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第4話 ルアとラグン③

 

 不死であるミヨクの時間が、再び逆流する。


 今回で実に5度目の経験だったが、顔面を握り潰されて殺されるという死に様は、何度経験しても死ぬほどに痛く、精神が削られるものだった。時が巻き戻り、肉体が蘇ったとしても、魂に刻まれた死の恐怖からは容易に立ち直れない。


 ──だが、感傷に浸っている暇はなかった。


 15歳から18歳ほどの少年の姿でハッと目を見開くと、そこには極大の魔力放射を受けて大の字で横たわるラグン・ラグロクトがいた。更にそこにソクゴとファファルが突如として現れ、ミヨクは作戦その2の成功を即座に悟った。


 ミヨクは間髪入れずラグンの側頭部に掌を置き、魔法を唱えた。

 

 時の魔法──


「ヨリロ・コンネン・ネ《絶対快眠をあなたに》」


 刹那、ラグンの猛々しい呼吸が穏やかな寝息へと変わった。眠りに落ちた瞬間、ラグンの左腕を覆っていた不吉な黒が剥落し、肌と同色へと戻っていった。


 そこにソクゴが、すぐに封印の魔法を繋げた。


「ピロー・ステッカー・アビッスス《永遠にな》」


 ラグンの顔を光の球体が包み、それが幾重にも重なって厚みを増していく。最後にファファルが空間の魔法「シネ《死ね》」を唱えると、ラグンの身体は夜の闇のような虚無に呑み込まれ、やがて一枚の木製の扉へと姿を変えて地面に倒れ伏した。



 ◇◇◇



 ミヨクの時の魔法は、対象を強制的に深い眠りへと誘う。一度かかれば、一生起きられないほどに安らかな永眠へと。ただし、この魔法には安全装置があった。ミヨク自身が魔法をかけたことを忘れた際、相手を殺しきってしまわないよう、強い衝撃を与えれば解ける仕様になっているのだ。過去には「強めの寝返り」で起きた事例さえあるほどに。──だが、それほど強い衝撃がない限り、絶対に起きられない。絶大な魔力を誇るルアでさえ例外ではないことは、既に実証済みであった。


 そこへ、ソクゴの封印魔法が完璧な守護を施した。天災や外敵の攻撃はもちろん、肌に触れる埃や虫のむず痒さ──つまりは、寝返りを打たせるきっかけさえも完全に遮断したのだ。


 光の球体を分厚く重ねたのは、ラグンの左腕があらゆる魔法を無効化するがゆえの苦肉の策であった。ただ幸いにもその特殊能力は眠ると消えた(ただしこれも想定内。何故なら、あの左腕が発動しっぱなしじゃ、無意識の寝返りで自分の身体に触れただけで自滅しちまうからな。眠る時に能力が解除されるのは、奴自身の生存本能だろうぜ、と事前に考えられていたから)ので杞憂で終わったのだが。


 そして更には、空腹で目を覚まさぬよう栄養補給の術式まで組み込んだソクゴの封印魔法は、完璧な快眠を約束した。


 それをファファルが空間の魔法で別次元へ閉じ込めた。音も光もないただ心地よいだけの浮遊空間に。自力では2度と起きてこられない深淵に。


 ラグン・ラグロクト、強制永眠完了。


「いや、まだだ」


 ミヨクは扉に掌を重ね、「ゴ・シト・オノツ・タ《この扉の向こうは超スローモーション》」と唱えた。この魔法の効力は、扉の向こうの時間の流れを限りなくゆっくりにするもので、万が一の目覚めを気の遠くなるような未来へと先送りにしたのだ。


「俺が不死っぽいからさ。ラグンも不老不死って可能性があるんだよね。だからこれも苦肉の策…….」


 ミヨクはそう言ったが、爆発で鼓膜が破れたソクゴはジェスチャーで「聞こえねえ」と示した。


「……いや、お前ら世界最高レベルの魔法使いだろ……鼓膜が治るまで、魔法で仮耳くらいすぐに作れるだろ?」


 ミヨクの呆れ顔に、ソクゴは「冗談だ」と笑い、ルアは

「……そもそも、わらは」と答え、ファファルは黙って背を向けた。


 ──そんなファファルに、ミヨクは「何だ、お前はそういった魔法は苦手なのか? 仕方ないな。だったら俺が手伝ってやるよ」と、下心(恩を与えて借りを作る為)丸出しで近付いた瞬間、バチンッ!! と、恐ろしいくらいに一切の躊躇のない顔がねじ切れるほどのビンタを食らった。


「あっ……」

「あっ……」


 ルアとソクゴが声を漏らし、沈黙が降りた。


「だ、駄目よ、ミヨク……。ファファルは男性嫌いなんだから。迂闊に近付いちゃ駄目よ」


 ルアがそう諭す中、ミヨクは赤く腫れた頬を押さえ、瞳に涙を浮かべた。


「クハハハハハッ! 泣くのかミヨク! ……ってか、本当にお前、時間が巻戻るんだな。初めて生で見たぜ。白髪まで真っ黒になりやがって。ただ、ちっとガキすぎねえか?」


「……たぶん15歳くらい。そのせいか精神的に弱くなっていて、だからビンタ一発で本当に泣きそうだ……」


「クハハハッ! さっき顔面グシャグシャにされた時は泣かなかったのになあ!」


「……あれさ泣く暇がなかっただけだよ。一瞬だったから。あと笑いすぎだソクゴ。俺はお前より200歳は年上なんだからな」


「うるせーよ、ガキ! クハハハハ!」


 さっきまでの緊張感が嘘のような間の抜けたノリ。それをルアはただ冷ややかに眺めていた。



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