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チェイン・オブ  作者: ドM伯爵
プロローグ
1/7

天使マシュー

すごく久しぶりです。

 黒い雲が延々と立ち込める。この光景が終わりを告げはしないだろう。私はこのガスと水蒸気が入り混じった塊を突っ切ることにする。

 産業廃棄物を燃やした時に発する独特な臭いが眼の奥を刺激する。重機がぶつかり合う音が聞こえてくると同時に、このスモッグを突き抜けられた。

 もはや人間か機械なのか見分けのつかない者たちが忙しなく働いている。今世紀は終わりに差し掛かっているのにヒトのすることは数百年前となんら変わらない。私の姿に気がつく者もいるが気にもとめていないようだ。

 光化学スモッグを排出し続けるこの地帯を旋回していると、建物の雰囲気が周りと少し違う区画が目に付いた。無計画に成長していった建物群の中に浮かぶその建造物はピラミッドを連想させる構造だった。そこにいる連中も労働者のそれと違い、人間の持つ気持ち悪さを含んでいた。その格好もとても動きやすいとはいえない代物だ。この一帯から排出されるスモッグだけ色が少し薄い。臭いも他とは違うようだ。この鼻を突き刺すような臭いは人間を焼いたときに生じるものだ。

 私は白い翼を大きく広げると、そのまま降下していった。


 翼を僅かに折りたたみ、そこを歩く黒装束達の足元をかすめていく。体を左右に回転させることで翼が当たることは避けているが、私が勢いよく通り過ぎていくことで起きる風の衝撃で皆壁まで吹き飛ばされていった。しかし、それでも、ここの連中もまた私を気にとめる素振りは見せなかった。動きや素振りは人間そのものなのに、個々に自我や感情といったモノが感じ取れないのだ。

 通路から飛び出て開けた場所に入る。そこはフロアー全体が大きな穴の様で、いくつもの死体が無造作に積まれていた。どれも黒く焦げて性別の区別すらつかないが、その表情からは苦しみもがいて死んでいったことが伺えた。この建物上空にのみ立ち込めるスモッグはここから発せられているようだ。

 死体の山を通過すると、この建物には比較的似つかわしくない鋼鉄製の頑丈な壁に囲まれた一室に入っていた。私はそこで翼を折りたたむと床の上に立ち、辺りを見回した。

 どこからか蒸気の噴出す音が聞こえてくると警報機が鳴り響いた。床は振るえ始め、壁が徐々にこちらに迫る。私は少しの助走をつけると、そのまま部屋の奥に飛び込んだ。

 部屋の奥は狭い空間が煙突のように縦に伸びていた。天井からは微かに外の光が差し込んでいる。その下には屈強な肉体をした男が手足を鎖に縛られ、顔も野獣のように鉄製のマスクで覆われている。

 意識はあるようだが反応が薄い。この肉体からして衰弱しているとも考えにくい。単に気力をなくしているだけだろう。


「痕が残るかもしれないが、大した問題ではなかろう」


 私は彼を縛りつける鋼鉄に熱を送る。黒く存在感を放っていたそれは白く変色し、亀裂が生じ始めると真っ赤に光り始めた。熱で変形した鋼鉄が彼の腕に当たり、皮膚が焼ける音がする。しかし、彼は顔を歪めもせず、ただ目の前をみつめていた。

 私が鋼鉄を捻じり切って彼を解放すると、彼はそのまま身体を赤子のように小さく丸めた。その腕と足首の数箇所は熱でただれている。私は彼を抱きかかえると、天井目掛けて飛び立った。

 迫りくる壁をかすめていくと、天井の鉄格子が目に入ってくる。私は手を頭上に掲げ、勢いそのままに鉄格子に手を着けた。鉄格子は瞬く間に変色し、そのまま宙に吹き飛んでいった。

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