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一航艦 旗艦 「赤城」 被弾

敵機動部隊が、一航艦に向け攻撃隊を出撃させた時点で日本側の先手必勝は崩れておりましたが、日本海軍全体に蔓延する敵へのおごりと油断はそれを想定できず大きな窮地に陥ります。

そしてその対策も準備もない者達に奇跡は起こりえず、逆に大きな代償を支払うことになります。

「加賀」に続き一航艦旗艦「赤城」にもその矛先が向けられます。

午前10:30「赤城」 被弾

白根隊の奇襲攻撃により編隊がばらばらになってしまったギャラハー大尉率いる第六哨戒機中隊であったが、事前の計画どおりベスト大尉の第六爆撃中隊とは別の大型空母を攻撃するべくベスト大尉が向かった「加賀」の右方向にいた一航艦旗艦「赤城」を攻撃目標にする様残存機に指示すると、自身も「MAKE IT BIG ONE!」と大声で怒鳴ると操縦稈を倒し急降下を開始した。

「敵降爆 艦尾方向より突っ込んでくる!」「撃て 撃て!」の複数の絶叫と25㎜高角機銃の盛大な射撃音が重なるなか、予備艦橋で指揮を執る掌航海士が咄嗟に「青青!」(緊急右45度一斉回頭の意 艦隊用語で個艦では通常は使用しない)「両舷前進原速黒赤なし」と操舵室および機関科への伝声管に大声で叫ぶ!

航海兵が間髪いれずにエンジンテレグラフの発信機を操作し「原速」に合わせ独特の操作音と警告音が響いた。

これは最大戦速のままでは回頭開始が遅くなるのと回頭半径が大きくなる為、速力を落とし回頭性を高めようとする処置であり、敵が波状攻撃でない場合タイミングが適切であれば攻撃回避の可能性を高める有効な手段である。

しかし敵艦爆は至近に迫っており間に合うかどうか際どい判断であった。

上空の爆撃隊先頭のベスト大尉機は急降下爆撃の理想とされる「赤城」の艦尾方向から高度は二千とやや低いが降下角70度で機首の機銃を撃ちながら飛行甲板中央目がけ突っ込んできて高度300mで1000ポンド爆弾を投弾、引き起こしていく。

これを「赤城」艦上で見ていた増田飛行長は 「こいつはプロだ!これは避け切れない当たるぞ!」と敵機の急降下してくる爆音と爆弾落下時の神経を逆なでする金切音が大きくなるなか艦橋左舷のポケットに飛び込み命中の衝撃に耐える様手すりに掴まり両足を踏ん張り呼吸を止めた。

次の瞬間 1000ポンド爆弾は狙い過たず中央リフト後方付近に鈍い衝撃音を残し飛行甲板と上部格納庫をぶち抜くと中部格納庫甲板で遅動信管を作動させ炸裂した。1000ポンド爆弾の凄まじい爆風は防火鎧戸を突き破り中央リフトに押し寄せ本来ならリフトを跳ね飛ばし上空に爆発エネルギーを放出するところ、爆弾命中時の衝撃によりリフトが台座からはずれ、ずれたまま固定されてしまい逃げ場を失った爆炎は密閉された上部中部下部の格納庫内に逆流席巻し残置してあった第四次攻撃隊第二波の零戦、九九艦上爆撃機数機を瞬時に吹き飛ばし誘爆炎上させた。

さらにその爆風は巨大な旋風となり上部格納庫天井部の飛行甲板を丘の様に盛り上げると上部格納庫右側面壁上部の飛行甲板との継ぎ目あたりの脆弱な部分を一気に突き破り爆風を艦外に噴出させた。

ちょうどその場所は重量20㎏もの弾丸を毎分約15発の勢いで連続射撃中であった四十五口径十年式十二糎連装高角砲A2型を防煙用の囲いを施した第三高角砲座あたりで台座ごと大音響とともに海面へ乗組員共々吹き飛ばした。

この命中弾により飛行甲板右舷中央部がささくれだった小さな丘の様に盛り上りその付近の大小無数の破孔から盛大な黒煙を吹き出し空母としての機能が失われたことは誰の目にもあきらであった。

続く第二から第六弾は左右両舷への至近弾となり巨大な水柱を発生させた。その中でも超至近で炸裂したものは、喫水線下ではその爆圧により舷側装甲を大きくたわませ、または破孔をあけ浸水・漏水を発生させた。喫水線上では舷側の機銃、高角砲を巨大な水柱で突き上げ張り出しスポンソンごと吹き飛ばした。

この被害は後日の戦訓研究会でも大きく取り上げられ、爆弾の直撃弾による被害だけではなく、その爆発時に周囲に飛散する大量のスプリンター(弾片)への防御対応であった。

このスプリンターは一個一個は小さなものだが、その無数にもおよぶ数と激烈なスピードは水中水上を問わず舷側の装甲を貫通し無数の小さな破孔を穿ち喫水線下では浸水を引き起こし、空母艦上では飛行甲板を下側から貫通し飛行甲板に張られた木材をささくれ立たせ飛行作業を不可能にしたうえ、高角砲や機銃の側に山積みしていた弾薬等を誘爆させ対空火器、飛行甲板要員を殺傷させた。飛行甲板上にはその残骸や人体の一部が散乱する直撃弾以上とも思える程の大きな被害をもたらした。

日本海軍でもスプリンター(弾片)の脅威は認識しており、乗組員のハンモックを固く巻いてマントレットとして、このスプリンター(弾片)対策としていたが至近で炸裂する大型爆弾の弾片防御にどれだけの効果があったかは疑問であった。

そして第七弾目が飛行甲板左舷後部の「ア」と描かれた「赤城」を示す識別記号あたりに命中し短艇格納庫で爆発し搭載していた燃料等に引火し大火災を発生させ、隣接する後部格納庫も爆弾炸裂による大量の破片や爆風により予備航空機等が破壊され火災が発生、死傷者多数の大損害となった。

また中央格納庫内での零戦、九九艦上爆撃機の誘爆により発生した煙や有毒ガスが通気口や給気孔を通じて他の無傷な区画に流れ出し乗組員達が酸欠やガス中毒によりばたばたと倒れていった。

元は戦艦の基本設計である「赤城」は装甲防御甲板が機関室までの被爆による物理的な被害は食い止めており、機関等は一三三,〇〇〇馬力の全力発揮が可能な状態であった。

しかし時間が経過するにつれ機関区画にまでその熱気や煙(毒性ガス)が充満していき防毒面等の装備を装着しても意識を失う者が続出し第五・第六缶室に配置されたロ号艦本式小型重油専焼缶八基、および技本式高低圧タービン四組のうち、前部機械室の二組及び五号・六号発電機室より一時兵員の退去が命ぜられ戦闘航行、応急復旧作業も危ぶまれる事態となった。

この煙(毒性ガス)の発生源は爆弾命中や誘爆の爆発による火災だけでなくその火災が艦内に塗られた可燃性塗料つまりペンキに引火したものであり、「ペンキがこんなにも燃えるものなのか?」と消火に従事した者達はその光景を口々にしている。

またそれと同じく驚かされたものが艦内に張り巡らされた電纜(電線)がその被覆(当時は耐水性の油紙が多く用いられていた)ごと燃えだし隔壁に関係なく電線伝いに延焼していく事であり、備品の机や棚、木箱が燃えるのは理解できてもペンキや電線などが火災延焼の大きな要因になるとは、その場に居合わせその恐怖を感じた者でないとわからないことであった。

しかしこの様な最悪な状態のなかでも、先の艦橋へのB26突入の際に応急対策で指揮を揮った土橋運用長と掌運用長の近藤特務少尉は今回も運よく被爆に巻き込まれずに、すぐに被弾した中央部と後部でそれぞれ役割分担して「消火栓全開」「火を消せ誘爆を防げ」「残存機の投棄を急げ」と顔を真っ赤にして叫びながら乗組員、整備員、航空兵とともにこれ以上の被害の拡大を防ぐべく応急防御戦に奮闘していた。



少しづつですが書きつづけたいと思います。

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