エピローグ
前話から1年余りの時が流れました。
「マリーとシャルル、イレーヌが、このまま仲良くなればいいな」
ピエール兄さんは屈託なく言った。
私が家出を止めて、お父さん達の下に帰ってから1年余りが経ち、今日は、ピエール兄さんとアラナ姉さんが、マリーを連れて、お父さん達を訪ねてきている。
私の目の前には(その場には、お父さんも、ピエール兄さんとアラナ姉さん、カサンドラ母さんもいるが)、マリーとシャルル、イレーヌが仲良く過ごしている。
姪のマリーが、私の弟妹の二人より年長なので、お姉ちゃんらしく振舞っているようだ。
私の目の前には、年の近い子どもを介して知り合った2組の夫婦がいるみたいだ。
本当に、私の錯覚かもしれないが、この家族の中で、私は微妙に浮いている感じがする。
「サラ、本当に海軍士官学校に入るつもり」
「同居している時に、アラナ姉さん、空軍学校では、散々いじられたと言ったじゃない。私が空軍士官学校に入ったら、同じ目に遭うのが目に見えているもの。かと言って、陸軍士官学校に入って、お父さんの後を追うのも躊躇われるし。海軍士官学校に入ろうと思うの」
私とアラナ姉さんは会話した。
アラナ姉さんも、私もジャンヌお祖母さん譲りの見事なプロポーションの持ち主だ。
娼館を経営していたカサンドラ母さんの査定によると、
「娘にあの商売をさせるわけにはいかないけれど、あなた達なら、真面目に商売に励めば、体重と同じ重さの金塊以上の収入を30歳までには得られるでしょうね」
と異母姉妹揃って診たてられた。
だから、空軍士官学校時代、アラナ姉さんは、軍用機の操縦席に体、特にオッパイが収まらない、と同じ士官学校生達にいじられまくったらしい。
私も同様の目に遭うのは御免だった。
かと言って、英雄の娘として、陸軍に入るのも御免となると、海軍に入るしかない訳だ。
「別に軍人にならなくてもいいぞ」
お父さんは、そういうが、父も兄も姉も軍人の私が、それ以外の職業に就くのは家族批判をしているように見えて嫌だ。
そういうことから、私は海軍士官への路を歩むことに決めたのだ。
「それにしても、カサンドラと結婚して良かったな」
お父さんは意味深に言う。
お父さんとカサンドラ母さんとの結婚は、お父さんの微妙な醜聞になった。
愛妻を亡くしてすぐに、(義理の)息子の嫁の母親と懇ろになり、妊娠させた。
しかも、その女性は外国人で、外国では娼館を経営していて、かつては自分も客を取っていた。
何でそんな女と結婚するのだ、金目当てか、ということで、お父さんの周囲の高級士官(将官)達は、挙ってお父さんの結婚に反対したらしい。
アラナ姉さんのことを知らなければ、私も同様に想い、反対しただろう。
とは言え、お父さんは、それを押し切ってしまった。
「好きな女と結婚して、どこが悪い」
終にはド・ゴール首相にまでも、そう啖呵を切ったそうだから、お父さんも意固地になったら突っ走るという点では私といい勝負だ。
ともかく、この結婚で、お父さんが生涯、一軍人で終わるのは確定した、と言っても良かった。
救国の英雄となったことで政界転進(具体的には国会議員選挙出馬)の噂が、お父さんには流れており、大政党の公認もお父さんが望めばどこでも受け入れる用意があったようだ。
だが、外国人の、しかもいかがわしい商売をしていた金持ちの女性と結婚した、ということで、お父さんの政界での人気は急落、政界転進の話は潰れてしまった。
とは言え、お父さんにとっては、これが望んだ幸せというものなのだろう、と(私個人としては不満が多々あるが)そう思えてくる。
愛する妻と子と孫に囲まれ、平和な家庭生活を営む。
お父さんは、この歳になって、ようやくそれを掴めたのだろう。
これで完結します。
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