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湖面の月  作者: 山田ビリー
月に狼
31/38

8.

国境を越えると、そこは海の国であった。海洋国ネーブル。海無し国スウォルツ人の、ある意味憧れの地である。

ルナもはしゃいで、

「海見れるかな?楽しみだね。新鮮な海の幸を堪能しないと!」

と意気込んでいた。

俺はネーブルに仕事で来たことがあるが、確かにネーブルの海鮮料理は旨い。俺のお勧めは白身魚を一口大のフライにしたもので、これはどの町の飯屋でもメニューに置いてある定番の軽食だ。名前何だっけな。


国境の砦にたどり着く。ここはあの晩ディアナ様が逃げ込んだはずの場所だ。今もディアナ様が無事らしいことを考えると、ここはフィンセント様の息がかかった安全地帯なのだろう。あの晩の俺の失態を思い出すと、今でも肝が冷える。もう失敗は許されない。


現れた近衛第二隊は、なぜか皆一様に筋肉質だった。俺も筋肉をつけたいと日々鍛練に勤しんでいるのだが、如何せん脂肪が無くなるだけで、目指す男らしい体型には程遠い気がする。羨ましい。ヤン隊長とやらに今度筋肉の秘訣を聞いてみようか。

驚いたことに、ヨハンナ殿がヤン隊長と仲良くしていた。やはり筋肉か、ひょろひょろした男は頼りないのか…!ルナもそう思いますか?とルナの表情を伺うと、彼女には怪訝な顔をされた。

そういえば、あの怖いゴルト卿にヨハンナ殿もよろしくと言われていたんだった。この場合、彼女を応援すべきか邪魔するべきか、どちらが正しいか悩む。


碧玉宮は、美しいというより可愛らしいという表現が似合う宮殿だ。ここは町といい宮殿といい、お伽の国のような趣がある。だがその内部では泥々した権力争いがあると思うと、庶民でよかったとしみじみ考えてしまう。

遙々嫁入りに来た王女ご一行を出迎えたのは婚約者のフィンセント様ではなく、何故かその兄エドゥアルト様であった。フィンセント様自ら迎えに行かないことで、ディアナ様を好きで迎えた訳ではないと思わせるつもりなのだろうか。

それはそうとエドゥアルト様、ちょっと馴れ馴れしくありませんかね?仮にも弟の婚約者になに粉かけようとしているんですか。ルナも戸惑っていますよ。


ルナがエロ王子(エドゥアルト)様に連れられて謁見の間に行くのを見送り、マルセルとヨハンナ殿と共に待機場所にいくと、そこにはおかっぱの侍女がいた。

「久し振りね。」

なんと侍女はディアナ様であった。

「よくぞご無事で……。」

ヨハンナ殿は感極まって泣き出している。俺もこの目で無事を確認できて思った以上に嬉しい。マルセルも同じ気持ちだろう。

「ディアナ様、こちらはマルセル。賊の侵入した夜に、俺とお部屋に突入した騎士です。」

「マルセル=シュピーリと申します。王女殿下をお守りできず、申し訳ございませんでした。」

俺もマルセルと一緒に深く頭を下げる。

「いいのよ。二人とも、助けてくれてありがとう。」

なんと寛大なお言葉!

「ところでディアナ様、その格好は……。それにその髪、如何なさいました?」

どうしても気になったので聞いてみる。このお方、フィンセント様に匿われて大人しくしているんじゃなかったのか。

「あらノヴァ、今の私はフィンセント王太子殿下の侍女『ルナ』よ。『ディアナ様』は今頃謁見の間にいるでしょ。」

ルナ?

何故同じ名前を?

「姫様自ら殿下のお世話をなさっているのですか!そのような事……!フィンセント様も何をお考えなのかしら、姫様に下々の仕事をさせるなど。それにそのお髪、折角の艶やかな黒髪が!」

ヨハンナ殿が絶望した声で嘆いている。

「あらヨハンナ、侍女はいいわよ。目眩ましにもなるし城中どこでも行けるわ。普段はセントにくっついているから大丈夫。お陰で愛人だと思われてるから、敵はディアナ様が蔑ろにされてると思うし、良いことづくめでしょ。」

ディアナ様はどこまで行ってもタフだった。なんというか、それでこそディアナ様です。

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