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四 神との再会

 四 神との再会




 大家との対決から三ヶ月。平穏な日常は続いている。


 来月から美樹は育休を消化し終え、会社に復帰することになる。暫く長い休みは無くなるので、親子水入らずで旅行に行くこととなった。


 もちろん行先は沖縄。


 先月の大家との対決で何もしてないが勝利したため、大家がホテルを手配してくれた。なんか申し訳ない気がするけど、美樹は遠慮を知らないから、大家さんにちんすこうでもお土産で持って帰りたいところ。


 俺もすくすく成長し生まれたころより体重が倍くらいになった。寝返りやお座りができるくらい力がついてきた。美樹は離乳食を勧めてくるようになったが、俺は頑なに拒否している。


 なぜなら「母乳一筋」だから。


「とうちゃーく! 沖縄よ皐月!」


 美樹は三泊だというのに大袈裟なボストンバッグを持ち、ストローハットを被り直し非常にご機嫌である。俺たちが住む東京は夏の終わりを迎え涼しくなってきたがやはり沖縄は次元が違う。


 しかしベビーカーには日除けがあるため直射日光は当たらないよう考慮されているため快適だ。ベビーカーは荷物になるが赤ん坊の安全確保のため美樹は妥協はしなかった。


 とは言っても、炎天下の屋外に長時間滞在するのは生後半年ほどの赤ん坊には厳しい。沖縄の醍醐味が減ってしまうが、そこは妥協するしかない。もちろん海などはもってのほか。

 

 美樹の水着が見れなくて残念である。


 そこでホテルにチェックインした俺と美樹は有名な水族館へと向かうことにした。

 

美樹にとって人生初の我が子との旅行。行けるところが制限されようと、重たいベビーカーを持ち歩こうと、今までの苦労が吹き飛ぶ瞬間である。


 美樹は余程上機嫌なのか、どっかのプロレスラーの入場曲を鼻歌で歌いながら、ベビーカーを押す。


「皐月ー。これから行く所はね、お魚さんがいっぱいいるのよー」


 そうかそうか。水族館ってお魚さんがいっぱい泳いでるんだな。

 俺が余計な知識を知っていると後々美樹に怪しまれるかもしれない。前世で知っていた知識を捨てるのが大事である。

 

 ――水族館に向かってしばらく歩くと異様な光景が飛び込んできた。

 

 通りがかる一般の人々は「それ」を綺麗に三角州の分流が如く避けて歩いていく。


「誰か! こんなに可愛い美少女が助けを求めてるんですよ! 地上の人間は薄情者しかいないですか!」

 薄汚れた黒いワンピースを着た金髪の少女がその三角州の正体であった。俺は見間違えでなければ、この少女に見覚えがあった。


 そしてこの少女の服が元々純白だったことは世界中で俺だけしか知らないだろう。 


「そこの素敵なおじさん! ちょまっ! 目合いましたよね! 何で早足になるんですか! 神の天罰が下るからなこのハゲ!」


 完全に宗教の勧誘にしか見えないが、彼女は本気で助けを求めているのだ。


 しかし人々が避けるのにも納得がいく、理由の一つに少女の背中に生えている汚れた黒い羽。

 

 あれも元々白かったのだが地上で服と共に黒く染まっていったのだろう。彼女の汚れ具合から数週間はまともな生活ができていなかったことが推測できる。


 何故か天界で会った時より羽が小さくなっている。


「そこの素敵なカップルさん! 話だけでも……! クソブスカップル破局しろオラァ!」


 そりゃ羽の生えた汚いコスプレイヤーみたいのがいたら基本的に避けるだろう。もしくは悪ガキとかのおもちゃになるのが関の山だ。後、毎回捨て台詞吐くのやめろ。


「コラ! クソガキ共やめるです! 羽を抜くのはやめてください! ホントやめてください。本当にすいませんでした」


 本当に子どものおもちゃになっていた。乱れた羽を涙目で撫でながら、再び根気強く助けを求め、通行人に声をかける少女。


 なんだか可哀相になってきたな。アイツには天界で世話になったし、今こうして美樹と旅行できているのもアイツのおかげだ。何故地上でこんなことをしているのかは不明だが助けてやりたいところ。まぁそれも美樹次第なんだが。


「皐月。沖縄の現地の人って羽生えてるのね。じゃ行きましょ」


 へえ沖縄ってすごい。美樹は少女をゴミを見るような蔑んだ目で見ては、面倒ごとに巻き込まれると予測したのか、来た道を戻る。 


「ちょっと待ったぁ! そこのベビーカーの奥さん! あなた達よくこんな可愛い少女が困っているのによくシカトできますね! お願いします話だけでも聞いていただけませんか?」


 少女はこちらを指差し、素早く回り込んでくる


「やべっ! 絡まれた。皐月……目があったら負けよ。原宿の黒人のキャッチと同じ対処法で行くわよ」


「うおい! 無視しないで! 助けて下さい!」


「……」

 

 完全にシカトを決め込む美樹。


「ちょ……そこのあなた……それでも人の心を持っているんですか……」


「もうしつこいわよ! 私たち今から水族館に遊びにいくのよ!」


「魚見るのと人助けどっちが大切ですか! しかも私は神ですよっ!」


「神? 何アホみたいなこと言ってんのよお嬢ちゃん」


 確かにこの言葉だけ聞くと胡散臭いが、本当に神なんだよね。一応。


「フフフ……お嬢ちゃんじゃありません! 神です! えっへん!」


「じゃあこの羽は本物なのね?」


 間髪入れずに美樹は少女の薄汚れた羽を鷲掴み引き千切る。


「のおぉぉぉぉぉぉ……!!!」


 少女は背中を抑えて蹲る。美樹の掌には数本の羽根。羽根の抜ける生々しい感触に美樹は目を白黒させる。


「ほ、本当に生えてる……?」


「あの……どいつもこいつもとりあえず羽抜くのやめてもらえません? 私は七面鳥じゃないんだから。ターキーにする前の下ごしらえかって。でもこれで信じてもらえたでしょう?」


 証拠が美樹自身の手の中にあるのだから非現実自体は認めざるを得ない。


「ま、まぁとりあえず神だということは置いといて、こんな所で何してんのよ?」


「見れば分かるでしょう! ヒッチハイクでしょ!」


 あれヒッチハイクだったのかよ。少女は持っている看板をバンバン叩きながら、何故かキレ始める。確かにちゃんと見ていなかったが少女は看板を持っていて、大きく「東京」と書かれていた。


「微妙にヒッチハイクのやり方違うわよ。こうやって親指立てて高速道路のど真ん中に立っていれば自然と車が止まるはずよ」


 そのやり方も微妙に違うから。轢かれて車と一緒に心臓も止まっちゃうから。


「え! そんなやり方があったですか! 地上は初見殺しにも程があります!」


「じゃあ私たちはこれで」


「世話になったです! ではこれで……ってうおぉぉぉい! なんで貴方が助けてくれないんですか!」


 いちいちリアクションの大きい少女の面倒臭さに美樹は頭を抱え、深い嘆息をつく。


「はあ。面倒事ばっかり巻き込まれるわね最近。良いわよ話聞いてあげる。まずお嬢ちゃんの名前は?」


「あっそれは禁則事項といいますか……何といいますか。気軽に「神」と呼んでくれれば名前なんてどうでも良いのですが」


「何よ今度は言いたくないの? 理由があるにしろ話を聞いてほしければ名前くらい言いなさいよ。まだあなたを信用した訳じゃないんだから」


 少女は汚れたワンピースの裾を握りしめ、一呼吸置いて、覚悟を決める。


「……花子・クロートー・ルルドキポス。私の名です」


 やはりこの少女は「花子」。死んだ俺、優也を転生させてくれた張本人で間違いない。確か花子が

天界で意外と早く再会するかもしれないと言っていたが、こんなに早いとは。


「あら可愛い名前じゃない。なにを恥ずかしがってるのよ。私は好きよホトトギス。一句詠みたくなる感じが」


「ルルドキポスです! 気軽にルルドキポス様で良いですよ!」


 なんかすごいデジャヴを感じる。


「じゃあ花子って呼ぶわね」


「話を聞かない人ですね。前にもこんなことあったような」


「で、花子はなんでこんなことしてるのよ。自称神のくせに」


「その前に水持ってないですか。喉がカラカラなんです……。できれば水素水で……」


「この期に及んで贅沢な奴ね」


 ――熱中症になられても困るので、木陰のベンチで休むことになった。木漏れ日が涼しい風で揺らぎ心地よい。近くの自販機で水を買い、花子に手渡す。それを花子は一気に喉を鳴らし飲み干した。


「っぷはぁ! 生き返るです! で、なんでしたっけ?」


「鳥頭なの? やっぱり七面鳥と同じ末路辿るか?」


「ひっ羽もぐのはもうやめてください! 実は話すと長くなるんですが、私は天界でとある「罪」を犯してしまったんです」



 ……罪?


 もしかして俺を生まれ返らせたことか? 


 人間は死んだら必ず浄化をして、記憶を失い新たな命に生まれ変わる。


 しかし俺は花子に協力してもらって浄化をしないで済んだ。


 もしやそれが原因なのだろうか?


「ちょっと待って。今度は天界って。理解が追いつかないんだけど……」


「説明不足でしたね。天界は天界です。人間が想像するものと大きい違いはありません」



「要は天国ってことでしょ? まあ考えだしたらキリがないわね。一旦、全部信じてあげるわ話が進まないし。で、どんな罪をしたの?」




「……食い逃げです」



 何してんだよ。シリアスな顔でよくそんなこと言えるな。偉そうに腕組んでんじゃねぇよ。


「……食い逃げって自業自得じゃない。ファンタジーな気分が台無しだわ。しかもなんで神なのに追放されてんのよ」


「じゃあ総理大臣が食い逃げしたら捕まらないのですか!? それと一緒ですよ! 食い逃げしたら天界警察が追いかけてきて地上に落とされた訳ですよ!」


 なに逆ギレしてんだよ、同情の余地はないなコイツに。


「それで地上に落とされて、沖縄に辿り着いたのね」



「そーゆーことです。天界人にとって地上は十分罰になるのです。重力が天界に比べ強いので飛べないですし、一文無しで突き落とされたので飢えを凌ぐのがやっとです。地上でこの自慢の翼も退化しここまで可愛らしくコンパクトになってしまいました。色んな奴に毟られたのもありますが」



 花子は自慢の羽をパタパタと羽ばたかせる。確かに天界で見た時と比べ一回り、いや二回り以上羽が小さくなっている。そういえば頭の輪っかもないし。


「ふーん。アンタ飛べたのね。で、東京に行きたがってたみたいだけど? 上京?」


「上京って夢追い人じゃないんだから。唯一の地上の知り合いのとこにでも泊めて貰おうと思ったんです。恐らく東京にいると思ったんで」


「そうなの。神様にも地上に知り合いがいるんだ。知り合いに会えるといいわね」


 恐らくだが、それって俺の事じゃないだろうか。花子は死者にしか会わないから地上に知り合いがいるはずがない。俺を除いて。


 そんなことを考えているとポカンとした顔の花子の目が俺と合う。


「ん!? その赤ちゃんはもしかして……ふふふ……ふははは! やっと見つけました! なんと運がいい! 私にも神の加護がまだついてたです!」


 花子はどうやら俺の正体に気が付いたらしい。そうだコイツは人の心を読むことができたんだった。当然赤ん坊の俺が考えることも。


「急にどうしたのよ。皐月の事を知っているの?」


「い、いやなんでも……そういえばあなたのお名前は?」


「そういえば言ってなかったわね。私は美樹だけど」


「ぶはっ!」


 水を噴き出した花子は再び俺の顔を見るなり、腹を抱え笑い転げる。


「おいコラ花子。人の名前を聞いて、笑うなんて良い度胸してるわね……」


「あっ……いやこれはあの……すいませんでした」


「次はないわよ」


「はいすいません本当に。厚かましいお願いで大変恐縮ですが、なんとか少しの間、私を泊めてくれ

ないでしょうか?」


「……仕方ないわね。まだ俄かに信じ難いけど嘘を吐いてるようにも見えないし」


 意外にも美樹はあっさりと快諾した。人数が増えるとなると、ホテルにも追加料金が発生するし、

帰りの飛行機など考えると簡単に応えられるものではない。


「ありがとうございます! お手伝い何でもします!」


「じゃあホテル行こうか」


「えっそういう要求ですか! 何でもとは言いましたが……わ、分かりました。私に拒否権はないですから……」


「そういう意味じゃないわよ。なに顔赤らめてんのよ気色悪いわね」


 水族館は明日行くことになり、一旦宿泊しているホテルに引き返すことにした。流石にこの格好の

花子を連れ回すわけにもいかない。

 お腹も空かしているだろうと、ホテルに戻る前にスーパーマーケットに寄った。なんで旅行に来てまで家事をしなければならないのよ、とブツブツ美樹は文句を言っていたが、割と世話焼きなのかもしれない。


 スーパーマーケットの店内は空調が効いていて涼しい。しかしだだでさえ目立つ格好の花子に人々の視線は冷たい。血まみれの大家と一緒に歩いた時と同じ視線だ。


「……なんか視線が痛いので私入口のベンチで待ってますよ。良ければ皐月くんも預かってますよ」


 こいつが気を使うだなんて珍しい。沖縄にも雪が降るかもな。


「大丈夫? 皐月に変なことするんじゃないわよ」


「しないですよ! 心置きなく買い物してきてください」


「そう? じゃあ頼むわよ」


 美樹はベビーカーを花子に預け、代わりにカートを押して食品売り場に向かった。


「――さて何から話しますか皐月さん。いや「優也」さん。」


 笑いを堪えつつ、調子よく俺の頬をつつく花子。クソ、やっぱり気付いていたか。


「ぷぷっ! いやあ赤ん坊は何も出来なくて不便ですねえ! おらおら! 悔しかったらやりかえしてみるです!」


 うるせえ。お前俺が成長したら覚えとけよ。


「それまで何年かかるんですかねぇ! 天界ではよくも私をコケにしましたね!おらおら!」


 やめろ。顎をタプタプするんじゃない。


「ふう! これで立場はハッキリしましたね! 後、卑猥なこととか考えてると私に全部伝わりますからね」


 何! それは困る。やめてくれ本当に困る。


「本当にそんなことばっか考えてるんですか? 見た目は子ども、性欲は大人で引くわ」


 弱みを握られてしまった。美樹だけには言わないでくれ……。


「まぁ今はお互い美樹さんに世話かけてる身分です。態度次第で大目に見てあげます。そして改めてですが無事転生おめでとうございます」

 

おお、せやな。無事、日本に生まれたしな。


「ちなみにあの美樹さんという人はもしかして……」


 あぁ話したことあるよな。俺がプロポーズするはずだったあの美樹だよ。ってどうしたそんな深刻な顔して。


「い、いやこんな奇跡もあるんだなと。正直驚きが隠し切れないです」


え? やっぱり花子が仕組んだことじゃないのか? 上手く出来すぎてるからてっきり花子が悪戯で美樹の子どもに転生させたのかと。


「そんなことできませんよ。精々私はあなたを浄化せず人間に生まれ変わらせるので精一杯でした。罰せられるには十分過ぎることでしたが」


 そうか。やっぱり地球に追放されたのは食い逃げなんかじゃなくて、俺を生まれ変わらせた事が原因なんだな。なんかごめんな俺のせいで。


「正直その通りです。まあどうせ追放されるならと、食い逃げしてやったのは本当ですが」


 往生際の悪い奴だな。


「まあ私も天界の仕事に飽きましたし、丁度良かったですよ。地上は天界と比べ色彩豊かで、新鮮ですし」


 神が仕事飽きたとか言うなよ。一応、お前を信仰してる人もいるんだから。


「でも私も運良く旅行中の二人に出会うことができました。よっぽど貴方はラッキー男ですね」


 確かに自分でも驚くほどツイてる。これを簡単に偶然で済まして良いものなのか。


「まっ美樹さんと優也さんを繋ぐ赤い糸がぶっとかったんでしょうね! きしめんくらい」


 驚くほどヘタクソな例えだな。


「そうそう! あの様子じゃまだ美樹さんは皐月さんのことを優也さんだと感づいてないようですね」


 正直、頑張れば自分が優也だってことは伝えられなくはないけど、もしかして正体がバレたら消滅しちゃうとかそういったことはないんだよね?


「恐らくそれはないと思います。しかし、このような前例は無かったので、詳しいことは分からないです」


 まだ下手に動けないな。今は美樹に俺の正体を隠すべきだ。


「ヘタレですねぇ。まぁ分かりました。私も口が滑らないよう努力はしますよ」


 どちらにしろ心の準備が出来ていないというのもあるし、正体を明かしても美樹に信じてもらえるか、この姿を受け入れてくれるかなどが心配だった。最悪の場合親子の縁すら切れてしまうかもしれなかったからだ。まあ要は花子の言う通りヘタレなだけだ。



 すると美樹が重たそうなビニール袋を両手にぶら下げて小走りで帰ってくるのが見えた。かなり急いで買い物してきたのだろう。


「優也さん、いや皐月さんがやっぱり心配だったんですね。良い人ですね美樹さん。乱暴な所ありますけど」


 ああ。乱暴なところあるけどな。


「ごめん! 二人とも遅くなったわ!」


 涼しい店内だというのに美樹は汗で額に髪をくっつけ、軽く息を切らしながら、荷物を床に置く。


「いえいえ全然大丈夫ですよ! 皐月さんと話してましたから!」


「えっ皐月と?」


「い、いやぁ~そうゆうことじゃなくて会話はできませんよ! もちろん一方的に話しかけてただけです!」


「あぁそういうことね。てっきり皐月と会話したのかと」


 花子早くも口が滑ったな。バーカバーカ。


「うっさいです!」


「は?」


「い、いや今のは美樹さんに言ったんじゃなくて」


 これは面白い。俺の心の声は無論花子にしか聞こえないから言いたい放題である。たじたじとする花子に美樹は追い打ちをかける。


「じゃあ誰に言ってたの?」


「……すいませんした。一人言っす」


 三人はホテルに向かう。当然花子は荷物持ちを強要され不服そうである。


 花子? 俺と会話出来ることは隠さなくてもいいんじゃないか? 俺と会話できたからって俺が優也とバレる訳ではないだろう。


「……そしたら美樹さんしつこく通訳しろとか言いそうじゃないですか。あんまり神は人の日常を変えたりしてはいけないんです。もう神じゃないですけど第一めんどいです」


 花子は美樹に聞こえないように小声で言った。


「コラ花子何こそこそしてんのよ? 皐月に話せて私に話せないことでもあるの?」


 美樹のフラストレーションゲージが溜まりきるまで後少しである。こうなると少しの刺激を与えるだけで命取り。仕掛けられた爆弾の導線が百本中九十九本外れみたいな感じ。


つまり、もう余計なことはやめろ花子……。


「しょ、しょんなことはないでございますでやんす! 決して!」


 完全にへっぴり腰な花子。冷汗が滝のように噴き出している。


「花子あんま調子に乗ってると、ご飯どころか警察に突き出すことだってできるのよ?」


「おっしゃる通りでございますです。それだけは勘弁してください掃除、洗濯なんでもやります。土下座もほらこの通りいくらでもやりますよ! ほらほら!」


 なんの躊躇いもなく即土下座を繰り出す花子。もはや天界の時、ちらっと見せた神の威厳は影も形も見られない


「……次はないわよ?」


 もはや神は神でも貧乏神だな! 


「てめ! 大人しくしてりゃいい気になりやがって! ぶっ殺してやるです!」


「あんた私に殺されたいようね?」


「い! いえ! 今のは美樹さんに、いや美樹様に言ったんじゃなくてですね。あの私のお腹を抱えて何をする気ですか美樹さ」


 花子が喋ってる途中にも関わらず花子の体は腰を支点に縦回転し、、美樹の肩の上まで持ち上がり、花子の体を前方に放り投げる。地上でも空を飛べた気がした花子。


 美樹が拳を上げた時、花子の後頭部は地面に打ち付けられる。


 これは俺が高校時代美樹から食らって脳震盪を起こしたため、流石に危険だとお蔵入りとなった

「ジャックナイフパワーボム」じゃないか! また拝める日が来るとは。


「あばばばばば」


 泡を噴きながら痙攣する花子。


「まぁスッキリしたから許してあげるわ」


「……ありがたきお言葉……美樹様」


 なんとか許してもらえた花子。美樹も丸くなったな。


「これで丸いの!? あ、いや何でもないです美樹様すいません。……この能力ある意味不便です」


 最後の方は聞こえない程度の声で言った花子。


 ――そして早くも俺達は戻ってきた。まだ沖縄らしいことしてないんだが。


 花子の分のチェックインも済ませ、俺らの部屋に辿り着いた。こういうところは初めてなのかキョロキョロと辺りを見渡す花子。


 ドアにカードキーを差し込むとそこは中々の部屋であった。大きなベッドに大きななテレビ。そして壁一面がガラス張りになっているため、大迫力の海を見ることができる。


 三人でも広すぎるくらいの平凡な一般人には充分豪華と言える部屋であった。先ほどはチェックインをしてすぐ水族館に向かったため部屋を見れてはいなかったがこんな良い所だとは。 


「へー良い部屋じゃない。大家さんに後でお礼言わなきゃね。ちゃんとしたところに泊まれて嬉しいでしょ花子」


「べ、別に嬉しくなんか……ってうわああああい! 超いい部屋なんですけど! 何この超絶景! ベッドとか超ふかふかなんですけど! ここんところコンクリートで寝てたからバリ嬉しいんですけど!」


 花子も部屋を見た途端一気にバイブスが上がったのかギャル語混じりである。


 無理もない。ここ数日はほどまともな生活してなかったらしい。


「こら花子はしゃぎ過ぎよ。一先ずシャワー浴びてきなさいよ」


「えっ」


 頬を赤らめ咄嗟に胸を隠す花子。


「だからなんで毎度誤解するのよ! 汚くてくっせーから早く風呂入れつってんのよ!」


「やったー! お風呂もご飯も久しぶりですー!」


 この所、雨が花子にとっての風呂であり、雑草が主食だったらしい。


「じゃあお言葉に甘えてシャワー頂きます。皐月さん覗かないで下さいね?」


 だ、誰が覗くかよ! どうせ体は貧相で中学生くらいだろ。ハアハア……ちゅ、中学生つるぺたハァハァ……。


「花子ってば、なんで皐月を警戒してんのかしら? 皐月はおっさんみたいなところあるけど、純粋ないい子だもんね?」


 ハァハァ……あっごめん。なんか言った?


 花子がシャワーを浴びている間、美樹は先ほどスーパーマーケットで買ってきた食材をピカピカのキッチンで調理している。

リズムの良い包丁の音や日本料理ならではの優しい醤油の香りが食欲を掻き立てる。


そんな匂いに誘われてか、シャワーに入っていた花子も数分で浴室から出た音が聞こえた。


早すぎだろ。カラスの行水かよ。



 しかし事件は起きた。



「なあぁぁぁぁぁ!」


 風呂場の方で花子のなんとも言えない叫び声が聞こえた


「美樹さんすいませ~ん私の着替えがないんですが! 皐月さんが犯人で間違いないですか?」


 恐らく花子は素っ裸のままなのだろう。姿は現さず声だけが聞こえた。後、犯人を決めつけるな。


「え? 汚かったから、洗ってるわよ」


 確かにあんな汚れた服や下着をシャワー浴びた後に着ては気持ち悪いだろう。


「替えの着替えなんてないですよ! どうすればいいんですかぁ!?」


「まあ……ドンマイということで」


「えぇぇ!? それはないでしょ! 美樹さんの服貸して下さいよ!」


「ごめん、最低限しか持ってきてないのよ。まあ頑張って今、火使ってるから」


 完全に花子の一大事を他人事としてあしらう美樹。


「そんなー! 風邪ひいちゃいますー!」


 花子の悲痛な叫びが聞こえてくる。まっこれは一日全裸で過ごすしかないな!


 俺は花子の全裸なんぞ興味ないし構わないぞ! 


「あっそういえば部屋に貸出用バスローブが置いてあったわね」


 チクショウ!


「本当ですか? 良かった美樹さん取ってくださーい!」


「仕方ないわね。」


 鍋の火を止め、バスローブを取り出し花子の元へ届ける。


「美樹さんありがとうございます! そうそうそうこれこれってうおぉぉーい!」


「何? 急に下手くそなノリ突っ込みなんかして」


 ちなみに俺はリビングに放置されていて、二人の声しか聞こえない。騒がしいようだが何が起きてるんだろうか。


「美樹さんバスローブに羽を通す穴がないです!」


 なるほど。花子が着ていた服にはいつも羽を通すために穴が開いていた。しかし当然ホテルのバスローブに羽用の穴が開いてる訳がない。


「じゃあ羽……もごっか?」


「なんでいきなり極論に辿り着くですか!? それは最終手段でしょ! いやもぎませんけどね!」


「だってバスローブに穴開けたら弁償しなきゃいけないし。てか穴ないと着れないの?」


「たしかに言われてみれば天界にある私服にはは穴が開いてる服しかないので試したことがないですね。一回そのまんま着てみましょう」


「仕方ないから手伝うわよ」


 向こうからバタバタと物音が聞こえる。何を苦戦してるのか。


「あががが! ちょま! 美樹さん力入れすぎ! 羽はこれ以上曲がりませんから! 畳んだりできませんから!」


 俺を生まれ変わらせることは出来たのに羽を折り畳んだりしまったり出来ないんだな。


「ちょっと動かないで! もう少しなのよ!」


「いだだだだ! 美樹さんそれ技かけてるだけだから! ナチュラルにサブミッション出ちゃってますから!」


 また関節技かけてんのかよ。服着るだけだろ。 


「あんた神でしょ! 羽くらいしまいなさいよ!」


 俺を生まれ変わらせることは出来ても羽を折り畳んだりしまったりは出来ないんだな。.



「体の一部なんだから仕方ないでしょうが! じゃああなたは関節を反対に曲げたり出来るのですか!」


「じゃあやっぱり羽取ろっか。地上では役に立たないんだし良いじゃない」


「駄目です! これはまだチャームポイントとして取って置くんです! やがて羽が生えてるビックリ人間として取り上げられ、CDデビューして印税で余生を過ごすんです!」


 一応地上での未来設計はしてるんだな。後半無理があるけど。 





 ――その後、試行錯誤し、何とかバスローブを着ることに成功した花子。羽は折り畳めないため、二人羽織のように背中側が盛り上がってるが。羽が退化してなかったら絶対に着ることはできなかったはずだ。これでようやく食事にありつける。


「うわー! 美味しそうです!」



 大きなテーブルには定番の日本料理が所狭しと並ぶ。彩りよく健康も考えられていて、旅行先で短時間で作るクオリティーではない。


瞳を輝かせ、今にも飛びつきそうな花子だが、美樹がそれを許すわけなく行儀良く椅子に座っている。この短時間で調教されてるな。


「ふふーん。大したもんでしょ!」


 エプロンを取り得意げな美樹。料理下手でゲテモノとか作りそうなキャラしてるのに意外と手先は器用なんだよな。


「料理下手そうな性格なのにまともな物が出てきて意外です!」


「何様よあんた。花子まだよ。待て。ウェイト」


 犬かよ。素直に従う花子もプライドの欠片も残っていないんだな。尻尾の様に羽をバタつかせてるのか、背中の盛り上がってる部分がもぞもぞ動いてる。完全に犬かよ。


「よし食べていいわよ花子。いただ……」


「いただきまーす!!」


 若干フライング気味に箸を進める花子。よっぽど空腹だったのかみるみる皿が空いていく。


 非常に行儀が悪いため、美樹の叱責が飛んでくるかと思い、恐る恐る美樹の方を見てみると、ひたすら食べる花子を頬杖をつき口元を緩めながら眺めていた。


 俺は赤ん坊になってる間にも美樹はこんなにも母親らしい大人になっていたんだな。なんだか焦ってきた。そんな俺を尻目に花子は箸を進める。


「自称神様にも日本食は口に合うかしら?」


「えぇ。天界から世界中が見れますから、模倣して日本食も存在します。でも本場は違いますね。美味しいです。あと自称じゃないです自称じゃ」


「へぇ。だから一応箸も持てるのね」


「あっ気付いちゃいました? 神は万能ですからね! 美樹さんこそ料理どこで覚えたんですか?」


「私も最初は悲惨だったもんよキャラ通りね。嫁にいった時のために特訓したのよ。食べさせたかった人はもういないけどね」


 そっか沢山練習してたんだな。早く美樹の手料理を食べてみたいもんだ……。


「まっ暗い話はやめましょ! せっかくの飯がまずくなりますよ! ほら皐月さんも離乳食進んでないですよ!」


 花子も花子なりに気を遣ったのか、無理矢理場を和ませようとする。


「ありがとね花子。こうして今花子に食べてもらってるんだから宝の持ち腐れじゃないし気にしてないわよ」


「シリアスクラッシャー花子ちゃんですから!」


「ふふっそうね。じゃあ花子天界のこと教えてよ」


「……天界の事とか別に良くないですか」


 明らかに花子の声のトーンが低くなる。今度はお前が暗くなってどうするんだよ。二度とシリアスクラッシャーの名を語るな。


「まぁ良いじゃん教えてよ。天界とかそういうファンタジーな世界って素敵よね。そういうの信じてた方が人生得な気がするのよ」


「ファンタジーですか……。そんなもんなんですかね。まぁ何万年も過ごしてりゃどんな不思議な非日常世界も日常になってしまいますよ」


「ん? 何万年? 花子あんた何歳よ」


「へ? そんなの忘れましたよ。うん十万と十四歳くらいじゃないですか?」


 どっかの悪魔かよ。というか花子が年上という衝撃の事実。年上なんてレベルじゃないが。見た目は中学生くらいにしか見えないけど。


「マジか……ま、まあ信じることにするわ。その方が夢があるし」


 美樹声震えてるぞ。無理もないが。


「天界人は寿命が星並みに長いですからね。成長も遅いんですよ。だから正直歳を地球人ほど気にしないです」


「へぇー羨ましいわ。やっぱり死んだ人は天界に行くわけ?」


「そうですね。その人達を生まれ変わらせるのが私の仕事ですからね。世界中の色んな人が来るのでどんな国の言葉も話せますよ。英語、日本語はもちろん中国語、アラビア語、アルベド語等数えきれないほど」


「あんた意外と凄いのね」


「当たり前ですねはい。時間だけは腐るほどありますから、ビジネスを効率よく円滑に進行するためには世界中の言語を知ってる必要もありますし当然ですねはい」


 なんか喋り方がクソむかつくのは俺だけだろうか。急に頭良いオーラ出しやがって。


「でも今あんたニートよね?」


「あっ……はい」


 一気に現実に戻されてやんの。肉じゃが食べて元気出せよ。


「でもそれを聞いて安心したわ。死んだ人も記憶を失ってはいてもどこかで生まれ変わっているのね」


 俺の事を心配してくれているのだろうか。美樹の表情は和らぐ。


「えぇ。まぁその優也さんもハエや微生物に生まれ変わってる可能性もありますがね」


 血も涙もないなこいつ。俺を目の前にして良くそんなことが言えたもんだ。


「えっ? 花子に優也のこと話してないわよね?」


 完全に油断してたなこいつ。美樹は「優也」なんて言葉一度も花子に言ってないぞ。


「ギクッ! えっまぁ女の勘ってやつですよ! はははっ」


 女の勘って凄いな。もはや預言者じゃないか。

後、ギクッって言う奴初めて見たわ。花子は冷汗を流しながら肉じゃがを食べようとするが震えで中々掴めない。

そしてこっちを見て助けを目で求めるな。


「まっ神なら分かっても不思議じゃないわね。じゃその優也が今どこに生まれ変わってるとか分かるの?」


 目の前にいます。なんかすいません。花子こっち見るな。今バラせばお前は楽になるだろうけど、頼むからまだバラさないでくれ。


「あぁ……も、もちろん分かりますよ! えー地球上に存在する全ての息吹よ我に光となってそのえーと今置かれている状況下とかを示すのだ! サーチアンドデストロイ!」


 嘘も方便だ。適当な意味もない詠唱もどきをし、座禅を組む花子。なんか色々滅茶苦茶だな。


「美樹さん分かりましたよ。今、残念ながら優也さんは家畜の豚となって涙を流しながら出荷の列に並んでる所ですね」


 また死ぬのかよ。嘘ならもう少しカッコ良いのにしてくれよ。


「可哀相だけど、まぁ信じるわ」


 そこは信じないでくれ……。


 ――楽しい遅めの昼食を終えた三人は、出かけるのは明日以降にすることに決め、今日はホテルでゆっくり休むことにした。


「そうだ花子。皐月をお風呂に入れてあげてよ」


「えぇー……」


 明らかに嫌そうな表情の花子。


「皐月は泣き叫んだりしなくて大人しいから楽よ。後、さっき何でも手伝うって言ったでしょ?」


「はいはい。分かりましたよやれば良いんでしょう」


 花子は汚いものを持つかのように俺を抱える。別に俺だって美樹に洗ってもらいたいわ。


 花子は雑に俺を浴室に放り投げる。


「はぁ優也さん。準備しとくので待っててください」



 ブツブツと文句を言いながらも用意を始めた花子。なんかバタバタ騒がしい。こいつは静かに物事することはできないのだろうか。もしかして着替えてるのか?

 バスタオル姿だろうか。水着姿だろうか。花子の事だから素っ裸もあり得る。妄想が広がるが奴は心が読めるからやめておこう。


「はい優也さん始めますよ」


 花子の声がして振り返ると、


 ――真っ白の防護服に身を包んだ花子であった……。


 一気にテンションがガタ落ちする俺。頭にはフルフェイスのガスマスク。

二重のゴム手袋と防護服のとの隙間をカバーするため手首にはガムテープがグルグル巻かれている。

なぜか羽が出る穴があり羽だけぴょこりと飛び出している。俺は有毒なガス出したり空気感染したりしないからね?


 どれだけ俺を嫌ってんのコイツ。


 まぁ良い。花子の体に興味があった訳じゃない。女体が見たかっただけなのだ。


「ゆ、優也さん! 今Hなこと考えましたね! 変なことしないでくださいよ!」


 胸を隠してるけど、色気ゼロだからな。めっちゃ安全な服着てるんだから安心しろ。


「はい。シュコー。じゃあ背中流しますからそっち向きましょうね。シュコー」


 まるで時限爆弾を触るかのように俺を持ち背中を向けさせる。ガスマスク越しの呼吸が聞こえて、後ろに殺人鬼がいるような不気味さを感じる。

その後すぐ、冷水のシャワーを雑に頭からかけられる。ツメタァイ!!


「あっごめんなさい。この服だと水の温度分かんないんすよ」


 馬鹿なの? 赤ん坊に冷水かけるとか虐待みたいなものだからな。後、デッキブラシ持ってるけど、それで洗うつもりじゃないだろうな。それ床のタイルとか洗う奴だからな。


「……デッキブラシが床を掃除するものだってくらい私にも分かるわッ!」


 おぉう急に怒んなよ。ビックリするだろ。お前の怒りの沸点が俺には分からないよ。


 一応ごめんな。でもブラシはやめてくれ。赤ん坊の肌は絹のように繊細なんだよ。


「全く、言動には気を付けてくださいね。仕方ないから直接洗ってやるです」


 まぁゴム手袋してるんだから大丈夫だろ。石鹸で適当に俺の背中を洗いシャワーを背中にぶっ掛ける花子。これは酷い。仕返ししてやるか。


「はい終了ですお疲れさまでしたー」


 おい花子。……前がまだだろう?


「なっ!?」


 俺は振り返り思い切り花子に全てを見せびらかす。


「なななにをしてるんですか!? ただの変態じゃないですか!」


 顔を赤めてるのか? 可愛い奴め……ガスマスクで全く表情が見えないけど。ほらどうしたまだ終わっていないぞ。本来なら素手でやらせるものなんだがな。


「早くそれをしまってください! まだ私は見てないですから!」


 ほら早くしゃぶれよ。間違えた。洗えよ。


「覚えてろです! やれば良いんでしょやれば! 見ますからね! 今更隠さないでくださいよ!!」


 花子は恐る恐る目隠ししていた手をどける。


 ククク……まじまじと見てやがる。恐れいったか。


 ってあれ……なんか思ってた反応と違う。


「はっ。なんすかこのお粗末君は。へその緒がまだ取れてないのかと思いましたよ」


 鼻で笑い、さっきの様子とは正反対に手際よく洗っていく花子。


 えっなにこの敗北感。すごい死にたくなったんだけど。この時から俺の意識は遠くなり、まな板の上の鯉状態で大人しく洗われていた。いっそ心も洗ってくれ。得意分野だろ……。

 

 ――次の日から観光に切り替え、予定とは異なっていたが、三人で沖縄料理を食べたり、水族館に行ったりと、楽しむことができた。二人の時間は減ったけど、こういうのも悪くない。楽しい時間ほど皮肉なほど過ぎるのが早い。花子の分の飛行機も確保し、沖縄を発つ。


「大変でしたけど楽しかったですね沖縄。って美樹さん寝てるんですか」


 飛行機の座席に座ってすぐ寝息を立てる美樹。旅行とはいえ子ども二人連れての遠出は疲れるのだろう。厳密に言うと二人とも子どもじゃないのだが。


「お疲れですね。ここは寝かせといてあげましょう」


 そうだな。そういえばこれから花子はどうするんだ?


「天界にも戻れないんで、そちらにお世話になることになりましたけど?」


 えっそうだったのかよ。でもお前神なんだろ? 天界に神がいなくなるのは一大事なんじゃないか?


「恐らく誰かが代わりにやってますよ。神の仕事自体がブラックでしたからね。真っ白な世界とは裏腹に」


 まじかよ。神も楽じゃないんだな。


「まぁ地上を見下してばかりの世界でしたから、上を見上げる生活も悪くないですよ」


 そういうもんか。何万年もそんな世界で過ごしてたんだもんな。


「それにしても優也さん溺愛されてるじゃないですか」


 まぁ「皐月」の方がな。子どもが出来て人はあんなに変わるもんなんだな。ましてやあの美樹がな。


「へぇ美樹さんて昔はどんな感じだったんですか?」


「話すと長くなるんだけどな」


 俺は美樹がしっかり寝ている所を確認して語り始めた。 




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