プロローグ
主な登場人物
◆此村 彼方(このむら かなた)
◆一色 万千子(いっしき まちこ)
◆雪村 小春(ゆきむら こはる)
私たちは幼馴染みたいな関係です。
幼馴染に『みたいな』なんて言葉が付くのは不自然かもしれないけど、それは完全ではないわけで、そして完全ではないからふと時に壁があるように感じます。
はじめまして。私の名前は一色万千子といいます。
晴海野高校に通う2年生です。
そして冒頭に私が言っていた幼馴染みたいな関係というのが此村彼方です。フルネームを言うとぎこちないですね。普段私は『彼方』と呼びます。
幼稚園……彼方が3歳の時に近所に引っ越してきて、それから小学6年までずっと同じ学校でした。ずっとといっても幼稚園と小学校だけだけど。
でも中学校は彼方が受験をして私立の中学校に行ってしまいました。私はそのまま地元の中学です。
だけど、中2の時に塾でばったり会って、さらに同じ高校を目指していることを知り、共に励み、見事合格。そして現在に至るわけです。
塾ではあまり感じなかったけど、高校の彼方は小学校の時とだいぶイメージが違っていました。小学校の時は比較的クラスの委員長を務めるくらいのまとめ役でしっかりしている印象だったのが、今ではクラスに隠れるような大人しい生徒です。
このお話は彼方と私の推理をトッピングしたラブストーリー。きゃっ。
業務放送ですが、このお話は上記のようなそれではありません。
もちろん推理ありの恋愛あり(?)ですが、素直に2人をくっつけられません。だって障害なしにゴールできたらつまらないじゃん。
万千子の最後の1行までは本当の話。
高校2年生の始業式。彼方と万千子は自転車通学。20分ほどの通学時間を特に何かを話すこともなくコンビニに行くこともなく学校へ向かった。
到着すると昇降口を経由し、2年生の教室がある3階に向かい、廊下に張り出されていたクラス分け表を確認した。
しばらく眺めていた2人だったが、万千子が名前を見つけた。
「あった。あったよ、彼方。同じA組だって」
「ああ、そうか」
家を出て駐輪場、そしてここまで「おはよう」の挨拶以外にまともな会話がない2人の2回目のコミュニケーションだった。
教室に入ると6×6に並んだ机と、廊下側前から50音表に並べられた名前が書いてある紙が置かれていた。万千子は一色なので縦1列目の前から2番。彼方は此村で2列目の最後尾。
それぞれ自分の席に着くと万千子は仲の良かった女子と手を合わせ話し始めるが、彼方は時々肩をたたかれ「よぉ」程度の挨拶はするが、席を立つことはなかった。
それからチャイムが鳴るまでの20分、2人はそんな感じであったし、担任が来ても彼方は特に表情を変えることなく、極々ただ高校生活を送るだけであった。
「先生、後ろの席が空いてます! 転校生ですか?」
机に置かれた『雪村小春』と書かれた紙にさきほどまでクラスの話題になっていたのだが、彼方は特に興味なし。
「ああ。えー、知っての通り、この春からこの学校に来た転入生です。始業式に紹介されるからここに来るのはそれ以降になるな。それで今日はクラス委員、委員会と席替えをするから覚えておくように」
はーい、そんな揃った返事が教室内に響いた。
始業式はいつものごとく演説のような欠伸連発の校長先生のお話から始まって各担任の紹介、そして――
「おいおい、まさかあの子か?」
「た、多分そうなんだろ?」
「でもあれって……」
体育館内がざわついている中、檀上に上がってきたのは女子であった。おそらく先ほどの担任の話とこの状況から転入生なのだろう。
しかし手が半分隠れた袖、優等生のような膝が完全に隠れたスカート。どうみても小学生がお姉ちゃんの制服借りてきました、といった感じなのだ。
「今年度から皆さんの仲間となります雪村小春さんです。彼女は2年A組ですので、皆さん、よろしくお願いします」
ペコ、とお辞儀をする様も絶対的な身長不足のためかどこか幼くかわいらしい。
檀上にいたのは2分もなかったが、彼女の存在は校内中に知れ渡ることとなった。
そのまま各教室に戻った後は、A組でも朝以上の盛り上がりだった。
ちなみにA組は学年を通して成績の優秀な生徒が集められている。仮の特進クラスみたいなものだ。まさしくガリ勉らしい生徒もいるし、部活と上手に両立している者もいる。それでも比較的頭脳派なクラスでもそれだけ盛り上がれる話題だった。
その後、すぐに担任が戻ってきてその後ろには例の女子。
「小っちゃーい」「かわいい~」などのBGMの中、再びペコっとお辞儀をして挨拶をした。
「雪村小春です。よろしくお願いします」
「えー、席はとりあえずそこだな。……えー、では早速だが席替えから始めるぞ」
用意周到に担任がティッシュ箱を持ってきた。中には1~36が書かれた紙が入ってあり、引くだけだ。
「じゃあ、秋葉と雪村。2人でじゃんけんして勝った方から引くぞ」
所詮どの順番で引いても確率は変わらない。自分の手で幸せを掴み取るか、残り物の福に期待するかという言葉の違いだけである。逆もしかり。未だにたいした興味をもった顔をしない彼方はここまでくればかなりの役者か本物だが、その答えは後にとっておく。
じゃんけんで勝ったのは雪村小春だった。そのままティッシュ箱に手を入れて……1つとった。
「……ん? 36です」
ということは窓側の最後尾。つまり現状維持である。
その瞬間ドッと笑いが出た。そしてその瞬間男どもは逆算し始める。どこか真ん中であれば前後左右4ヶ所で繋がるチャンスがあるのだがオセロの角みたいな場所になるとは誰が想像できたか。しかし逆を言えば独占できるということである。つまり前の35か彼女の右横になる30の2つしかない。そこに自分自身の駒を置き、もうこの際小春色でいいから染められたい、いやこれはオセロではないから俺色に染めさせるぜ。
そんな事を説明している間に既に半分が終わり、玉砕していった。残る男は期待に満ちた思いを指先に託すも同じく玉砕。そして彼方へ回ってきた。
特に考えないまま普通に引き、開くと30の数字。
「うわっ、此村30引いた!」「うっそ!?」「まじかよ」
最終的に角の雪村小春、右横の30番が此村彼方、前の35が一色万千子になったのは誰の陰謀だろうか。あらかた作者だろうが。
これが3人の出会いといえそうな出会いだった。
その時はまさか互いがどうにかなるなんて思ってもいなかっただろうし、期待もしていなかった。それが小さなきっかけを機に無限に広がる――
言い過ぎました。
小さなきっかけを機に有限に広がる物語。
まだプロローグです。
最後がちょっと大げさでしたが、『推理モノ』+『3人の物語』と別けて考えていただいてもかまいません。
できれば1作品に1つのネタを投下できればと思いますが、かなり長くなってしまいそうなので、前・後で別けるかもしれません。