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湖面の月  作者: 山田ビリー
湖面の月
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2-1.

王都輝く黄金の街(かがやくおうごんのまち)は、人口20万人を越える大都市である。昔は湧き水や小川から砂金が採れたそうで、(きん)で栄えた街だという。名前の由来もここにある。今はもうほとんど金は採れないが、王都として賑わっている。そしてこの街の中心地にあるのが、王家の一族が住まう宮殿、黄金宮(おうごんきゅう)である。その名の通り、黄金に輝く荘厳なたたずまいだと聞く。

さて、私は初めてこの美しくも猥雑な街に足を踏み入れた訳だが、わくわくどきどき、といった高揚感は湧いてこなかった。それもこれもこの地獄の2日間のせいである。

馬車で過ごした2日間のことは、できれば思い出したくない。


ヨハンナとの初顔合わせを果たした翌朝から、彼女は厳しい教師へと転身した。移動用に簡易とはいえ私から見れば豪華な服を着せられ、朝食時から早速マナー講座だ。手で摘まんで食べるなどもっての他。姿勢が悪い、フォークの向きが反対、ナイフ捌きが(つたな)い等々、失敗するたび手痛い一撃が手の甲に走る。

『ディディエお兄様』はニヤニヤしながら、ノヴァは我関せずで優雅に食事をしている。二人に殺意を覚えた。


馬車の中はお勉強タイムだ。私に読み書き計算の知識があるのがわかると、次は人物講座が始まった。スウォルツとネーブルの主要な王公貴族名と関係を一通り聞いたが、何一つ覚えていない。

「一度でも聞いたことがあるっていうのが大事なんだよ。いざという時全く予備知識が無いのと、聞き覚えがあるのとでは全然違うからね。」

とはディディエお兄様の言である。いざという時が来ないことを祈るばかりだ。

ちなみにこの2日間で、ノヴァからは「おはようございます。」「早くして下さい。」「お休みなさい。」の3語しか聞いていない。彼には嫌われている気がしてならない。

ノヴァは騎士ながら、ムキムキです、という感じはしない。むしろ余分な体脂肪を削ぎおとしたらこうなりました、という体型である。紅茶色の髪と、同色の一重の目も涼やかだ。イケメンに嫌われるのはちょっと切ない。


そして3日目の今日、ついに王都へと到着した訳だ。よく考えれば私はまだこの街に『足を踏み入れて』はいない。馬車に乗って街の門を抜け、このまま黄金宮へ行くのだから。


などとつまらないことを考えていたら、あっという間に黄金宮に到着である。ボロが出ないようになるべく喋るなと、あらかじめヨハンナには言われている。

馬車から降りて初めて目にした黄金宮は、話の通りピカピカした豪華な建物だった。ポカンと間抜け面をさらしてしまったため、隣から咳払いが聞こえる。1点減点。ヨハンナのお仕置きが脳裏によぎった。


宮殿内に入れば、流石の私でも怖じ気づく。一歩進む(ごと)に、だんだん胃が痛くなってきた。目の前に現れる、ひときわ重厚な扉。隣でディディエお兄様がぼそっと「謁見の間」と呟いた。ここからはお兄様と二人きりだ。


促されて部屋に進む。

床がツルツル!滑って転べば大恥だ。心持ち踏ん張って歩く。

「ふふっアヒルみたい。」

お兄様いつか殺す。

壇上の椅子に壮年の男女がいるようだ。この部屋での作法通りに伏せた視界の端からでも、神々しい輝きが放たれているのを感じる。壁の金ぴかから放たれた光かもしれないが。

「ディアナよ、(おもて)を上げよ。父にその顔を見せておくれ。」

渋い美声につられて顔をあげ、両陛下の姿を目に入れる。


王妃様は黒髪だ。顔立ちも、ディディエお兄様とは似ていない。

ヨハンナ先生の授業を思い出す。二人きりになった時を狙って行われた授業を。

『ディディエ殿下は側室の御子でございます。』

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