。』
どことなく変な文章だった。鉛筆で書かれた文章は、いかにも女子らしい丸みを帯びていた。だがその中にいくつか、歪というか、他とは少し異なる文字が散らばっていた。気になった僕は、その部分だけ丸で囲ってみた。
『こんにちは。華子です。わたしは元気よ。まさる君は元気? きれいな月を見ていたら勝君のことを思い出して、手紙を書いたの。いま私は夜も眠られなくて、どうしたらいいのかなやむ日々です。勝君はそっちで大変だろうけど、今すぐにでも会いたいな。お願いします。』
順番どおりに抜き出してみた。
「なんだろう……なにかの暗号なのか……?」
【解説】
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
↓
今回の話は分かりやすかったと思います。目を凝らして注意深く見てみると、「ちちにころされそうたすけて」と読めます。彼女は、かつて自分を助けてくれていた幼馴染に助けを求めていたのでした。
さて、以前この短編集の愚痴のところで意味怖における暗号について少しばかり語ったのですが、ダイイングメッセージにしろ助けを求める手紙にしろ、暗号にする必然性があまりないと感じています。犯人の名前を伝えるダイイングメッセージなら、犯人がメッセージの存在そのものを消そうとしますし、わざわざ暗号化している時間がどうにも非合理的に思えます。
生きている人間が助けを求める場合も直接伝えればよくて、それができないのは厳重な検閲が行われている場合とかでしょうか。そのあたりの整合性とかを考えてみた結果、今回のような話になりました。
それはそれとして、今回の話のためだけに、「みてみん」という挿絵を投稿できるツールを使ってみました。いかがでしたでしょうか。文字だけで伝えにくい部分を補えるので、創作の幅が広がった気がします。




