第4話
正直に言って、ピエール兄さんとアラナ姉さんが結婚する直前の頃のことは、私自身の記憶が微妙に曖昧になっている。
何故なら、カテリーナ母さんが子宮がんという死病に侵されてしまったこと、その一方で、ピエール兄さんが結婚するということ、という事態が並行して起こったことから、色々と私自身がバタバタしてしまい、私自身が全く落ち着かない有様だったのだ。
また、全てが一段落した後で私が聞いた話も多々あり、この頃に聞いたのか、全てが一段落した後に聞いたのか、私自身の記憶に自信が持てないことも多々ある。
ともかく、私の記憶に従えば、ピエール兄さんとアラナ姉さんが結婚に至るまでは、次のような経過を辿ったと思う。
お父さんがバレンシアに赴き、カサンドラ母さんを説得して、ピエール兄さんとアラナ姉さんの結婚を承諾させた直後、カテリーナ母さんはお父さんを、アラナ姉さんがお父さんの実子ではないか、と問い詰めて事の真相を知った。
お父さんは、カテリーナ母さんの執拗な追及から、それを認めるしかないと観念して認めたようだ。
でも、父親らしいことをしていない以上、アラナ姉さんが自分を実父と認めるまで、娘と認知するつもりは無い、とカテリーナ母さんにお父さんは言ったそうだ。
そして、この前後にはカテリーナ母さんは入院してしまい、死病の床についた。
ピエール兄さんとアラナ姉さんは、カテリーナ母さんが子宮がんで入院し、死病の床についたことを聞いたことから、カテリーナ母さんが自分達の結婚式に参列できるように、と急いで二人の結婚式を挙げることを決めた。
カサンドラ母さんも、バレンシアから遥々来て、アラナ姉さんの結婚式に参列した。
そして、私も二人の結婚式に当然、参列したのだが、この時に事実上は初めて会ったアラナ姉さんに、私は違和感を覚えてしまった。
上手く言えないが、私はピエール兄さんの妹ではなく、アラナ姉さんの妹として、結婚式に参列しているような錯覚を感じたのだ。
実際問題として、ピエール兄さんとアラナ姉さんが結婚して、私達の家の近くに住むようになった後、私の知人、友人でアラナ姉さんを見た人は挙って言った。
「サラ、どうして実のお姉さんがいることを教えてくれなかったの」
それくらい、顔等はともかくとして、私とアラナ姉さんの体形はよく似ていたのだ。
(もっと細かく言えば、私達の共通の祖母、ジャンヌお祖母さんにというべきだろう。)
そして、ピエール兄さんとアラナ姉さんの結婚式は、無事に済んだ。
私は全く知らなかったが、この時にカテリーナ母さんはアラナ姉さんに、アラナ姉さんがお父さんの実の娘であることを告げたらしい。
私には信じられない話だが、それまでアラナ姉さんは、実の父が誰なのか、カサンドラ母さんから教えられていなかったらしい。
私の感覚だと、自分の本当の両親が誰なのか、子どもなら当然知る権利はあるし、子どもは実親に認知を求める権利が当然あるものだ。
だから、アラナ姉さんが物心ついたら、当然、カサンドラ母さんは、アラナ姉さんに実の父親がアラン・ダヴーであると教えるべきであり、更にアラナ姉さんの認知をカサンドラ母さんはお父さんに求めるべきだった、と私は想うのだが。
こういった点、この頃のカサンドラ母さんは非常識極まりなかったと私は思うのだ。
話を戻すが、カテリーナ母さんを介して、アラナ姉さんは、自分の実父がアラン父さんだと知った。
そして、アラン父さんは、カサンドラ母さんに未練があることも知った。
アラナ姉さんは、お節介にもカテリーナ母さんが亡くなった後、アラン父さんとカサンドラ母さんを結婚させようと画策し、私はそれに巻き込まれてしまった。
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