表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

七 ごくつぶし花子のひまつぶし

 七 ごくつぶし花子のひまつぶし

 

「花子! いい加減に起きなさい!」


 私の一日は午後三時から始まる。部屋の外からの大家さんの怒声と掃除機をかける音が寝起きには耳障りです。


「うーん。まだ明るいじゃないですかぁ」


 私は布団を被ったまま、寝返りをうつ。すると大家さんは部屋の戸を乱暴に開ける。


「明るい内に起きるのは当たり前でしょうが! ほら部屋も掃除しなさいよ! ゴミで床が見えないじゃない! 全くもう!」


 普通朝に起きる人は小鳥の声と共に起きると言いますが、私は夕方のカラスの声と共に起きます。


いつも夜更かししていますから。


 今、私は大家さんの家の一部屋を借りて居候しています。


確かに地上に身寄りのいない私には非常に助かり感謝していますが、毎日ぐちぐち文句がうるさくてなりません。



「あー後でやるので触らないでください」



 気だるいですが、大家さんが部屋に入ってきたら、ゆっくり寝られないので、仕方なく起床します。


「もう結局いつもアタシが掃除してるんじゃない! アンタもう何様よ!」


「そりゃあ神様ですよ」


「やかましいわ! それに今はただのニートでしょう!」


 もう良いじゃないですか。もう何万年も私は天界で働いてきたんです。

まだ地上に来てから三年そこらなんだから、ゆっくりさせて欲しいものです。

大家さんのマシンガンのような小言は止まることを知りません。



「アンタねぇ。働かざる者食うべからずっていうでしょ。アンタは一日寝てるか食うか、漫画読むかネトゲしかしてないじゃない」



「なっ失礼な! ほ、他にも色々してますよ!」


「何をよ?」


「……」


「やっぱりないじゃない!」 


 大家は険しい表情を浮かべ太い腕を組み直す。


「大体アンタ将来どうするのよ。花子は無駄に寿命長いんだから、いつまでもニートやってる訳にもいかないでしょうに。もう結婚でもしたら?」



 その言葉を聞いた花子は頬を真っ赤に染める。


「けけけ、結婚!? まだ私には早いですよ!」


「もうアンタ何歳よ……。逆にいつになったらできるのよ」


「レディーに歳を聞くもんじゃありませんよ! 大家さんはデリカシーがないんですか」


「んもう。こんな生活してたらアンタを拾ってくれる男なんか現れないわよ」


「大家さんを拾ってくれる男を探す方が大変ですがね。それに私、結婚にはまだ興味がありませんし!」



 二人の言い争いはいつもの事であったが、今日の大家は一味違うようだ。


「はぁもうやってらんないですよ。話はもういいでしょう? 私そろそろ途中のゲームを片付けたいんですが」


「良くないわよ! もう怒った! 花子アンタ今日中にバイトでもなんでもいいから仕事見つけなさい! それまでゲーム禁止!」


「な、なんですとー! 嫌です! なんで大家さんにそんなこと命令されなきゃならないですか! 働いたら生活リズムが崩れちゃいます!」


 それだけは嫌です。


この働かずして衣食住困らない生活こそが私の天国となりつつあったのに。


私はこっちの天国で神となりたいのです。


 大家は花子に指差し怒鳴る。



「アンタの生活リズムなんて最初からグチャグチャじゃない! 働くのはアンタ居候なんだから当たり前でしょうが! いつまでもタダ飯食えると思ってんじゃないわよ! 別に自分で稼いだ給料は自分で全部使っていいから」



 花子はパソコンの乗った机を叩き反抗する。



「じゃあ働く意味ないじゃないですか! 私はお金が無くても構いませんし、それに私が全部貰うんじゃ、大家さんにとってもメリットないじゃないですか! なのに何で働かせるですか!」



意地でも折れない花子に思わず大きな溜め息がでる大家。

 

「はぁ。これはアンタのために言ってるのよ。だから私にメリットがあるとかないとか関係ないのよ」



「大家さんの言ってる意味がわかりません!」


「まぁ働けば分かるわよ。日払いの一日限りの仕事でもいいから探してきなさいよ」


「嫌でござる! 働きたくないでござるー!」


 

花子は駄々をこねるばかりであった。それに対し大家も痺れを切らせたのか、顔を茹で蛸のように真っ赤にして怒鳴る。



「あーもうこのダメ花子! いいから行きなさい! 今日は仕事探してくるまで、家に入れないからね!」



「あぁぁもう! 分かりましたよ! こんなうるさい筋肉オカマがいる家にいるよりは、働いて一人暮らしした方がマシですっ!」



「オカマじゃないわよ! ニューハーフよ! 分かったら早く行きなさいよ! 仕事見つけてくるまで帰ってくるんじゃないわよ!」



「ちょっと待ってください! ご飯食べてから出ていきますから!」


 花子は黙ってリビングに行き用意された食事をがっつく。なんだかんだ大家も食事を用意している。


「早く食べて、早く仕事見つけてきなさいよ!」


「私がまだご飯食っとる途中でしょが!」


 ピリついたまま遅めの朝食をとった花子は玄関に向かい駆け出しドアを開ける。



「行けばいいんでしょう! 行けば! 仕事なんてさっさ見つけてやるです! …まぁこんな家に帰るかどうかは知りませんがね! ……バーカ!」



 歯切れの悪い微妙な捨てゼリフを吐き、花子はアパートを飛び出して行った。その瞳が微かに潤んでいたのは、大家も気づいていた。



 花子が出て行った後、大家は花子の食い散らかした後を片付けていた。嵐の前と後には静けさがくる。


その静まった部屋では何かをしていないと落ち着かなかった。


大家自身も花子を甘やかし過ぎていたことを悔いていた。


しかしその甘さも花子の根の良さを理解しているからこそ。



「今日は言いすぎちゃったわ。大家反省ね。今日は花子の好きな肉じゃがにしましょ」


 あの子はやればできる子だもの。きっと真意は伝わっている。そう信じて大家は花子の帰りを待つことにした。



 ――家を飛び出した花子は不機嫌そうに行く宛もなく、ただ適当に路上を彷徨う。



「ふん! あのオカマのとこなんて二度と帰らないです! ちゃっちゃと仕事探して自立してスーパースターになってやるです!」



 そして、花子はしばらくすると立ち止まり冷静になる。



「スーパースターってどうやったらなれるんでしょうか……。分からないし、大家さんに電話しようかな。あっ! お金持ってなかったです」


 これでは公衆電話も使えない。そもそも携帯電話も持っていない。


そしてなんで私はあのタンクトップハゲダルマに電話しようと思ったんだろう。


こんなことなら美樹さんや皐月さんに聞けばよかった。


 ……いやあの二人も今日は仕事と幼稚園で不在でした。


 花子は再び歩き出すと、コンビニの前で立ち止まる。そうだコンビニには基本的にバイトの求人誌が置いてある。それで仕事を探せばいいのです。



「えーと、スーパースター……スーパースターっと。スーパースターの求人がないじゃないですか! どれも地味な仕事ばかりじゃないですか! 私に相応しい仕事がないです!」



 地上に来てから一切働いたことがない花子は、前職が神だったことから、無駄に理想が高かった。



「ま、仕方ないです。こうなったらとりあえず社長とかでいいです。このコンビニの社長とかなら今日中になれるでしょう!」



 完全に社会を舐めきっている花子は調子に乗りながら、コンビニの店員に話しかける。



「あっの~。すいませんー。とりあえずー面接したいのだがー? ゴホン!」



「えっ面接? 今日面接なんてあったかな? まぁ僕が店長なんで、とりあえず店の奥にどうぞ。それより君なんか偉そうだな」



 覚えのない急の面接に戸惑いながらも、コンビニの店長は花子を事務所に通す。


 店長は眼鏡を持ち上げて、花子の姿を凝視する。



「あの……まずその羽を取って頂けますか?」



「はい? 無理です。バカにしてるんですか?」



 花子は尚も舐めた態度を取っている。しまいには勝手に椅子に座り足を組み始めた。



「いやその……ですから、羽を取らないと仕事できないでしょう?」



 温厚そうな店長も花子の態度に段々イライラしてきた模様。


「生まれつき生えてるんだから仕方ないでしょうが! あなたは今、立派な差別をしてますよ! そもそもバイトの募集に羽が生えてる人はダメって書いてありますか!? 書いてたら書いてたでまた差別になりますけどね!」


 なぜかキレだす花子に困惑しながら店長は眼鏡を上げ考え込む。


なんだこれは。自分は今試されているのか?

 さっきからなんで彼女は上から目線なのだろうか?

 それに本当に生まれつき羽がはえてるのだろうか? 可能性は0ではない。

確かに生まれつき羽が生えてるなら、私が今、彼女にしてることは差別になる。

 百歩譲ってそれに目を瞑ってもその金髪はどうにかしろと思うが。

そりゃあ自分も差別なんかしたくない。彼女の言ってることが本当なら、自分はとんでもない失礼なことをしてるわけで、彼女の言葉遣いくらいは多目に見れる。

 そもそも人間は手違いで羽が生えるものなのだろうか。触らせてもらって確かめてみるか?


 いやそれは、彼女にとっては大変失礼なことになるのか?

 もしくは失礼でなくともセクハラと勘違いされるかもしれない。


彼女の基準では、羽に触られることはパンツを見られることと、同レベルのセクハラかもしれない。


先にエリアマネージャーに報告すべきか?


 今は肩を触ってもセクハラになる時代だ。慎重にすべきである。でも確認しないことには、判断しようがない。



 店長は長考する。


無理もない。前例が全くない面接であり、羽の生えた人物用のマニュアルなど存在しないのだから。



そしてようやく決断をしたようで口を開く。


「す、すまないが、とりあえず羽を触って確認してもいいかな?」


「えっ! ……ま、まぁ、それで信じてもらえるなら。私に選択肢はないんですよね……」



 俯きながら頬を染め意を決したように、羽を店長に向ける。


店長は期待していた対応と違う花子の態度に頭を抱えた。


もう分からない。


まるで職権を濫用し、弱味を握って、許可せざる負えない状況を作ってるようだ。


やっぱりセクハラギリギリラインなのか?


 まるで僕が邪な気持ちがあるみたいじゃないか。


なんだこのアダルトビデオにありそうで絶対ないシチュエーションは。


どうせなら拒否して帰ってくれよ。


 店長は再び熟慮し次の行動をする。



「じゃ、じゃあ触りますよ」


 店長は花子の羽に手を恐る恐る伸ばす。 店長の手は花子の羽に近づきそして引き千切る。


「あがッ!」

 

店長の手には引きちぎられた羽が数枚。


「ほ、本当に生えてる……」


「なんで! なんでみんな同じことするの! なんで未知の物なのに力まかせに引きちぎりますか! 仮にこれが爆発物だったらあなた即死ですからね! あなたは今時限爆弾のコードを躊躇いもなく全部切った! まともに羽を触った奴が今までにいないってどういうことですか!」


 店長は眼鏡を何度も上げ、目をぱちくりさせる。


「ま、まぁ本当に生まれつき羽が生えているんだね。僕が悪かったよ」


「分かればいいです! あなたは店長失格ですね!」


「それは言い過ぎだよ。今回の件に関しては僕もそこまで自分を責めちゃいない」


「そうですか。じゃあとりあえず私が代わりに店長やりますよ」


「なんでそうなるんだい。君はまだバイトですらないのに」


「じゃあ社長でいいですよ」


「なんでそうなるんだい。いい加減にしろよ?」


 テンポ良く会話するが全く噛み合わない二人。


「ゴホン! まぁ羽については失礼しました。でも君はまだ中学生くらいに見えるんだけど……常識もないみたいだし。アルバイトは基本高校生なんだけど君は今いくつだい?」


「忘れましたけど数十万歳くらいじゃないですか?」


「君は僕を蝋人形にでもする気かな? 順番めちゃくちゃだけど君、名前は?」


 割と波長が合ってきた二人。もしかしたら採用も夢ではないかもしれない。


花畑花子ハナバタケハナコです」


「名前に花が沢山入ってるね。きっと頭の中もお花畑なんだろうけど」


 花子は地上に来てから、花畑花子の名を名乗っている。花子・クロートー・ルルドキポスと名乗ると色々説明が面倒らしい。

確かにここで本名を名乗っても店長から質問責めだっただろう。



 段々と話が盛り上がり、悪くない空気となる。


「で、君。履歴書は?」


 ビックリするほど、急に真面目に方向転換する店長。いきなり事務所に緊張感がはしり花子も笑顔から突如真顔になる。


「なんすか急にリフレッシュって」


「違うよ。履歴書だよ。君はいつもリフレッシュしてるでしょ」


「リレーションシップバンキング?」


「どうやったらそう聞き間違えんの? 君、無知そうなのにそういう難しいことは知ってるんだな。履歴書だよ履歴書!」




 花子は初めて聞く言葉に冷汗をかかされる。


「れれきしゅ、りれれれきしょ……?」


「リレーションシップバンキング知ってるのに履歴書知らないの? 知識偏り過ぎでしょ言えてないし。ほらこうゆうのだよ。自分の名前と住所と学歴とか書くやつ!」


 店長はデスクから履歴書を取りだし、花子の顔の前に見せつける。 花子は履歴書をじんまりと見た後、目を泳がせながら言い訳をする。


「あ、あーこっちのりれれきしょですね。私、違うりれれきしょと勘違いしてましたよ! えへへ!」


「違う履歴書ってどんなんだよ。履歴書って物がこの世に二つもあったら、訳分からなくなるでしょ?」


 店長は疲れから眉間をつまみながら溜息を吐く。


「え? 知りません? あのー茹でて食べるやつですよ。新鮮なら生でもイケるやつです」


「しかも食べ物なんだ! もう聞き苦しいよ! 知らないなら知らないって言えばいいのに!」


 店長の言葉に引っ込みがつかなくなったのか、花子は反論する。


「は、はぁ!? 別に知ってるし! 二つあるんだから、ちゃんと紙の方って言ってくださいよ! むしろ店長さんこそ食べ物のりれきしょ知らないんですか!?」



「履歴書って言ったら紙でしょ! てか履歴書は紙しかないでしょ。た、多分」


 高卒のため少し自信が無くなってきた店長。しめたと思ったのか花子は調子に乗り反撃に出た。


「えっ? まさか店長さん。食べ物のりれきしょ知らなかったんですか? いや店長さんに限ってそんなことないですよねぇ」


「なっ!」


 まさかの反撃に店長は一瞬戸惑った模様。


「フフフ本当に知らないんですかぁ? あれですよ。海の幸の方ですよ」


 店長は再び考え込む。


ここから心理戦が始まる。


 もしかして、本当に『りれきしょって食べ物があるのか?

 確かに私の知らない名前の食べ物なんて沢山ある。


海は広いし海の幸なんて尚更ありそうだ。北海道の漁師さんの中では、有名みたいなマニアックな感じだろうか?

 それとも実は意外とポピュラーな食べ物だけど、地方ではそれを『りれきしょ』と呼ぶのだろうか。

いや聞いたことは全くない。

だが、世界は広い。知らない事の方が多い。

仮にもし海を泳ぐ『りれきしょ』が存在するならば、私は大恥をかくことになりこの子を採用するしか道はなくなるであろう。


よしこうなったら勝負に出よう。これで彼女の反応を伺うとしよう。



「あ、あぁ。それね。もちろん知ってるよ。……足が六本があるやつだろう?」


「なっ!?」


 これはとんだ誤算だった花子。これはしてやられた。


今度は花子が深く考え始め、一向に面接は進まない。


 店長が海の幸「りれきしょ」を知っていた?

 え。すごい適当な嘘を言ったんですが本当に海の幸「りれきしょ」は存在してたのでしょうか。

いや……ここまで適当に言った事が的中するなんてありえないです。恐らく店長も知ってるフリをしているだけな気がしますが。

しかしそれなら無難に相槌をうつくらいで、誤魔化せるのに、「足が六本ある」という具体的な事まで言ってきました。

これは本当にハッタリならば言えない言葉。まさかこっちの言ってることがハッタリだと想定し、それに賭け勝負に出たのしょうか。……いやこのアホそうな店長に限ってそれはない。考えすぎでしょう。

 つまりこれは本当に海の幸六本足の新鮮なら生でもイケる「りれきしょ」が存在するということでしょう。これはマズイです。完全に墓穴を掘られました。

本当に存在するとは。今度は私が店長の知る「りれきしょ」を知らないと大恥をかくことになります。これはこっちも誤魔化さないといけません。


「そうそう! あの六本の足が美味しいんですよね!」


「……! ははは。あの六本って数が家族で分けあえるから丁度いいよねぇ……」


「え、えぇ! 茹でるだけでいいからお手軽だし、主婦の味方ですよね!」


「そうだねぇ。しかも六本足あるけど、りれきしょは二足歩行だからね。特に真ん中の二本が筋肉が発達してて、美味しいんだよ」


「たしかにー。よくその二本の取り合いをしましたよ。ぶっちゃけ他の足必要なくねって思いますよね」


「ははは。りれきしょジョークだね。その二本以外の足は生きていく上では必要ないらしいしね」


「最初家族で分けあえるとか言ってましたけど、実際は殴り合いですよね。おいしいのは二本だけですから」


「あはは……」


 お互い生きた心地がしなかった。今にもこの場から逃げ出したい。でも嘘を貫き通すしかない。


花子に至っては相手の心を読めば済むものを、完全に自分の能力を忘れている。


「それにしてもりれきしょって最近は中国産ばかりで――」


「……もういいよ花畑さん」


 店長は俯き、疲れ切った表情をしていた。 


「な、なにを……」 


 店長の生気のない言葉に花子は口が止まる。


「もういいんだよ! 意地の張り合いはもういいんだ!」


「い、いや意地なんか張って」


「いないんだろう。りれきしょなんて生物いないんだろう!」


 店長は涙を堪えつつ机を叩き、その反動でペンが床に落ちる。花子も店長の言葉を黙って聞く。


「りれきしょなんていないんだよ。そりゃあ知らないさ! 君もウソをついていたんだろ!?」


 店長は立ち上がり手を広げ花子に訴えかける。


「いますよ……」


「え?」


 花子は店長の肩に手を乗せる。


「確かにそんな生物はいません。でも私達は確かに架空の生物りれきしょについて熱く語っていたじゃないですか。その時、私達の心の中に確かに「りれきしょ」は存在していたのです」


「そ、そうか。僕が間違っていた。りれきしょは僕達の心の中に存在するんだね! そうだ。いないなら創り出せばいい!」


 店長の表情に光が差し込む。花子は胸に手を当て女神っぽいポーズをとる。


「そうなのです。まぁ元々はウソだったけど、身から出た錆という言葉もあります。意味知らんけど。形あるものが全てではないのです。分かってくれましたか?」



 すると店長は微笑み涙を拭く。


「で、履歴書はないのね?」


「へ? い、いやだからりれきしょは心の中に」


「いやその話はウソなんだから置いといてね。履歴書がないと、バイトできないの。分かる? 口の聞き方もなんか上から目線だし。社会舐めちゃダメだよ? あっ後、僕の肩に乗せてる手早くどけてくれる?」


 店長は完全に冷めた表情で言う。もう茶番には付き合ってくれない顔である。



「えっ、あっはぁ。すんませんした」


 光の速さででコンビニから追い出される花子。


「あれ?」


 あまりの展開の早さに未だに思考が追い付かない花子。


ただ分かったのは、履歴書という物がないと、バイトが出来ないらしいということ。そして食べれるものではないということ。


 行き先もなく真顔でとりあえず町を歩く。


「ま、まぁあんなコンビニなんかこっちから願い下げですよ! むしろ断られて良かったみたいな感じです。私はもっと上級で華麗な仕事がしたいんですからね」


 ――再び花子は仕事探しに戻るが、当然の如く花子を受け入れる場所などなかった。いくつも色んな所を訪ねても、最初のコンビニがまだマシな対応をされた方で追い出されるのが、当たり前。酷い所は警察に通報されかけたくらいだ。


 花子をそこまで拒絶する仕事先にも理由は十分にあった。


事前連絡無しの飛び込み面接などに目を瞑ったとしても見た目や、言葉遣いに関しては店側も呆れていて、ただのイタズラにしか扱われなかった。


 日も暮れ始め、花子の気持ちは焦り半分、諦め半分であった


「なんでこうも上手くいかないんでしょうか」


 花子は気づいていた。プライドを捨てきれない自分の情けなさに。例えプライドを捨てたとしても、自分を受け入れてくれる場所なんてない事に。


「はぁ帰りたいです。今日のご飯はなんだろーな」


 地上にきて色んな人と接し、痛感したことがある。


人の外面と内面は必ずしも同じではないことを。


心の読める花子には笑顔で対応してくる人間でも心では自分を邪険に扱っていた。


 ただ大家は違った。あんなことを言っても心では、花子の事を考えていてくれた。


 今日の大家さんの考えも私はもちろん理解していた。私は人間に比べ寿命が長い。 


 今は良くても大家さんや美樹さんがいつまでもそばにいるわけではない。

いずれ大家さんは自分がいなくなった時、私が一人でも生きていける環境を、一人でも地上で生きていける力を今の内に教え込もうとしていたのだ。


 大家さんは私には仕事が見つからないと最初から分かっていた。

だから地上の厳しさを知った私が今、家に帰れば大家はきっと温かく迎え入れるだろう。

 だけど、またいつものように大家さんに甘える訳にはいかない。ちゃんと仕事を見つけてからじゃないと大家さんに顔向けができない。


 帰りたい気持ちを必死で堪えて、私は再び歩く。


「もう少し頑張ってみますか」


 少なくとも今の花子はニート期のだらしない花子ではなかった。もう辺りは暗く、出歩く人も少なくなった。足取りは重く、疲労も限界に達して来た頃であった。


 花子の目の前に一人の少女が現れた。


「探したぞ……。花子だな?」


 思いがけない言葉に花子は振り向く。


「お、お前は!」




ーーーーーー



 ――大家はテーブルに腰かけ頬杖をつく。


そのテーブルには花子の大好物の肉じゃがをはじめバランスのよい料理が並べられていた。


なぜか、いつもより一品多く作られていた。


「遅いわね。迎えに行こうかしら……でもすれ違いになっちゃうかもしれないし」


 時刻は二十時を回っており、辺りは真っ暗になっていた。

 すると、玄関から物音がし、へとへとに疲れた花子の声が聞こえてきた。


「ただいま帰りましたよーと」


 花子の帰りに、大家はホッと一息つくと立ち上がる。


「んもう遅いわよ! ほら早く手洗ってきなさい! 夕飯食べるわよ」


「え、あっ。はい」


 花子は少しぎこちない様子で、洗面所に向かった。


二人は平静を装うが朝の喧嘩の気まずさが少し残っているようだ。

 二人は両手を合わせると、夕食をとり始めた。いつも時間が合えば美樹と皐月の親子も一緒に夕食をとるのだが、今日は花子の帰りが遅いため二人だけの食事となる。

 いつもの賑やかさはなく、大家は黙々と食べ、花子は浮かない表情をしていた。

花子もせっかくの好物にも、あまり手が伸びていない。



 そして最初に口を開いたのは花子であった。


「あの……大家さん私の今日の成果は聞かないんですか?」


 すると大家は優しく微笑む。


「……花子別に言わなくてもいいのよ。これから頑張ればいいのよ」


「いやいや! 何気を遣ってんですか! なんで決めつけてんすか!」


 その花子の言葉に大家は茶碗を持ったまま、意外と言わんばかりの表情をする。


「え? じゃあもしかしてバイト決まったの?」


 花子は鼻を高くし、腕を組む。


「へへーん! それどころか就職決まっちゃいましたよ!」


「嘘ぉ!?」


 花子の様子から見て、内定は確実らしい。普通は喜ばしいことだが、大家の心の内は釈然としなかった。


 あまりにも話が早すぎる。


実は今日は失敗して帰ってきて欲しかったのが、大家の本音であった。


今日は何もかも上手くいかなくてよかったのだ。


それで花子に少しでも社会の厳しさ、冷たさを体で痛感してもらいたかった。それが何よりも花子の為になることだから。何度も当たって砕けて、そうやって人は学んでいき成長するのだから。


 天界と地上は訳が違う。しかもバイトならまだしも、いきなり就職だなんて荷が重すぎる気がしてならないのだ。そんな心配が大家にはあった。



「いやいや大家さん残念でしたね! 大家さんは私に失敗から学んで欲しかったのでしょうが。やはり私は天才ですから苦労は必要なかったみたいです!」



 花子の胸張る姿に、心配もあるが、少し安心もした大家。


「ウフフ。あんまりお調子に乗るんじゃないわよ。でも良く仕事が見つかったわね。そんな格好でしかも当日に決まるなんて普通はありえないわよ。どんな仕事なのかしら?」


「えっ。あーそれはですね」


 花子は目を反らし頬を掻く。


「言えない仕事なの? マグロ拾いとか詐欺とか?」


 大家は花子を問い詰める。花子は返答に困っているのか、苦笑いをする。


「いや流石それはないですよ。驚かないで聞いてくださいね」


「何よ。勿体ぶらずに言ってみなさいよ」


 花子は決心したのか、ゆっくりと口を開く。


「……実は神の仕事に戻ることになったんですよ」


「神の仕事ってアンタ。前に言ってた天界でやってたやつ?」



 大家は少し混乱しているようであった。


花子の前の仕事は話には聞いていた。


しかし花子は今、罪に問われ地上に追放された身。どういうことなのだろうか。



「はい。だから就職というより、仕事に復帰する感じですかね。もう地上への追放期間はとっくに終わってるんです。先ほどそれが知らされました」



「そうなの……。つまり天界に帰るのね」



「はい。神の仕事は一度ついたらしばらく身動きが取れません。次に地上に行くことがあるならば、恐らく地上の文明が変わっているころでしょう」


 大家は咀嚼する口を止め、箸を置く。


「つまりもう花子とお別れ……ということなのかしら」


「……いえ。一度だけ会えます。それはこの先大家さんが亡くなって天界に来た時です。厳密に言えばそれが最期の別れですね」


「そ、そう。どうしても神の仕事に復帰する必要があるのかしら?」



「……数時間前、仕事探しを諦めかけたころに、天界から『閻魔』と呼ばれる、地上で言う裁判長のような奴が直々に私の所に来たんです。用件は『私の追放期間が終わってる』ということと、『神の仕事をまたやらないか』ということでした」



花子は一口お茶を飲むと、続けて話す。


「こんな事普通あり得ないんです。神の仕事は神聖なものですから、こんな簡単に再びできるもんじゃないんです。こんなチャンスは二度とないです。確かに条件は酷いですが、仕事を見つけずに手ぶらで帰るよりはマシじゃないですか」



「なるほどね。それで承諾したのね」



 まだ若干、お互い意地の張り合いがあるのだろう。そのせいかあまり空気は良くない。


 すると大家は手を叩き気持ちを切り替え立ち上がる。


「いつまでもしんみりしてちゃ仕方ないわね! じゃあ明日の夜ミキティと皐月ちゃん呼ん豪華にパーティしましょうか! 就職祝いとお別れ会を兼ねてね」



 その言葉に花子は不満を抱いたのか淡々と答える。


「そうですね。料理が楽しみです」


 お互いが求める言葉が出てこない。奥歯に何か引っかかっているようなもどかしい感じである。


 その瞬間、誰もが予想つかぬ急な出来事が起きた。


 まるで室内で大砲が発射されたかのような爆発音が鳴り響き、部屋中が煙で見えなくなる。


「な、なに!? 爆発? 花子無事!?」


 煙にむせながら花子の安否確認をする大家。


「い、生きてます! ゲホゲホ!」


 一体何が起きたのだろうか。大家が手探りで窓をなんとか開け、換気すると煙は段々薄れていき、現状が露わとなった。


 ――煙の中からは意外にも小柄な少女の影が現れる。花子と同じぐらいの背丈であろうか。


 煮えたぎる血のような色の瞳。真紅の髪をポニーテールに縛り上げ凛とした顔立ちをしている。


形式的に着るしかないのか白い羽衣を着ているが、あまり似合っていない。


 そして背中には立派な白い羽。この時点で人間ではなく、天界の者とみて間違いないだろう。


 しかし、それを除いたとしても、その少女からは、なぜだかただ者ではないオーラが滲み出ているような気がした。


 赤髪の少女は無表情で控えめな口を開いた。


「迎えに来たぞ。花子」


「え、閻魔!」


 花子がその赤髪の少女を閻魔と呼ぶ。大家も今までの経験から大体の状況は理解したようだ。


 きっとこの少女が花子を天界に連れていくのだろう。だが、あまりにも急である。


「時間がない。急ぐぞ」


 無情にも閻魔は花子の手を掴む。


「い、急ぐって天界へですか? いくらなんでも急じゃないですか?」


「まだ用意ができていないのか」


 まだ心の準備ができていないのか花子は伏し目がちにになる。


 すると大家が閻魔の腕を掴み三つ巴状態になる。


「ちょっとちょっと! いきなり人の家を煙まみれにしといて、一言もないのかしら!」


 閻魔は眉をピクリと動かす。


「これは失礼した。私は閻魔王ヤマラージャだ。話は花子から聞いている。下界(ここ)で花子が世話になっている大家殿だな? あっこれつまらないものだが」



 ヤマラージャと名乗る少女は大家に天界八つ橋と書かれた紙袋を手渡す。不愛想なのか律儀なのか分からない。


「えっあっなんか悪いわね。なんか変なとこ律儀なのね」


 大家は雰囲気に流されるが、花子はフッと笑い閻魔を指さす。


「何が閻魔王ヤマラージャですか! 大家さん。こいつ本名たま子ですよ」


「なっ! 花子貴様!」


 閻魔は身を乗りだし初めて感情を表に出した。


「あら? 素敵な名前だと思うわよ? たまちゃんでいいかしら?」


「う、うむ。構わんが」


 たま子は冷静な感情を取り戻すが、心なしか照れ臭そうだ。少し強引であるが話が分からない子ではなさそうだ。


「ほら座ったらどう? たまちゃんは紅茶に砂糖を入れる人かしら?」


「いやお構い無く。急用なのでな。さぁ花子行くぞ」


 たま子は花子の羽を引っ張る


「アダダダダ! ちょ! お前まで羽を引っ張るですか! 羽を引っ張られる痛みはたま子も分かるでしょう!」


 なんだか滑稽な様子である。一時的に大家が事態を収拾させ、三人は一度テーブルに着き、向かい合う。


「で、二人はどんな関係なの?」


 花子は機嫌が悪そうに頬杖をつく。


「どんな関係も何もこいつが私を地上に落とした張本人ですよ。こいつは罪人に刑を執行する言わば執行人です」



「ああ。そうだな。神は王とは違う。天界は絶対神政ではなく、権力は機関で分立しているのだ。神が罪を犯せば当然裁く者が必要だ。分かりやすく言えば私がそれだ」



 神と言えば絶対無二の力を持っているイメージがあるが少し違うようだ。天界は権力を分散しお互いの機関が監視しあうことで秩序を保っているようだ。その点は地球上の国々とあまり変わりはない。



 たま子は自分と似た色の紅茶を啜る。自ら早々と飲み終わったカップを洗剤を使って洗い、水気をペーパータオルで拭き取り、食器棚に戻す。


「ほんと律儀な子ね。花子と交換して欲しいわ」


 大家はたま子の礼儀正しさに感心する。


「では大家殿お邪魔した。紅茶美味かったぞ。何を躊躇っている花子。まだ行かぬのか?」


 ぺこりとお辞儀し花子の腕を再び掴む。


「いやいや私がまだティーしてる途中でしょが! あっつ!」


 花子は目を泳がし誤魔化し時間稼ぎをしてる模様。


「良く分からぬな。人間界にいる内に何があった。ほんの少し天界にいくだけではないか」


「ほんの少しの間って……! 確かに寿命のクソ長い私達にはそんな時間大した時間じゃありませんが、人間達、大家さん達にとっては果てしなく長い時間なんですよ!」


「そういうものなのか。だからなんだと言うのだ?」


 腑に落ちない表情を見せるたま子。


「そうですか。たま子も地上に住んでみれば分かりますよ」


 花子は改まり大家の方を向く。


「たま子。最後に少しだけ大家さんと話す時間をくれますか?」


「え? あ、あぁ構わんが」


 これは少しじゃ終わらないだろうと思ったのか、不可解な様子でたま子はイスに腰掛ける。


「すいません。なんだか最後なのに湿っぽくなっちゃいましたね」


 無理矢理花子は笑顔を作るが、そんな見え見えの作り笑いを一緒に過ごしてきた大家は見抜けないはずもなかった。


 笑う花子に表情を合わせることなく大家は真剣に訪ねる。


「本当に行くのね?」


「はい」


「周りへの配慮の事は考えなくていいわ。自分自身、花子だけの問題だとして考えてみて。それを踏まえた上でも結論は変わらないのかしら?」


 その言葉には花子は即答できず、少し時間をおき答える。


「はい」


 やはり大家はその花子のコンマ一秒の迷いに気付いた。

「アンタは本当は優しい子だからねぇ……。口ではあんなこと言っても、やっぱり自分より、人のことばっか気にしてるじゃない」


 周りへの配慮。恐らくは長い居候のことだろう。大家には喋らずともお見通し。

誤魔化しは通じない。花子が言葉を探している内に再び大家は口を開く



「やっぱりアンタは居候のこと気にしてたのね。アンタねぇもう何年も居候しといて今更遠慮してもしょうがないでしょ。それに花子がいなくなっても、私はなんも変わらないし、なんも嬉しくないわよ。肩でも揉んでもらった方が、大分助かるわ」



 すると花子はようやく静かに口を開く


「なんで、なんで大家さんはお節介ですか。……迷惑なんですよ。こんなに優しくされたら天界に帰りたくなくなるじゃないですか……」


 花子の頬に大粒の涙が伝う。大家にとっても初めて見る花子の顔であった。


「大家さんとずっと暮らしていたくなるじゃないですか。皐月さんや、美樹さんともです。私達は寿命が長いです。必ず人間の方が早く死にます。 必ず別れが来て、必ず1人残されるなら、今のうちに早く離れてしまった方が、ずっと楽です。 こんな機会に帰れないなら、もう一生帰れません。だから私を甘やかさないでください。こんな私的な理由なんですから、私は身勝手です……! 私は優しくなんかありません」


 花子は嗚咽混じりに続ける。


「どちらにせよ。地上の人とは早かれ遅かれ別れがあるのです。寂しいですが、避けては通れない道です。皆さんに出会った瞬間から覚悟はしてました。天界人に生まれた者の運命なのです。だから、私は天界で神をやります。いつ大家さんたちがやってきても私の手で再び地上に送り出せるように」



 花子は拭いても拭いても溢れ落ちる涙を流す。


「あれ……おかしいです。神の涙は神聖なもので、非常に価値がある物なのに。こんなに流したら価値が下がっちゃいますね」


 大家は静かに笑うと、花子の頭を撫でる。


「分かったわ。私はあえて止めない。止めたって行くんでしょう? 花子の考えはそんな中途半端な考えじゃない。立派な考えよ。私はあなたを心配し過ぎて信じ切れてなかったみたいね」



「ありがとうございます大家さん……! また天界で会いましょう! きっと神のご加護がありますよ。GOOD LUCKならぬ「GOD LUCK」です!」



 するとばつの悪い顔をしたたま子が静かに手を上げる。


「あの。水を差すようだが、ちょっといいか」


「なんですかたま子。今かなり寒いセリフ言った所なんですから止めないでくださいよ」



「あぁすまん。でも地上では数時間の別れさえもこんなに惜しむ文化なのか?」



 空気が固まるとはこの事。大家も花子も完全に固まる。



「ん?……数時間ってなんですか?」



 顔だけたま子の方を向き、ピタっと涙が止まり、逆に汗が流れる花子。


「今の神の仕事はシフト制だぞ?」


「は?」


「神の仕事は激務だがやることは簡単だ。だから今は天界の労働法に基づいて拘束時間を短くし、大量にバイトを雇い、作業を分担している」


「……バイト? で、でもしばらくは地上に戻れないんじゃないんですか?」


「今は毎日帰れるぞ。人員が増えたからな。それにお前社員じゃなくてバイトとして呼んだんだぞ。懲戒免職になった奴が再び社員になれるわけないだろ。馬鹿かお前」


 どおりで大家と花子のやり取りを冷めた目で見ていたわけだ。完全に気持ちが萎えしぼむ花子。



「たま子お前一回引っぱたいてもいいですか」



「なぜだ。今の神の仕事は、【学歴不問】【初心者歓迎】【週二からOK】【社員登用制度あり】となかなか好条件なのだが」


「中卒でもなれるじゃないですか神に」


「だからお前にも声がかかったんだが?」


 花子の表情は一気に冷める。もう完全に普段の花子である。


「えぇぇ……。ないわぁ」


「なにがGOD LUCKよ。冷静に考えたら、あんまり上手くないわ」


 大家も乾いた笑いをして立ち上がる。


「あの……大家さん。まことに言いにくいのですがこれからも末永くよろしくおねがいしますね!」


「さっ片付けしなくちゃ」


 完全に無視を決め込む大家。


「なんでそんな顔をするんだ花子? 良かったじゃないか。今まで通り地上にいれるじゃないか。時給も六百円だ」


「安っ! いや最悪ですよ。さっきまでの言動が一気にアホらしくなるじゃないですか。うわ恥ずかしさがまた込み上げてきました」


「まぁ良いじゃないか。固定シフトじゃないから、毎週自由にシフトを変えられるぞ。交通費は出ないがな」


「そういう所ケチ臭いですね! いや交通費も何も交通手段は梯子じゃねーか! って毎回梯子でバイト向かわなきゃ行けないじゃないですか!」



 そして、花子のバイト生活(週二)は始まった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ