前方上方敵機急降下
午前6:15第一次攻撃隊ミッドウェー島まで30浬上空
そんな緊張感に欠けた司令部だが、矢面に立たされる第一次攻撃隊は不安と緊張のなかミッドウェー島への攻撃を開始する。
とくに総指揮官友永隊長はいつになく緊張していた。
なぜなら彼は今回の作戦参加が練習航空隊からの転属以来しばらくぶりの実戦であったからである。
復帰戦が大舞台となった友永大尉に戦争は容赦なく過酷な試練を与える。
前日には攻略部隊が爆撃を受け今朝も進撃途中から米哨戒機の接触を受け続け、ミッドウェー島への空襲は強襲しか選択肢がないなか敵の要撃に臨機応変に対応するには最近の航空戦についてどこまで理解していたのか疑問が残る。
そんな中戦闘は米軍の奇襲から始まった。
いつの戦場にも齟齬はつき物だが、進撃中に制空隊の二個中隊が勢い余って同士討ち一歩手前の騒動で攻撃隊が先行し制空隊との連携が取れなくなった隙を米機に襲われ、なんたることか友永隊長機が被弾し僚機二機が撃墜されるという事態が発生した。
その時の状況を友永隊長機に偵察員として搭乗していた橋本大尉はふり返る。
「前方上方敵機急降下 突っ込んでくるぞ!」友永隊長の声が操縦席から聞こえた次の瞬間軽い衝撃を受けた。そして敵機が物凄い勢いで左側を後方下方にすり抜けていくが動きが早すぎて全くついていけない。
「直援機は何してやがる!」毒づきながら必死に敵機を追うが視界には被弾炎上しながら編隊から後落していく三番機の姿が目に入る。
「児島二飛曹頑張れ!あきらめるな!」と同郷の後輩の名を叫ぶが機内は火災が発生しておりその赤黒い焔を消そうともがいている搭乗員達の姿が見え思わず自分が焼かれている様な気分になる。
「なんとか火を消して生き延びてくれ」とその可能性が奇跡よりも少ない事を知っていても心の中で祈らずにはいられない。
その間に友永隊長はベテランらしく無駄のない操作で被弾した左側胴体側の主タンクからの燃料使用に切り替え発火の危険を減少させる処置をとった。
「全周警戒よく見張れ」と伝声菅で電信員兼後方機銃手の村井一兵曹を叱咤するが半分は自分に対してだ。
村井一兵曹からは「はい!」としっかりした落ち着いた返事が返ってくる真珠湾攻撃にも参加しているベテランで頼もしい。その声を聞いて自分も落ち着きを取り戻した。
もう見えなくなった三番機の状況を確かめたいが何とか自制し敵の第二撃に備え見張りを必死に行うが敵機は見当たらない。
「私たちの乗機も左翼に被弾し燃料が漏れ出していて今思えば大変恐ろしい状況でしたが、逆に命拾いした分撃墜されたやつらの分までミッドウェー島への爆撃を絶対に成功させてやる」と考えていました。
今でこそ防弾や装甲板などの防御装備の有無が話題となりますが当時は全くその様な事を論じる風潮はなく
そんなものあっても無くてもやられる時はやられると簡単に考えていたものでした。
そのころ何かの機会に陸軍の空中勤務者(操縦士)から陸さんの機体は防弾板とか防御燃料タンクを装備していると聞きましたがそんなものを装備させられ飛行性能が悪くなって大変だなと思っていました。
でもそんなことより
いつも冷静沈着な児島二飛曹の最期がたまたま運が悪く敵弾に当たってしまったことであり戦場では技量よりも運のあるなしを強く感じたものでした。
被弾するかもしれないと防御装備(重量)する位なら、正面性能を上げる為攻撃装備(重量軽減)をした方が前向きだと考えるのはよくある話だし理屈は通る。
しかし現実は理屈通りにいかない事の方が多いのだ。
そして大きな損害を負ってはじめてその現実に驚愕し、リスクに備え真剣に向き合う様になる。
プライドの高い日本海軍航空部隊はまだまだ大きな代償を払わなくては現実に向き合えないのだ。