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私は結婚したいんです!

作者: 桜田裕田

「ククク、我は魔王四天王の中でも最弱。すぐに他の魔王がお前ら人間を滅ぼすだろう」

「何! 魔王は複数いるのか!」

「ハハハ、すぐに世界は我ら魔族の物になる!」

 魔王は息絶えた。

 勇者は魔王の血に濡れた聖剣を手に、決意の籠もった目で後ろにいる仲間を見る。

「みんな! すべての魔王を倒し、世界を救おう!」

 勇者の言葉に、盗賊と戦士も頷く。

「お断りです!」

 魔法使いが声を荒げる。

「へ?」

 目と口を開けた間抜け顔の勇者は魔法使いを見る。勇者だけではなく、盗賊と戦士も呆けている。

「ちょ、ちょっと待って。何でだよ。俺たち、魔王を倒して世界を平和にしようって誓っただろう」

「誓いました。でも、私今年で二十二なんです!」

「そ、それがどうした?」

「完全に行き遅れです! この魔王を倒すのに五年かかったんですよ! 残りの魔王倒した時にはもらい手なんていなくなってますよ! 私は結婚したいんです!」

「結婚なんて、魔王倒し終わってからも出来るだろ?」

「あなたは帰りを待ってくれる王女様がいるからそんなこと言えるんです」

「え、いや、でも世界を平和に……」

「あなたたちで世界を平和にしてください!」

 魔法使いは勇者パーティーから外れ、魔王の城から去っていった。




 魔法使いは王都から馬車で一日の場所にある街に店を構えた。旅で得た知識と能力を使って作った魔道具は優れていて、あっという間に知らぬ人がいないとまで言われる店になった。

 そんな店に勇者と盗賊と戦士が訪れた。

「なあ、俺たちとまたパーティーを組んでくれよ。お前みたいに優れた魔法使いいないんだよ」

「嫌です。やっと店も有名になって彼氏も出来たんですから」

「そう言わないでよ。私たちにはあなたが必要なのよ」

「あなたがいるから私は敵に突っ込んでいけるのよ」

 盗賊と戦士が言う。

「何言ってるのよ。あなたたちも年齢的に十分行き遅れなのよ。一体倒すのに五年かかったのよ。それなのにあと三体も魔王を倒すなんて。倒し終わったときにはおばあちゃんよ」

「それは……」

「でも……」

 盗賊と戦士が言葉に詰まる。

「あなたたちも魔王を倒すなんて辞めて、この街で暮らしたら。美人なんだからすぐに彼氏出来るわよ。お店を出すなら資金貸すし」

「待ってくれよ。仲間を引き抜かないでくれよ」

 勇者は言うが、盗賊と戦士は何やら考え込んでいる。

「……私、この街で暮らしたい」

「え!」

「私も……」

 盗賊と戦士が言う。

「私も結婚して子供欲しいもん」

「私も。旦那と子供で幸せに暮らしたい。魔物を殺す日々じゃなくて」

「ちょ、マジで?」

「「うん」」

 勇者の言葉に、盗賊と戦士は力強く頷く。

「それじゃ私が良い家を探してあげる。どうする、何か店でもやる?」

「私、料理が好きだから料理屋やりたい」

 盗賊が魔法使いに言う。

「良いわね。あんたの料理凄い美味しいからすぐに人気になるわよ。道具は任せといて。最高の物を作ってあげる」

「ありがとう!」

 盗賊は笑顔で魔法使いの手を取り喜ぶ。

「私は、歌が好きだからそれを出すお店を作りたい」

「あんたの歌綺麗だもんね。旅の途中何度励まされたことか。となると、劇場とかかな」

「ううん。もっとみんなが騒いで楽しくなるようなお店が良い。例えば、みんなが好き放題歌を歌えるような」

「なんか面白そうね。でも、そうなると酒場かな」

「酒場か。でも酒場だと酒を飲むのがメインでしょ。そうじゃなくて歌をメインにしたいの」

「なるほど。歌がメインか。面白そうね。私が全力でサポートしてあげる」

「ありがとうね!」

 魔法使いと盗賊、戦士は仲良くこれからやる店について話した。

「魔王どうするの……」

 その輪から外れた場所で、勇者は力なく呟いた。




 盗賊と戦士のお店は繁盛した。

 盗賊は世界中の料理を出し、普段食べることの出来ない料理で客の胃袋をガッチリ掴んだ。近々、店を大きくするために増築する予定だ。

 戦士の店も客が絶えなかった。今までこの世界になかった歌を歌える店ということで話題性もあり、初日から千客万来だった。戦士は今では三店舗を構えるオーナーとなっている。

 そして魔法使いと盗賊、戦士は愛する人と結婚式を挙げ、三人は幸せな生活を送った。




 さて、勇者だが、彼は仲間を捜すのを諦め、道場を作って仲間を育てることにした。勇者が教えるということで隣国からも人が来て、道場には強くなろうとする若者の声が毎日響いていた。そして、鍛えた仲間百人を引き連れてあっという間に残りの魔王を倒し、世界から魔王が消え、平和をもたらした。

 勇者の道場は、勇者が死んでからも続き、魔王が現れたら道場の者が倒した。

 勇者は後世にに名を残し、その道場は勇者育成道場と呼ばれ、道場は平和の象徴となった。


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