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湖面の月  作者: 山田ビリー
湖面の月
9/38

2-5.

「舞踏会が開催されるよ。」


葡萄かい?いやいや舞踏会ね。舞踏会……

「それって私も参加しなければ駄目ですか?」

「当たり前でしょ。むしろ君がメインだから。」

ディディエお兄様は容赦がなかった。正直不安しかない。

「大丈夫。君は、そうですね。よろしく。ごきげんよう。だけ言えばいいから。ダンスもあるよ。お酒は飲まないでね。私と兄上は忙しいし、ヨハンナは裏方でノヴァは警備だから、一人で頑張って。あ、謁見の間の時みたいに滑らないでね。」

滑ってないし!


舞踏会に向けてヨハンナとノヴァは忙しいらしく、私は放っておかれがちになった。暇に任せて人目を盗み、城内を散策することにした。どうせなら厨房とかに行ってみたい。


『いよいよディアナ様もお輿入れね。』

若い女中(メイド)達の声だ。疚しいこともないのに、思わず身を隠してしまう。

『先方に見初められたんでしょう?羨ましいわ。』

『でもノヴァ=ヘルツォーク殿とは別れないといけないのよ。本人はお辛いのでは?』

『もともと身分違いよ。いつか別れが来るのは分かっておられたでしょう。』

『あんなに仲睦まじい様子でしたのに。悲恋ね。お可哀想に。』

『先日はお二人で遠乗りに行かれたのでしょう。思い出作りかもね。』

そのまま声は遠ざかっていった。


……今のはどういう意味だろう。ディアナ様の恋人はノヴァだった?でもディアナ様は駆け落ちしたのでは?駆け落ちが嘘だったということか。あるいはノヴァは恋人の隠れ蓑か。そもそも何故ディディエお兄様は駆け落ちと言ったんだ。

少なくとも、ノヴァは何か知って隠している。或いは嘘をついている。

彼は一体何を考えている?


誰にも相談できないまま悶々としていたら、あっという間に舞踏会当日になってしまった。ノヴァとはあれからまともに顔を合わせていない。いかん、目の前に集中しなければ。

「緊張してる?大丈夫。失敗しても、傷付くのはディアナの名前だから。」

鬼か!精神的重圧が益々増した。久々に胃が痛い。

「ディディエ殿下、並びにディアナ殿下、ご入場です。」

一斉に注目を集めながら、ディディエお兄様のエスコートで会場に入る。私はボロが出ないよう、精一杯澄ました顔で歩く。

私たちは王家では一番格下のため、一族では最初に入場する。最後に両陛下が会場に入れば、舞踏会の

始まりだ。国王陛下のご挨拶に皆耳をすませる。

「皆よく来てくれた。今日集まってもらったのは、我が娘ディアナが隣国ネーブルの王太子との結婚を控え、いよいよネーブルに立つことになったからだ。」

なんだって!?

聞いてない!まさか私がこのままネーブルに行くのか?

「結婚式は2か月後だ。これを機に、我が国と隣国は益々仲を深め、大いに発展するだろう。めでたい席だ。皆楽しむように。」


舞踏会の間中心ここにあらずだったのに、大した失敗も無かったのは幸運だった。いや、ダンスで兄上達の足を何度か踏んだような気もする。こんな状況で華麗にクルクル回れる人がいれば教えてほしい。誰かに話しかけられても条件反射の受け答えしかしていない様に思う。

精神的疲労に限界を感じて、宴もたけなわの中早々に退出させてもらった。ドレスのままベッドに倒れこむ。


「ディアナ、もう寝たかい?」

ノックもなしに扉が開いた。諸悪の根源ディディエお兄様。

「……どういうことですか?」

「足なら大丈夫。散々踏まれたけど、折れてはいないから。体重軽いんだね。よかったね。」

「違います!ネーブルに行くって…もともと結婚するまでというお約束のはずです。隣国に行くなんて聞いてない!」

「準備期間ってことで来てほしいって言われたんだ。結婚式まではまだ2か月あるからね。結婚式までってことで、当初の約束通りだと思うけど。ずっとスウォルツなんて言ってないよね。」

「だからって……ディアナ様はまだ見つからないんですか?本当に探してるんですよね?」

「勿論だよ。今日は疲れたでしょう。今着替えに誰かを呼ぶから待ってて。」


「私、本当に村に帰れるんですよね。」

ディディエお兄様はにっこり笑った。その目は少しも笑っていなかった。

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