発端
ブラウン管から端整な顔立ちをした金髪の男が俺に語りかける。
「君がこの映像を見ているということは、私は殺されてしまったのだろう。その体で話を進めさせてもらう」
どこかで見た顔だ。
「私が難民キャンプで見つけたその子は強大な力を持つ子だった。その強大さ故に孤立し、無垢であるがために危うさも秘めていた。」
まどろっこしい喋り方をする奴だ。その雰囲気から大層なご身分なんだろう。
「私は彼を正しい道へと導くために彼を教育することを決意した。そうでもしないと彼が我々の脅威になり得ると感じたからだ。今、この映像が流れているということは、私の考えは間違っていなかったのだろう。だが、それと同時に事態は深刻な方向に向かっていることも確かだ」
この退屈なビデオを今にも消してやりたいところだが、これといって特にすることがない。最後までこの男の戯言に付き合ってやろう。良い暇つぶしにはなるだろう。
「今の彼は弱冠13歳の少年だが、その肉体は一般的な成人男性を凌駕し、知能指数も高い。彼の能力はそういったモノ全てに影響し、際限がない。そして、恐ろしいことに彼の思考や思想もその能力の例外ではないのだ。彼がどういった生い立ちなのかは私にも分からない。彼はこの世に生を享けた時から独りだったのだろう。今の世の中ではそれも珍しいことではないが、そういった子供たちのこの世界に対する憎悪は測り知れないだろう」
駄目だ。全く興味がそそられないどころか、この男の言っていることもさっぱり分からない。俺は手元にあったリモコンを手に取ると、電源ボタンを親指で押す。
「前置きが長くなってしまったが本題に入ろう」
どうやらリモコンの電池が切れているようだ。そういえば、これも長らく使っていなかった。私はボロボロになったソファから腰を上げると、プレーヤー本体に手を伸ばした。
「君のことは知っている。君の国で神の能力が散らばり、その奪い合いがあった時、その内の一つを手にした少年、確か雷童と呼ばれていたな、彼に妻を殺された君はその復讐に燃えた。しかし、不運にも後僅かのところでそれは達成されなかった。完全に雷童を追い詰めていたのにだ」
なぜ、知っている。あの場には誰もいなかったはずだ。俺の手はこの映像を流すプレーヤーに伸ばされたまま固まってしまった。
「おかしいと思わなかったか。あの時、君は周到に準備していたし、タイミングも間違っていなかった。それにも関わらず、君は雷童殺害に失敗した」
手がいつの間にか震えていた。俺はその場に腰を下ろすと顔を伏せた。
「神の能力は人々を有益にさせるモノばかりではない。勿論、それは考え方次第ではあるが、君が目的を成し遂げられなかったのは神の能力によるものだ」
目の前の男が何を言っているのか分からない。その言葉自体は情報として頭に入ってきているが、それをどう処理して良いのかがさっぱり分からない。
「君の能力を今打ち明けることはできないが、私の考えでは君の能力をもってすれば彼に対抗できるのだ。君に彼を消してもらいたい。彼の名はインフィニティ、私を殺した男だ」
プレーヤーの中から機械音が聞こえ、映像が静止した。ブラウン管の画面はテレビ放送に切り替わる。
「……を知った各地で暴動が起こっています」
何か大きな事件があったらしい。画面に目をやると、そこにはさっきまで俺に語りかけていた男の顔が映し出されていた。
「マシュー氏に一体何があったのでしょうか。何者かによって殺害されたという情報も入ってきていますが、真相は不明です」
俺が画面に釘付けになっていると部屋の窓ガラスが割れる。そして、外からは人々の悲痛な叫びが入り混じった騒音が聞こえてきた。
頑張ります