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湖面の月  作者: 山田ビリー
湖面の月
14/38

3-4.

新しい朝が来た。希望の朝だ。

となればいいのだけれど。

昨日の出来事は既にヨハンナの知るところとなったようで、彼女は朝から盛大に顔をしかめている。

「失礼する。」

ノックの後に自分で扉を開けて入ってきたのはフィンセント殿下だ。この様子では、昨夜の件を聞きつけてやってきたようだ。

「大事はないか。」

「お陰様で。我が騎士の働きにより未遂でしたので。」

私の嫌味に気付いたのだろう。殿下は眉をあげてこちらを見た後言った。

「思ったより息災そうだな。とはいえこちらの警備が甘かったせいだ。すまなかった。

察しているかもしれないが、この件は私と側近しか知らぬ。公言する訳にもいかぬゆえ箝口令を敷いている。

兄の口振りからするに、次も何か仕掛けてくるかもしれん。巻き込んで申し訳ないが、油断はせぬように。」

言うだけ言って、殿下は去っていった。

「本当に仲悪いんだね。」

ヨハンナに言うと、やっぱり溜め息をつかれた。


昼過ぎ、ふと窓から庭を見下ろすと、フィンセント殿下がいた。横にはおかっぱ頭の侍女が。王宮に遣える女性で短い髪は珍しい。殿下はなんと彼女の腰に手を回した!あれが噂の愛人か。旋毛(つむじ)しか見えない。

こっちを向け~。と念を送ってみたのだが、二人ともそのまま厩舎の方へ歩いて行ってしまった。

随分仲睦まじいご様子で。ディアナ様はなんと思うだろうか。私の口からも溜め息が出た。


あれから私の側には常にヨハンナ、ノヴァ、ヤン隊長のうちの誰かが付いてくれるようになった。近衛第二隊というのは王太子直属らしく、ヤン隊長はフィンセント殿下の側近なのだ。当然エドゥアルト殿下の仕出かした件も知っていて気を使ってくれる。

今日の当番はヨハンナだ。私には一番気楽な相手である。私たちが厨房からもらったサブレ(美味)をかじっていると、扉がノックされ、若い女性の声が聞こえた。

「ヨハンナ様、おられますか?侍女長が至急お呼びです。代わりにヤン隊長が部下を派遣してくださいましたので。」

「ヨハンナ、行っておいでよ。」

「ですが……」

「大丈夫だよ。代わりの人が来てくれたみたいだし。」

こういう事はたまにある。その度に三人とも渋るが、皆忙しい身だ。いつまでも私が拘束することはできない。ヨハンナは暫く躊躇っていたが、結局は部屋を出た。

「失礼します。第二隊から派遣されました、ディック=バーンです。」

若い騎士が部屋にやってきた。第二隊には珍しい細身の騎士だ。口元の黒子が特徴的だな。

彼はそのまま私に近づくと、手巾を私の鼻と口にあてがった。鼻を突く異臭がして、そのまま私の意識は途切れた。


目を覚ますと、そこは独房のようだった。据えた臭いがする。私の両手は縄で拘束されている。鉄格子の嵌まった部屋に、私と男がいた。

「こんなところまでご足労いただいてすまないね。」

「ヒッ……」

思わず後ずさる私を面白そうに見下ろすと、その男、エドゥアルト殿下は私の上にのし掛かってきた。

「無粋な部屋ですまないが、この前の続きをしようか。前回はいいところで邪魔されたからね。」

必死に体を捩るが少しの抵抗にもならない。殿下はそのまま私の服の胸元を引き裂いた。

露になった私の胸元を見て、殿下は固まった。驚愕に目を見開いて私の顔を見て叫ぶ。

「お前、偽者か!」

その一言は、私の胸をえぐった。

「言え、本物はどこにいる?言わないと……」

腹部に激痛が走る。この男、女の腹を蹴ったのか?最低男(でんか)を睨み付けながら、痛みをこらえて奥歯を噛み締める。

「まさかあの時本当は死んだのか?あるいは匿われているのか。お前知っているか?」

私は首を横に振る。これは本当だ。最低男(でんか)は私を暫く疑わしげに見ていたが、

「だったらお前は捨て駒だな。まぁいい。暫くそこにいろ。」

言い捨てて鉄格子の向こうへ去っていった。


「ノヴァ……」

助けは来ない。



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