第48話:新たな踊り
※ ※ ※ 修練場 ※ ※ ※
「よし…。」
ロスーは馬上で息を整えた。
特訓の成果を見せる時だ。
「行け!」
意を決して馬を走らせる。
ぶれる視界。揺れる身体。
しかし普段の鍛錬、そしてここ5日間の特訓が自らの姿勢を即座に安定へと導く。
人馬一体となり、背筋が伸ばして弓に矢をつがえ、的を狙う。
「よし!」
用意された的のど真ん中にロスーの矢が当たった。
次の的にも、その次の的にも。コース上の5つの的全てのど真ん中を射抜くのであった。
「見事だ!」
団長がロスーを拍手で歓迎した。
馬術も弓術もこの修行で一気に上達した。
「特訓の甲斐がありました!これで魔王の体に矢を突き刺してやれます!」
「この技を見せる場が来ないことが一番だがな。」
この技が必要とされる時。
それは騎士達が途方もない怪物に立ち向かわなければいけない時だ。
犠牲者が出るのは確実だろう。そう思うと団長は手放しには喜べなかった。
「団長、俺の成果も見てください!」
トランが大声を出して団長に呼びかける。
自信満々のようだ。
「行きますよ!」
トランは2つの的を前方に見据え、その間に立って水平に弓を構えた。
そして2本の矢を同時に弓で引き絞る。
2本の矢はそれぞれ左右斜めに放たれ、2つの的に命中するのであった。
「やったー!」
成功を喜び合うトランと仲間たち。
しかし団長の反応は違うようだ。
「曲芸ではないか!実戦で役に立たないだろ!」
「で、でも一度に2つの標的を射抜けるんですよ!?」
確かにそれは強い。
相手が先ほどの的のように並んでくれていればの話だが。
「相棒のロスーのように真面目に修行をしないか!馬に関してはさっぱりじゃないか!」
「でしたら馬には2人乗りにして、ロスーが馬を駆って俺は弓矢で…!」
「そんな余裕があるか!普段から真面目に修練をしとらんからお前は…!」
団長がトランに説教をしている中、他の騎士達は見入っていた。
「お前たちも修行に…。」
そして団長も言葉を失った。
その姿を見て魅入られぬ者はいないだろう。
それは修行にも、試合にも見えない。
重力から解放された踊りだ。
「いかがですか、便利屋殿?」
「まだまだいけます。」
マデリーンが便利屋に技をかける度にその舞踊が披露される。
手首を捩じれば、側転で体勢を戻す。
突き飛ばせば、受け身をとって転がる。
投げ飛ばせば、宙で体勢を戻して鮮やかに着地する。
ダンサーが扱うバトンのように、マデリーンによって彼は踊る。
新たなジャンルの芸術が作られたかのようだ。
ついに30本の勝負を全て無傷で乗り越え、マデリーンは感嘆の表情を見せた。
「素晴らしい。」
「ありがとうございます。」
便利屋は流れを捉え、彼女のかける技を蝶のような鮮やかさで回避し、受け流し、舞い、無傷で切り抜けた。
5日間でこの上達。これまでの人生でマデリーンは見た事が無い。なんという才覚。
「これから経絡を捉える修行に移りましょう。流れを把握した今のあなたならきっと出来るはず。」
さあ、ここからが本番だ。




