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湖面の月  作者: 山田ビリー
湖面の月
7/38

2-3.

退屈な日々が始まった。


今の私の身分はお姫様(代理)なので、いつも上げ膳据え膳である。正直いたたまれないが、人間とは怠惰にはすぐに慣れるもので、このままだと村に帰った後が恐ろしい。


勿論(もちろん)ヨハンナ先生のお勉強タイムは続いているが、馬車の中ほど切羽詰まってはいないし気楽なものだ。今はスウォルツの歴史を大まかに学んでいるが、これはなかなか面白い。そもそも私は城内での動きや面会を制限されているため、勉強以外にやることがないのだ。


ただし、苦手な『お勉強』もある。その一つがダンスの練習である。当然ディアナ様は踊れるので、私は部屋でこっそり音楽もなく練習する。お相手はディディエお兄様かノヴァ。

体を密着させて踊るので、男性に免疫のない私には刺激が強い。緊張で顔を赤くしながらお兄様にくっつくと、

「ふふっかわいい。」

等とからかわれ、ますます顔が赤くなるという悪循環。この女たらしめ!

だいたいお兄様は綺麗すぎるのだ。そして自意識過剰な自分が憎い。お兄様を睨み付けても、かえってニヤニヤされるばかりだ。

ノヴァは無表情で淡々と踊るので、幾分気が楽だ。私が赤面しても何も言わず、ゼンマイ仕掛けのように正確なステップを踏む。

ちなみに教師であるヨハンナにお手本をみせてもらったところ、まるで白鳥のように華麗なターンであった。この人は本当は侍女ではなくて、未来で作られた機械とかなんじゃないかな。


ちょっとした悩みもある。フェビアンお兄様がよく遊びに来るのだ。彼は母親によく似た優しげな垂れ目が特徴的な美男子である。最近身の回りのイケメン率が高い。婿取りに支障が出そうな気がする…のが悩みな訳ではなく、何を話していいのかわからないのだ。

正直後ろ暗い立場としてはあまり話すこともできず、かといってもう来ないで下さいとも言えない。まぁ彼は、しばらく世間話をすると満足して帰っていく。多分政務の息抜きに来ているんだと思う。未来の王様には頑張ってほしいので、こちらもなるべく接待するようにしている。


開けた部屋の窓から揚羽蝶が入ってきた。

我が家の蚕たちは、無事に繭になっただろうか。

故郷の村では、蚕は村長他数件の家でまとめて繁殖を行い、各家庭で飼っている蛹は絹の原料にする。この時期は、森でも蚕の成体であるベニオオアカイエガがヒラヒラ飛んでいる。虫嫌いには恐怖の光景だが、村にあの虫を嫌う者はいない。虫は村の暮らしと共にあるのだ。

外に出たいなぁ……。


「では遠乗りに行きますか?」

ノヴァが最近の定位置である扉の入り口から声をかけてきた。どうやら私の心の声は口から出ていたらしい。

「遠乗りって何?」

「馬に乗って遠くに出掛けることです。ディアナ様は女性には珍しく乗馬がお得意でしたので、馬で出掛けると言えばお許しもでるでしょう。

王都を抜けると小さな森があります。ディアナ様もよくそこで馬を走らせていましたよ。」

「馬!?乗ったことない!乗ってみたい!

村に牛ならいたんだけど、畑を耕したり荷物を運んだりしてただけで、乗るものじゃなかったよ。」


という訳で、私の無謀な外出計画が幕を開けたのだった。

ノヴァがこんなに話すのは初めてだな。




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