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湖面の月  作者: 山田ビリー
湖面の月
18/38

4-1.

しばらく気を失っていたようだ。断じて寝ていた訳ではない。ここで眠れるほど私は図太くはない。

とにかく、人の気配がして目が覚めた。またバカ殿下が来たのか、と顔をしかめて薄目を開けると、そこにはノヴァがいた。

夢?

ノヴァは人差し指を自分の口許に立てシッと合図すると、懐から短刀を取り出して、私の手首を縛る縄を切った。思い余ってノヴァに抱きつく。ノヴァも私を抱き締めた。やがてノヴァは緩く私の手を引き、忌まわしい鉄格子の部屋から連れ出した。


身を低くして裏道らしい通路を抜け出て外に出ると、なんとそこにはフィンセント殿下がいた。慌てて身を屈めようとすると、蹴られた腹が痛み、思わず呻き声が口から漏れた。

「兄はお前に危害を加えたのか。」

フィンセント殿下の顔が物凄く恐い。例えるなら地獄の底から這い上ってきた魔王、といったところだ。

「よし、服を脱げ。」

またか!このパターンは何度目だろうか……服を脱ぐと王女代理がばれると学習したので嫌だったのだが、

「お前がディアナでないことは知っている。」

と言われたので大人しく下着以外は脱ぐことにした。

「全然似てない。ディアナの方が細身の美人だ。」

余計なお世話である。

「では代わりにこれを着ろ。」

と渡されたのはメイド服。……メイド服?まさかそういう趣味が、

「お前は今から私の侍女ルナだ。」

成る程。なぜ私の本名がばれているのだろうか。

「これはお前の代わりの者に着せる。お前と入れ替わるんだ。面白くなるぞ。」

ニヤリと笑うフィンセント殿下は、さながら獲物を見つけた野生の獅子であった。

「私の代わりとは?」


「それは私よ。」

現れたのは黒髪おかっぱの殿下の愛人様、というかこの顔は、私……?まさか、

「気付いたか。」

このお方こそ、本物のディアナ様!向かい合ったディアナ様はなんだか神々しく、顔はそっくりでも雰囲気がまるで違った。まさに女神。

「選手交代。あとは任せて!」

女神はウインクすると、私の引き裂かれた服を着て、用意してきた(かつら)を被り、颯爽と私の来た道をノヴァを引き連れて戻って行った。

「ディアナ様、かっこいい……」

「そうであろう。私の女神だ。

さて、お前にはしばらく私の侍女をしてもらわねばならん。申し訳ないが、ディアナと入れ替わるため髪を切ってもらおうか。」


フィンセント殿下の後について城に戻ると、部屋にはヨハンナが待っていた。断髪式はヨハンナがやってくれるらしい。本当に何でもできる侍女の鑑である。ヨハンナは申し訳なさそうに髪を切っていくが、私は別に髪にこだわりはないので構わない。ばっさりいっちゃって、というと、

「せっかく綺麗な黒髪でしたのに。」

と惜しんでくれた。

聞いたかフィンセント殿下!

さっぱりした頭で殿下から話を聞くと、どうやら先程まで私が囚われていたのは碧玉宮の地下にある独房だという。私達が通ってきた道は、昔脱獄犯が作った通路らしい。私が独房の中で起こった事を話すと、殿下は悪い笑みを浮かべて言った。

「やはり兄はお前がディアナではないと知ったのか。しかしそのまま手を出されなくて良かったな。

恐らく明日にでも、兄は両親に謁見の間での面会を求めてくるだろう。私もお前を連れて参加する。特等席で見せてやろう。」


殿下の厚意で、時間外だが下働き用のお風呂に一人で入らせてもらった。身体中が汚いしお腹が痛む。明日の朝医者に見せてくれると殿下が言っていたので、今夜は塗り薬で我慢だな。

温かくてぼんやりとした頭で考える。

フィンセント殿下の愛人問題が解決して良かった。ディアナ様も生きていた。でもノヴァは失恋だな。ノヴァは何で私を抱き締めてくれたんだろう。ディアナ様の代わりだからかな。


私はノヴァが好きなのかな。

私も失恋だな。

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