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セイクリッド・カース  作者: 気高虚郎
第5章:作戦準備
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第54話:手向け

※ ※  ※   アリアンナ邸 劇場  ※  ※  ※




「ではこれより儀式を執り行います。この円の中でプリンセスを愛する者たちが戦うのです。最後まで残った者が最も愛する者となるのです。」


舞台上で仰々しい格好をした魔術師役が喋る。

会場はバルベリス、フィリップ、チンピラ達、さらには雇われた旅芸人や吟遊詩人までが席について満員御礼だ。


「プリンセスよ。あなたを最も愛しているのはこの私です。この儀式に生き残り、それを証明しましょう。」


「いえ、私こそがプリンセスを最も愛している。私こそが最後に円に残る者だ。」


「引っ込むがいい、三下ども。プリンセスを最も愛しているのはこの俺だ。」


次々と鎧を着た騎士役たちが小道具の剣を掲げて前へと踊り出す。

現在、上演されているのは喜劇“愛の坩堝”。美しいプリンセスのハートを射止める為に騎士達が争うという物語だ。


「ではこのリボンちゃんにも儀式に参加してもらいましょう。」


そう言って派手なドレスを着たプリンセス役は人など簡単に噛み殺せそうな大型犬と共に、壇上へと現れるのであった。


「ひいいいいいい!」


間抜けな悲鳴を上げて騎士役は円から逃げ出し、会場は笑いに包まれた。

おまけに音楽団によるバックミュージックに、曲芸師の花火による演出つき。

なんと豪華な劇だ。





「うわはははははは!」


バルベリスは楽しそうに笑っている。

彼にとって問題は解決したも同然で、今は宴の最中。笑いを妨げる理由などない。


「この短期間で良くここまで…。“春の陽だまり”よ、見事です。」


座席で観劇中のフィリップも鼻が高い。

こんなにも素晴らしい劇団を育てる事が出来たのだから。


「爺さんの知り合いなのか?あの劇団。」


隣の席に座っていたバズラが上演中だというのに話しかけてくる。

実に不作法だが、感極まっている今なら答えずにはいられない。


「私が立ち上げた劇団なんです。旦那様が私の望むような劇団を作れと援助をしてくださりまして…。この“愛の坩堝”も私が台本を書いたのですよ。」


「なるほどな。昨日、都で宴を盛り上げる連中を集めてたんだが、あの劇団が真っ先に名乗りをあげたのはそういう理由があったのか。」


フィリップがかつては役者だったという話は聞いていた。

しかし、自分の劇団があって台本まで書いていたとは。


「バズラ様は昨日、都に来られていたのですか?」


「ああ、この宴を開くために旅芸人や料理人とか集めてたんだ。」


どうして突然こんな宴を開いたのかという疑問はあるが、今は観劇の時間だ。

“愛の坩堝”は山場に差し掛かり、音楽団による演奏によって劇場は盛り上がっていた。






「会場の皆様!ご観覧いただき、ありがとうございます!」


舞台が終わり、劇団員たち全員で壇上に並んだ。

伯爵、チンピラ達、旅芸人や吟遊詩人。会場を満たす観衆は完成と拍手で答えるのだった。


「見事でした…。」


フィリップは耐えきれずに目頭を抑えた。

諦めざる負えなかった夢がこんな形で花開いていた。

今になってようやくその事に気づけた。自分の夢は潰えてなどいなかった。


「どうだ、俺らが開いた宴は。」


バズラは涙を流すフィリップに話しかけた。

そろそろ頃合いだろう。


「素晴らしいです。最初は面食らいましたが、奥様が亡くなる前の賑やかな日々の屋敷を思い出させていただきました。」


アリアンナ邸ではパーティーがいつも開かれていた。

しかし一族に安寧をもたらしてくれた奥方が亡くなってからはすっかり廃墟のようになってしまった。

使用人たちは次々と去り、残ったのは自分だけ。

チンピラ達は内装など気にする連中ではなかったのでどんどんと荒れ果てた。

だが今回、彼らは拙くも掃除をして宴の様相を整えてくれた。

しかもフィリップの助けなしで。この心遣いを喜ばない者はいないだろう。


「良かった。この宴は俺たちからの手向けなんだ。」


「手向け?」


この宴のためにバズラは仲間たちからかき集めた金目の物を売り捌き、銀行に預けてた財産もおろした。

チンピラ達が持てる全てを投じて行われたフィリップへの感謝だったのだ。


「良く聞いてくれ。」


割れんばかりの拍手が鳴り響く中、バズラは全てを話すのだった。






「どうしてその事を…?」


「夕方にはボスに報告するつもりだ。上手い言い訳があったらここに書いてくれ。内容によってはその通りに伝える。」


そういってバズラは白紙の文書とペンを渡した。

これが最後の力添えだ。


「屋敷の裏で馬車が待ってる。あんたはもう十分、アリアンナ家のために生きた。御者には5人は載れる馬車を用意させたし、地の果てまで届けてやれるぐらいの金は渡してある。お嬢様や友達と新しい人生を生きてくれ。俺たちはボスと一緒に地獄に堕ちる。」


フィリップは紙とペンを受け取ると一心不乱に書き出した。

内容に気を付けねば。この文章に多くの運命がかかっている。




※※ ※ アリアンナ邸  裏門 ※ ※ ※




「どうしてこんなことになったんだろう…。」


馬車に乗った若者は悔いていた。

馬が大好きで、都に来て辻馬車を営んでいたが祭りでの告白が失敗して自暴自棄になってどんな仕事も受けると言った。

そして昨日、酒場の店主に緊急の大仕事を紹介された。


「逃がし屋…。しかも領主様から逃げるなんて…。」


仕事相手はバズラという怖そうな大男。都で一番デカい馬車を買うように言われ、さらには伯爵に追われる身になるから仕事を止めて家も引き払え、と脅されて今はアリアンナ邸の裏で逃亡者である老人を待っているところだ。

確かに報酬は凄いが、アリアンナ家の領地に二度と入れなくなる事は確実である。

あまりに大きな代償を払うことになってしまった。


「僕はどうすれば…。」


「あなたが御者さんですね!?都に向かって下さい!」


困惑する若者に老人が声をかけた。その焦った表情から彼で間違いないだろう。

荷物の回収か、家族を拾うのか。要件は知らないがまずは都だ。


「は、はい!全速力で飛ばします!」


未来を思い悩むのは後。

まずは目の前の仕事だ。若者は馬に鞭を入れて、馬車を走らせるのだった。


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