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湖面の月  作者: 山田ビリー
湖面の月
11/38

3-1.

森を迂回してネーブルに入る。街道には国境を守る関所と警備隊がいる。この国境いの森は意外と深く、熟知していなければ通り抜けるのは難しいそうだ。関所破りをしようとした者が、毎年何人も命を落としていると聞く。

我々は勿論正規ルートからネーブル入りする。近くの砦まで、ネーブルの宮殿、通称碧玉宮(へきぎょくきゅう)から近衛隊の一団が迎えに来てくれる予定だそうだ。ネーブルの近衛隊といすえば深紅の軍服で有名だが、赤は返り血で汚れないようにという意味があるらしく、偽王女としては恐怖を覚える。

ネーブルは海洋国で、王都碧き宝石の街(あおきほうせきのまち)も港町だとヨハンナが教えてくれた。海!人生初である。海そのものは言わずもがな、海の幸を使った料理も楽しみだ。


馬車が砦に到着した。馭者に声をかけられ降りてみると、深紅のムキムキ達がずらりと並んでいた。一番前で目立つムキムキが声をかけてきた。

「ディアナ=エル=ユーヴェントス殿下方、ようこそいらっしゃいました。私はネーブル近衛第二隊隊長ヤン=コープマンと申します。これより碧玉宮(へきぎょくきゅう)へは大二隊がご案内致します。」

まだ若そうなのに隊長とは、かなり腕がたつのだろう。ここから3日間はネーブル国内を砦経由で宮殿まで異動のするらしい。道中海も見られるそうなので、通りかかったら教えてくれるようヨハンナがヤン隊長に伝えてくれた。


宿泊先の砦では、早速魚介料理が出た。何らかの魚を酢漬けにしたものと黒い二枚貝を酒蒸ししたものは、ネーブルではどこの家庭でも食べられているそうだ。酢漬けは私の口には微妙であったが、酒蒸しは潮の薫りと酒精が口腔に広がり、大変美味であった。しかも噛むほどに旨味が染みてくるため、ゆっくり味わって食べた。ただしパンは固かった。宮殿暮らしで舌が贅沢に慣れてしまったようだ。反省しつつ固いパンを噛み締めて食べた。


海岸沿いの街道で窓がノックされたので扉を開けてみると、一面海であった。大きい。水面が陽光を受け、きらきらと輝いている。碧い宝石とはまさにこのことか。海面を何隻もの船が行き来している。潮風が生臭いのは、漁港が近いからであろうか。なんと夜には海中で光る魚もいるらしい。とても見たいが、日程には組み込まれていないため断念した。我が儘を言える立場でもない。


ところで道中気になるものを見た。ヨハンナの笑顔である。私に向けられたものではない。あのいつも冷静でディディエお兄様にすら冷めた目線を送るヨハンナが、ムキムキ隊長に微笑みかけていたのだ。思わず二度見してしまったが、見間違いではなかった。ちなみにヤン隊長の方はというと、むしろこちらの方がニコニコ、というよりデレデレと表現した方が近いであろう顔をしていた。ヨハンナに話しかけられて嬉しいのか、単純に若い女性に喜んでいるのか。しかしヨハンナが筋肉好きであったとは。共に目撃したノヴァの顔にも、珍しく驚きの表情が少しだが出ていた。

夜に部屋で女子トークを振ってみた。

「隊長さんといい感じだね。」

「まあ。ディアナ様が快く過ごせるように上手く取り入っておりましたのに、その様に言われるとは心外です。」

本気なのか照れからのツンなのかわからん。女子トークはすぐに幕を閉じた。


明日は碧玉宮に到着する。そこで私を迎えるものは何なのか。死か、永住か、故郷への切符か。

私は何を信じたらいいのだろうか。


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