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湖面の月  作者: 山田ビリー
湖面の月
13/38

3-3.

ヨハンナはこちらの宮殿でも精力的に働いているようで、私はしばしば放置されていた。ノヴァは何故か最近顔を見ていない。確か道中、守るとかなんとか聞いた気がしたのだが、もしかしたら疲れた私の願望から来る幻聴だったのだろうか。

という訳で、暇に任せて宮殿をうろうろさ迷っていると、いつかのように若い女中(メイド)達らしき声が聞こえてきたので、いつかのように身を隠した。


『フィンセント殿下がディアナ様を邪険にしてらっしゃるって本当?』

『こちらからお願いした縁談でしたのに、やはりスウォルツの後ろ楯が欲しいだけだったのかしら。でもそれなら表面だけでも優しくしそうなものだけど。』

『やはりあの新しい侍女のせいじゃないかしら。殿下は否定なさっているようだけど、いつもお側に置いているもの。やっぱり愛人よね。』

『ディアナ様にばれたら大変なんじゃないの?』

『でもディアナ様にはエドゥアルト殿下が言い寄っておられるそうよ。』

『エドゥアルト殿下こそスウォルツの後ろ楯が欲しいのね。ならフィンセント殿下が冷たい今がチャンスなんじゃない?』

『場合によっては継承権も……』

『しっ!さすがに不敬よ。誰かに聞かれたらどうするの。』


しっかり聞きました。

エドゥアルト殿下、口説いていたのか……というか、フィンセント殿下に愛人!?自分からディアナ様に言い寄っておきながら(推定)、愛人を作ってポイとはなんてひどい男だ。噂の愛人とやらもどんな女性か気になる。

しかし何より問題は、この結婚がどうやらネーブルの継承権争いに巻き込まれていることだ。まさかディディエお兄様、ディアナ様が危険に巻き込まれないように代わりに私を派遣したんじゃなかろうか。ディディエお兄様に使い捨てにされないように、いのち だいじに でいかないと。


碧玉宮での私の部屋は客室である。挙式後に王家の私室に部屋を割り振られると聞いている。とはいえ私にとってこの客室は、豪華な調度品や広いベッドの並ぶ高級な部屋だ。物を壊すのが怖いので、部屋ではなるべくベッドの上でゴロゴロしている。決して怠惰だからではない。

今夜もベッドの上で転がりながら、フィンセント殿下の愛人問題について考えていたが、いつの間にか夢の中にいた。

夢の中ではディディエお兄様が私にのし掛かりながら、偽者は要らないよ、と笑顔で首を絞めていた。助けてノヴァ、と叫ぼうとしても、首が絞まって声が出ない。ノヴァはディアナ様を呼びながら遠ざかっていく。さよなら、とディディエお兄様が手に力を込める。苦しい。

目を開けるとそこには黒い影があった。闇で顔が見えない。とっさに身を起こそうとするも、両手を押さえつけられて動かせない。男だ。殺される?男はそのまま私の上にのし掛かってきた。寝間着の裾から男の手が這い上ってくる。

怖い、助けて、誰か、

「ノヴァ……」


「そこまでです。」

ノヴァ!

「不敬な。一介の騎士が我が身に剣を向けるか。」

「我が国の王女殿下を力ずくで手込めにするよりましです。」

「手込めとは人聞きの悪いことを。ディアナ殿下への抑えきれぬ想いを伝えに来ただけだよ。」

この声……。黒い影の男はエドゥアルト殿下だったのか。

ノヴァが無言で抜き身の剣を殿下の首筋に当てる。刀身が月光を受けてキラリと光った。

「この場は引こう。ですがディアナ様、忘れないで下さい、貴女への想いにこの身を焦がす私の心を。」

エドゥアルト殿下は去っていった。部屋には私とノヴァだけが残される。

お礼を言わなければ。声を、声が出ない。

「遅くなってすみませんでした。」

違う。ノヴァは私を助けてくれた。お礼を言いたいのに。

ノヴァが私の目元を手巾で拭う。そうか、私は泣いていたのか。


暗闇の中、二人無言でいた。ノヴァは私が泣き止むまで、ずっと横に佇んでいた。

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