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湖面の月  作者: 山田ビリー
湖面の月
17/38

-1.

ディアナがフィンセントから貰った新しい馬は、月神(アルテミス)という名の白馬であった。ディアナとお揃いの名前を持つこの若く美しい馬をディアナは大層気に入り、暇を見つけては厩舎に赴き『古い相棒』と併せて世話をした。

勿論ノヴァも一緒である。ノヴァも自分の愛馬ブランを世話していた。他にする事が無いからである。お陰でノヴァとブランの仲はかつて無いほど良くなったが、ディアナとノヴァが厩舎で逢い引きしていると噂になってしまった。


噂は噂でしかないと二人とも放っておいたが(その方が都合が良かったせいもある)、フィンセントから問い合わせの手紙が来たときは、流石にディアナも放置できず、慌てて誤解を解くため文をしたためた。


---騎士との件は誤解です。()の騎士は、ディディエお兄様が私のために付けてくれた護衛です。夜は彼とは交代で侍女のヨハンナが付いていてくれますので、貴方が心配するようなことは何もありません。


ディアナが送った筈のこの手紙は、結果としてフィンセントには届かなかった。


新月の晩。ヨハンナはふと目を覚ました。隣にはディアナが寝ているはずである。確認しようと横を見て、息が止まるかと思った。ディアナの傍らに黒い人影があったのだ。咄嗟に枕元に置いてあった小さな笛を吹く。手紙には書かれていないが、実は騎士が隣室に控えている。笛は緊急事態の合図である。

すぐに扉を蹴破って、騎士が二人部屋に入ってきた。うち一人はノヴァだ。侵入者達は舌打ちをして、ディアナの腕を掴み脱走しようとした。室内での乱闘になる。ディアナは既に目を覚ましていたが、捉えられナイフを突きつけられて、逃げられない。

人質がいる分こちらが不利である。ノヴァのこめかみに汗が伝う。

物影に隠れていたヨハンナが、ディアナを掴んでいる男に噛みついた。男の手が弛んだ隙に、ディアナは隠し通路から逃げ出した。向かう先は厩舎である。

アルテミスに跨がり、ディアナは夜の闇を疾走した。


翌朝。

ディアナの部屋は血塗れで、家具の破片が飛び散る、嵐の後の様な状態であった。

「申し訳ありません。俺の失態です。賊は5人切り捨てましたが、3人程取り逃がしました。死体を改めましたが、破落戸(ごろつき)を雇っただけのようで身元は特定できませんでした。」

「良い。充分な働きだった。ヨハンナも。生け捕りできなかったのは残念だが……」

ノヴァの謝罪にディディエが答える。

「アルテミスが厩舎から消えていた。ディアナはおそらく無事だろう。妹はあれでなかなかしぶとい。とりあえず伝令の鳩を待つ。お前達は次の命令を下すまで休んでいなさい。ご苦労だったな。」


母親の部屋に来たものの、シモーネは不在であった。勝手知ったる母の部屋、寛いでふと鏡台を見ると、封の開いた手紙が置いてある。何気なく目をやって、ディディエは蒼白になった。ディアナがフィンセント宛に出した筈の手紙。何故読まれた状態でここにある?

昨夜の一件には母が関わっているのかもしれない。


青ざめた顔の弟が自室にやって来たので、フェビアンは執務の手を止めた。昨夜の一件は聞いている。妹は無事であろうとフェビアンも思ったし、今朝会った時の弟は、普段通りの顔色だったはずだが。

何か悪い報せでもあったか。

ディディエが口を開いた。

「身辺に内通者がいるかもしれません。ディアナの安否は私達二人以外には口外しないでおきましょう。ディアナは離宮に静養に行ったことにします。

兄上、どうかこの件は私に一任してもらえませんか。スウォルツもネーブルも、不穏分子は叩き潰す。」


ちなみにその頃、ディアナは裏街道を寝間着で爆走していた。

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