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第2話

 ようやく、お父さんが、自宅に基本的にいるようになった頃には、私は10歳を過ぎていた。

 そのためにお父さんと私の関係は、親子としては微妙なものになった。

 お父さんは、私を気遣いながら可愛がる有様で、私も、一歩引いた感じでお父さんとは接する関係になってしまった。


 そして、その頃には、ピエール兄さんは、フランス陸軍士官になるために全寮制の学校に入り、自宅にはいなくなっていた。

 とはいえ、ピエール兄さんは、私と違い、幼い頃にお父さんに甘えた経験がある。

 そのため、私よりピエール兄さんの方が、お父さんとの関係がスムーズな有様だった。


 そうこうする内に、お父さんは、いわゆる「1958年の危機」において、名を馳せることになった。

 1958年、アルジェリア独立闘争は、いよいよ佳境を迎えていた。

 アルジェリアの独立を認めるか否か、フランス本国の世論は、ややアルジェリア独立に傾きつつあるとはいえ、アルジェリアの独立は断じて認められないという、いわゆる右翼勢力の主張は極めて強く、アルジェリアに入植していた、いわゆるコロンは、それを後押ししていた。

 そして、それらから支援を受けたアルジェリア駐留のフランス軍は、クーデターを企てたのだ。

 アルジェリアの永久保持を目的として。


 この時、首都防衛軍司令官になっていたお父さんは、その動きを察知すると、即座に声明を出した。

「私は、同名のフランス軍元帥が、ナポレオン1世に忠誠を尽くしたように、フランス現政府に最期まで忠誠を誓う。私と心を同じくするフランスの軍人は同調して声明を出して欲しい」

 この声明を聞いたフランスの中立派の軍人の多くが、お父さんに同調して声明を出した。

「我々もダヴー将軍と同じである。私はフランス現政府に忠誠を誓う」


 お父さんと、フランス皇帝ナポレオン1世に仕えたダヴー元帥との間には、全く血縁は無い。

 だが、ダヴー元帥が、最後までナポレオン1世を裏切らずに忠誠を尽くしたのは、フランス人なら知る人ぞ知る有名な話だ。

 同名の将軍が、そのような声明を積極的に出したことが、クーデター計画を挫折させた最大の要因となったのは間違いなかった。


 中立派の動きを見たクーデター派は腰砕けになり、時の国防相であったド・ゴール将軍は、容赦なくクーデター派を粛清することができた。

 お父さんは、いつでも首都防衛軍を動かせるように準備を整えることで、ド・ゴール将軍を支援した。


 なお、その頃の私は余り知らない話だったが、後から聞いた話では、この頃のお父さんは、インドシナやアルジェリアで数々の武勲を立てており、

「本当にダヴー元帥がフランスの危機を救うために20世紀に生まれ変わってきたのではないか」

 と周囲から目されるほどの軍人だったという。


 それ故、お父さんが、クーデター鎮圧に動いたことを知った軍人の多くが、勝ち馬に乗らねば、とクーデター鎮圧に動いたとのことだった。

 実際、当時、お父さんが直卒していた首都防衛軍は機甲師団3個を有し、お父さんが厳しく指導していたこともあり、欧州でも最精鋭と謳われた部隊だった。

 このため、お父さんがパリから睨みつけただけで、アルジェリア駐留軍の多くが、クーデター派を見限ったという伝説がこの後に流れたのだ。


 考えてみれば、この頃が私のお母さん、カテリーナ母さんが最も幸せを味わえた時だった。

 フランス救国の英雄の妻として、お父さんの横にお母さんが幸せな顔をして寄り添っていたのを、私は覚えている。


 でも、神様はとても残酷だった。

 カテリーナ母さんには、死神、病魔が知らぬ間に忍び寄っていたのだ。

 私やお父さんどころか、カテリーナ母さん本人が知った時は、もう手遅れになっていた。

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