見知らぬ老人
「結婚しよう!」
付き合って、3年が経った今、プロポーズをされ、勿論、私は、2つ返事をした。
「よろしくお願いします」
彼のうれしそうな顔。
私もうれしそうな顔で微笑んだ。
幸せな時間が流れていた。
翌日の朝、彼との結婚生活が始まった。
同棲は、1年前に、彼が突然、言い出し、
「一緒に暮らさない?」
「え?」
「嫌だ?」
彼が言った言葉に首を横に振った。
すると、彼は、私を強く抱き締めた。
そんな幸せは、突然切れることになる。
いつも通り、朝起き、支度をする彼。
「コーヒー、入れたよ」
「ありがとう」
そう言い、口にコーヒーを運び、喉に通す。
コーヒーを飲み干し、一滴も残っていないことを確かめ、口を吹く。
ネクタイを確認して、
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
玄関のところで、見送る。
彼は、ドアの取っ手を持つが、1度離し、私の顔を見る。
「どうしたの?」
彼の唇が、私の唇に触れた。
「行ってきます」
微笑みながら、家を出て行く。
「行ってらっしゃい」
手を振る彼。
何も変わらない朝だった。
しかし…
私は、仕事を終え、家に帰宅し、夕飯の支度をし始めた。
いつもだったら、18時くらいに連絡が来る。
でも、夕飯の支度を終えた19時になっても、連絡が来なかった。
「今日、遅いのかな?」
もう一度、スマホを手に取り、見る。
何もこない。
「どうしたんだろう…」
テーブルの上に夕飯を用意して、彼を待った。
まだ、連絡が来なかった。
「まだかな?」
暗い画面のスマホが光った。
「来た!」
…
違った。ただの通販からのメールがだった。
…
リビングのソファーに行き、テレビを付けた。
21時からのドラマを見終えても、彼からの連絡は一向に来なかった。
…
お風呂に入ってる時に帰って来るかもしれないと思い、取り敢えず、お風呂に入り、髪をドライヤーで乾かし…
連絡は来ていなかった。
「何か、あったのかな?」
不安が出て来る。
結局、その日から、彼からの連絡も家に帰って来ることもなかった。
いつも通り、微笑みながら、私に手を振り、仕事に行った彼。
どうしたんだろう…何か、あったのかな?
それから、1週間が経った。
彼は、帰って来ない。
どうしてだろうか。
警察署に行き、事情を話した。
だけど…
動いてくれるはずもなかった。
忙しいのだろうか。それでも、連絡くらい…
彼は、もし、急に、残業になったりしたら、連絡をくれる。
先に寝てていいよ、とか、ごめん!今日、ご飯はいいや、とか。
スマホが光る度、なる度に、彼かと思う。
しかし…違う。
どこにいるの?何をしてるの?
さらに、半年が経った。
警察署に、事情を話した。
流石に、警察も動いてくれた。
それでも、彼は、見つからなかった。
それから、2週間。
家の近くの公園で、男の人の遺体が埋まっていたという情報を聞く。
私は、急いで走って家を出て、髪型とか服装を気にもせず、ただひたすらに、走った。
その場に行くと、警察が沢山いた。
「すいません!すいません!」
人集りのところへ行き、人を避ける。
しかし、目の前の遺体の人は、彼ではなかった。
全く知らない人で、その人は、職に就いていなく、ニートで、一人暮らしをしていたらしい。
彼女だろうか。
涙を流しながら、座り込んだ女の人。
肌が白くて、髪は、少し茶色が入っており、見た目がさらさらとしている。
警察の人が彼女を連れて行き、落ち着かせようとしている。
彼でなかったことに、私は、安心した。
息を吐き、家にゆっくりと歩きながら帰った。
その帰っている途中の道で、一人の老人が、私に声をかけて来た。
「ここに、行きたいんだけど、どうに行ったらいいのかね?」
「…」
老人は、私に、地図を見せる。
「ここは…そこの通りを右に行って、暫く真っ直ぐ行って…」
道案内をした。
「ありがとう」
そうその老人は言い、ゆっくりとお辞儀をして、微笑む。
ゆっくりとその老人は、その場を去って行った。
暫く、その姿を見届けた後、遠くのほうに薄っすらとだんだんと消えて行く。
はーぁ
息を吐く。
そして、空を見上げた。
広くて、青くて…心が少し、柔んだ。
君は、一体、どこにいるの?
そう思いながら、目を閉じ、一度、深呼吸をした。
それから、目を開いた時、風は吹いた。
私は、君を探す。