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2・大抜擢・間違い探し

   主な登場人物


◆此村 彼方(このむら かなた)

◆一色 万千子(いっしき まちこ)

◆雪村 小春(ゆきむら こはる)

◇江田 泰子(えだ たいこ)








「え! 雪村さん推理研究会に入ったの?」

 翌日。クラスメイトの何気ない会話で昨日の続きとなり、小春の告白によってクラスメイトが衝撃の事実を知った。

 部活動に入ったという事と、それが推理研究会だという事と、そのメンバー3人がこの教室の隅に集結しているという事だ。

「推理とかが好きなの?」

「うん。時々推理小説とか作ってるんだ」

「え?」

 その事実には万千子たちも驚いた。そんな事は聞いていない。

「え? 何、お前たち初耳だったわけ?」

 クラスメイトの指摘に認めざるをえなかった。

「昨日そんなことは言ってなかったから」

「ごめん、聞かれなかったから。あ、でもそんなにたくさんは書いてないよ」

 半分笑いながら謙遜しながら、手を横に振る小春。将来今より身長が10cm以上は成長することを確信して買ったであろう余裕のある袖がわたわたと揺れていた。

(あー、もう。可愛いな)

 その場にいる1人以上はそう思っているに違いない。



 当然ながら始業式の翌日から通常授業だ。特に書くこともないほど、36名の生徒は真剣に授業を受けていた。

 小春もAクラスに来たということは、成績優秀なのだろう。深く腰かけると足が浮くような姿も黒板の半分しか届かない姿もダミーなのだ。

「起立、礼」

 4限が終わり、昼休みとなった。

「雪村さん、お昼一緒に食べていい?」

「うん、いいよ」

 互いにこの学校、2年生になって初めての昼休みであるが、意外な人物が小春に話しかけた。江田泰子えだたいこだ。席は対角線のように離れており、昨日今日それほど話はしていないのだが何があったのだろうか。

 小春と泰子そして目の前の万千子と3人での昼食。隣では彼方が1人で弁当を食べていた。

「泰ちゃん、何かあるの?」

「え、何が?」

「だって泰ちゃんがわざわざこんなところで食べるなんて何かあると思って」

 1年間一緒にいた万千子は知っていた。普段泰子は教室でご飯を食べることはない。それは食堂でもなく、教室以外でいる時間が多いのは演劇部の部室だった。衣装や美術道具などに囲まれながら昼ご飯を食べていたのだ。

「ばれちゃぁしょうがない。ちょっと相談があるのよ。その……推理研究会にというか……雪村さんにというか」

「私に?」

「この際ストレートに聞くけど、台本書いてみる気ない?」

「ちょっと、台本ってまさか自分所の演劇部の台本の事? まさか小説書いてるから雪村さんにお願いしてるの?」

「実はね、6月に文化祭があるんだけど、毎年その舞台の台本は送り出す意味も含めて後輩が書くことになっているんだ。それがね……中々大変で。来週には仮のものを提出するんだけど」

 これは聞き捨てならない。

「ちょっと、来週っていつまで悩んでたのよ!」

「私だってね、全く考えてなかったわけではないんだからね? 先輩の最後の大舞台だからしっかりと書こうと思って……でもそう張り切りすぎると全く書けなくて……」

 涙ぐみながら訴えてくる泰子を囲む2人。

 それまで2人の会話を見ていた小春が視線を逸らして弁当を食べ終えている彼方に聞いた。

「どうしたらいいですか?」

 とりあえずは会長である彼方に確認した方がいいと思ったのだろう。

「良い返答はできないと思う。トリックを提供することはできても、台本となるとそこまでは専門外だから」

「ちなみに推理研究会って何か発表してるんですか?」

「……いや、特には」

 あまり聞かれたくない質問だったらしく、彼方は言葉を濁した。それよりなにより、彼方は小春の表情が気になった。

「書きたいの?」

「ん……ちょっと責任が重そうだけど。面白そうかなって」

 やっぱり、という彼方。えー、との驚きの顔の万千子。捨てる神あれば拾う神がここにいた、と感謝感激の泰子。

「ありがとう、雪村さん! この恩は決して忘れないわ。本当にありがとう!」

 演技でもない心からの言葉だった。はずだ。



 放課後。昨日と同じ図書室。

 彼方がタブレットパソコンを手にし、そんな彼方よりは反応も口も早い万千子が小春の相手をしていた。

「雪村さん大丈夫なの? 台本書いたことないんでしょ?」

「うん。でもこうしたのって今しかできないと思ったんだ。ちょっとは考えもあるし」

「え、もう考えができてるの? さすが小説家だね」

「小説家なんて大げさだって。でも前から小説以外という条件で考えてたものがあるんだ」

「小説は読むものだけど、舞台は見るものだからね。トリックの幅も広がって面白いよね」

 彼方が割り込むように会話に入ってきた。

 小春は心底驚いた。というのも自分が考えていたイメージをまんま言われたからだ。

「うん。小説って言葉でしか相手に伝えることができないから、つまり本来見れば1秒でわかるものを、言葉で表現して読まして理解させなければならないでしょ? だからトリックの幅が限られてくるの。解く手がかりは全て言葉にしなければならないから」

「……言われてみればそうだね」

「でも映像にすると幅が変わるの。例えば時計の針を動かすことで隠し部屋につながる扉が開く……そんな設定の場合に文字だとすぐにばれるけど、見るだけでよければ視界に入るところに置いておけばいいのだからやりやすさが違うでしょ?」

「あー、なるほど。……じゃあ、小説だからできることってないのかな?」

「え? 小説だから……か」

 万千子の質問に小春は答えられない。そこに彼方が助け舟。

「あるよ。反論はあるだろうけど、発表できる場としては漫画なり舞台なりミステリー作品を見せる場というのは少ないし、どれも気軽にはできないよね。でも小説であれば手軽に個人がネットで投稿する場が多いし、トリックと文章さえ書ければ誰にでもできる。絵はごく限られた技術でもあるからね」

「なるほどね」

 その助けられた舟に小春も乗った。

「どちらでも良さそうな話もあるけどね。例えばこんなの」




太郎と次郎は仲が良く悪かった。

事あるごとに2人で競い合って優劣をつけていた。

共通の友達である花子はいつもその審判係みたいなものだった。

今日は『間違い探しクイズ』をどちらが早く解くかで決着することにした。

花子は市販されているクイズ本から選んで2人の前に紙を用意した。

「ヨーイ、スタート!」

凄まじい闘志と共に始まった。

――のだが、10分、15分経てどもどちらの返事がない。

そこまで難しいのだろうか。

懸賞付きだから正解はわからないが、間違いは9つ。それを見つけるだけだ。

花子は後ろから2人の様子を見てみた。どうやら2人とも8つまでは正解しているようだった。それも同じ所が。

たかが1枚の紙の中から9つ見つけるだけなのにどれほどかかるのだろうか。そんなに難易度が高いのだろうか。手元の本を見るともらえる商品が図書券3千円が5名。微妙なレベルか。

それからしばらくして――花子がその『あと1つ』を見つけた。


Q.男2人が8つしか見つけられない謎。花子が残り1つを見つけた謎を解け。




「えー? 今回は特別な知識とかいらなさそうだけど……」

「なるほど。適度なヒントがあるいい問題だね。2度も出てくるのがちょっとサービスかもしれないけど。こういったバックグラウンドがあっての実際の映像なら面白そうだね。やっている側からすると骨折り損だけど」

 前回と同じく彼方にはお見通しのようだ。

「うん。確かにそうかもしれないね。それにしてもすぐに解いちゃうからつまらないな。すごいけど」

 小春の愚痴。最後のすごいは確実にオマケ的な発言だ。

「何だか2人だけで話進めて蚊帳の外みたい」

 みたいでなく実際にそうなのだが、そうなってしまってはかわいそうだ。彼方がネタバレという名の解答をした。

「問題にあるように、本からコピーをして2人に渡したのが読み取れるだろ? だから普通のコピーでは絶対わからないような答えだったんだよ。例えばカラーの問題だとか。当然モノクロになるから色違いには気づかない。解けるのは本を持っている花子だけってことだよ」

「へぇ~」

 万千子は感心するばかりで声を漏らすだけだった。

「ところで――台本の件の続きなんだけど、」

「うん。台本を明日までに作るのはさすがに難しいから、プロットだけは明日には書いてみんなの意見を聞こうと思うんだ」

「もったいぶるね」

 彼方が見せる含みのある笑み。小春もさらに上の笑顔で返した。

 あぁ、やっぱり推理がミステリーがこの時間が好きなんだな、彼方を見て小春はそう思うのだった。

 遅ればせながら2作目です。勝手に話が大きくなっているのは作者の意図なのかキャラ暴走なのか。

 話を大きくさせておいて何だこの程度かよ、と思われるのは仕方がな……そうならないように努力する次第です。

 ふぅ、がんばろ。

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