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第39話 ギンロシの大陸の仙人⑬


 闘王モード。


 ──とは、特にミヨクが60歳くらいになった時に物忘れが多くなり、ついうっかりとゼンちゃんとマイちゃんの時間(魂の意)を抜き忘れて眠ってしまった時に眠る機能が備わっていない2人が2人で遊ぶ為に編み出した本気の組み手の事であった。


「──まさか、オラ相手以外にも使う事になるとはね。ミョクちゃん、どうやら相手は強いようだよ」


 マイちゃんも闘王モードなのか、ちょっと喋り方が血生臭かった。


「……」


「行くぜ!」


 先制攻撃はやはりゼンちゃんであった。体長80センチの小さな身体で驚異的な速度を見せるとハムラとの距離を一気に縮めた。


 ハムラは、だからなんなんだよコイツは? なんで攻撃を仕掛けてくるんだよ、と思いながら、それでコイツの気が済むなら、と敢えてゼンちゃんの攻撃を受けてやる事にした。俺の鉄壁の防御に攻撃が効かないと分かれば諦めてくれるだろうと考えての事であった。が、甘かった。ゼンちゃんのパンチを舐めていた。なにせゼンちゃんは身体構造は綿でも動力は世界最強の魔法使いのミヨクの魔力なのだから。故に「──魔力パンチ!」の掛け声と共に腹を殴られると、それだけで足裏が宙に浮き上がり「グハッ!」と胃液が口から飛び出ていった。


 倍以上の身長差を覆す異常な威力にハムラは堪らずゼンちゃんを蹴り飛ばした。


「グエッ!」


 だがゼンちゃんは悲痛の声をあげるが先程同様にダメージは少しもなく、すぐにまた何事もなかったかのように猛ダッシュで距離を詰めるのだった。


 ハムラは現在は聖上高気のナカマエくらいの気聖しか纏っていなかったのだが、そこで一気に新聖気まで高めた。


「いい加減にしろよぬいぐるみ!」


 その瞬間、仙人の気聖の濃度が天井の山より低い樹海ではその圧力に大気と木々が耐え切れずに激しく揺れ、その異変に気付いた幾人かの下位の気聖使いたちは恐れ慄いた。


 なんかヤバいレベルの気聖使いが居るぞ……天井の山から降りてきたのか? 俺たちが闘えるレベルじゃない。遠くに離れるぞ……と。


 ミヨクもハムラの変化には気づいたのだが、基本的にミヨクは自分の身に何か危険が迫ったら超高度な防御魔法が作動するようになっているので、その強力な圧力までは感じられないようになっていた。


 ちなみに、この世界では魔法はあくまでも“天災を模した”ものであり、必ずしも“天災と同じ効果があるわけではなく”、なによりも“優劣も天災の方が上”であり、したがってミヨクがあらゆる攻撃を防ぐ魔法を使っていたとしても雨は防げないのであった。ただ世界を止める時間だけは何故かそのセオリーを無視しているのだが、その理由は未だに謎であった。


 ──と、そんな余談は尻目に、ゼンちゃんがまたもやハムラの腹にパンチを打ち込んだ。が、それに対してハムラがダメージを負った様子はなく、ゼンちゃんはまた蹴って吹き飛ばされた。


「グエッ! って、なるほどな。なんか硬くなったんだなお前。だからオイラの魔力パンチが通用しなかったんだな。それが本気か? だったらオイラも本気の本気だ!」


「闘王モード・修羅だね」


 ゼンちゃんに続いてミヨクの隣でマイちゃんがそう言った。


「……修羅なんだ……随分と難しい言葉を知っているんだね……」


 ミヨクは取り敢えずそう言った。


「ゼンちゃんは本気の本気になると修羅になるんだよ。それで本気の本気の本気になると極修羅になるんだよ。それでそれで本気の本気の本気の本気になると極修羅改になって、更に本気の本気──」


「あっ、と、も、もういいかなマイちゃん……と、とにかく強くなっていくって事だね」


「それがねミョクちゃん。強くなっていくかどうかは実はよく分からないんだよ。なんか修羅とか、極修羅って言った瞬間は勢いがあって強くなったような気がするんだけど、なんかゼンちゃんの強さってそもそも安定してないんだよね。波があるんだよ。なんかね、もしかしたらゼンちゃんは闘いというがそもそもよく分かってないのかも知れないんじゃないかな。遊びと闘いの区別がついてないんじゃないかな? だからゼンちゃんってさっきから攻撃を躱さないでしょ? 攻撃されて飛ばされて、それを楽しんじゃってるんじゃないかな」


「……マイちゃんは闘いについて詳しいの?」


「うん。オラ、ゼンちゃんとの本気組み手で全勝だからね。178戦全勝。だからオラは闘いに詳しいんだよ。オラはちゃんと攻撃を躱すしね」


「……全勝なんだ……。178回も闘っているんだ……躱すんだ……。それにしても確かに俺は年寄りになったら急に眠くなって寝ちゃう事があるけど……178回も2人を放置しっぱなしだったをだ……」


「あっ、それよりもミョクちゃん。ゼンちゃんがまた蹴り飛ばされたよ」


「グエッ! よし、だったら極修羅だ!」


 ゼンちゃんはそう言った。そしてそれは、つまりは離れた場所からのダッシュパンチの事であった。何が極修羅なのかは分からないが、けれどその威力は割と絶大でハムラも堪らず「グハッ」となった。


「──嘘だろ? 俺は今は新聖気だぞ! お前、どれだけ強いんだよぬいぐるみ!」


「お前もなかなかだぜ。オイラの魔力パンチを受けてまだ立っているなんて、なかなかだぜ!」


 ゼンちゃんは何故かとても楽しそうだった。そしてハムラもまたまんざらでもなさそうな表情をしていた。


「なんかよく分からねーけど、仕方がねー、俺も本気でやってやるよぬいぐるみ! 覚悟しろよ! 気聖使いの新聖気の俺の本気だ!」


 そうして、ゼンちゃんとハムラ(ちなみに両腕と肋骨は折れている)の本気の闘いが始まった。



 ◇◇◇



「違うんだよなあ……」


 マイちゃんは2人の闘いをじっと見つめながらそう言った。


「──ゼンちゃん、それは相手のフェイントで、次の次の次の攻撃が本命なんだよ。なんで分からない

んだろう? オラならこう動いてこうなのに。あっ、それも、違う。その動きはそっちじゃなくて逆方向だよ。あ、ほらっ、連続パンチされた。あー、もう……」


 ミヨクはそんなブツブツと呟くマイちゃんを見て、先ず2人の動きが完璧に見えてるのが凄いよ。俺は攻撃の際の2人の手足の動きが速すぎて完璧には追えていないよ……それよりなにより、マイちゃんのブツブツはちょっと怖いよ。と思っていた。


 その時、何故かゼンちゃんがマイちゃんに向かってドロップキックをしてきた。


「さっきらからうるせえんだよマイ! 喰らえ!」


 ──が、そのドロップキックをマイちゃんは見事に躱した。


「ゼンちゃん。今のオラも闘王モードだよ。だから簡単に躱せるんだよ。そして、もちろん知ってるよね。闘王モードの掟を。ゼンちゃんが言い出したんだもんね。闘王モード中はどちかが攻撃を仕掛けたら、それが闘いの開始の合図だったよね!」


 マイちゃんはそう言うと、先ずはゼンちゃんをハムラの方に投げ飛ばし、そして自身も凄い脚力で距離を詰めて行った。


「──オラも、オラも混ぜて混ぜて! 2人まとめて稽古してあげるんだよ!」


「なんだと、生意気な! 今日こそオイラが勝つぜマイ!」


 ミヨクとハムラは同時に思った。


「……」


 と。



 ◇◇◇



 3人の闘いは15分に及んだ。最終的には満身創痍のハムラの体力が無くなり、ぬいぐるみ2体の勝利となった。


「……ずりーよ、あのぬいぐるみたち……そもそも俺の攻撃が全く効かないんだから……」


 なにせ綿だから。けれど魔力パンチは当たるという正に不公平な状況。おまけに、これはハムラの予想なのだが、あいつら体力とかそういうのないだろ……。


「──……本当ずりーよ」


 ガク……。こうしてハムラの長い一日が終了した。シルドナとの激戦に始まり、アフロべア、謎の女子高生、奇跡の力、エヌロク、そして二体のぬいぐるみ……。本当に彼は疲れきったように気を失った。


 ゼンちゃんとマイちゃんの闘いは続いていた。だからミヨクが、「そろそろ行くよ」とようやく声をかけた。


 すると、「おっ、そうか。じゃあ続きはまた今度だマイ」とゼンちゃんがすぐに言い、「そうだね。ミョクちゃんが行くって行ったら行かなきゃね。でも、楽しかったねゼンちゃん」とマイちゃんも応えて、2人は闘王モードを解除した。


 故に、その瞬間を見計らっていたようにゼンちゃんがマイちゃんを蹴って泣かせるのだった。


「生意気なんだよマイ!」


「ぐおーん、ぐおーん。ミョクちゃん、ゼンちゃんがまた蹴ってきた。ぐおーん、ぐおーん」


 ミヨクは思った。うん、俺も今日はなんだか疲れたから無視でいいや、と。


「……」


「……」


 ちなみに、この後で3人が気聖使いたちに襲われる事はなく(たぶんハムラが気聖使いたちを遠ざけたから)、樹海を簡単に抜けたのであった。


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