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第33話 ギンロシの大陸の仙人⑦


 バタ足で泳いでいるゼンちゃんを見てマイちゃんが「あっ、オラも、オラもやる」と興味が仙人からそちらに移ったようで、故にミヨクがこれみよがしに「って事でこの恋だっけ? の話は一旦終了な。そもそも俺、お前の恋に全く興味がないんだ。特にその相手がファファルだから余計にな。正直、気持ち悪いとさえ思っているんだ。本当の本当にな」と、物凄く酷い事を言って仙人の淡い恋心をへこませた。


「……」


「……」


「おーい、ミヨク!」


 そんな2人に割って入るようにゼンちゃんがそう声をかけた。


「──オイラ、クロールっていう泳法をやってみたいから教えてくれ」


 ミヨクはゼンちゃんにそう言われて、勿論いいよ。と快諾しようとしたのだが寸前の所でゼンちゃんの短い手足の長さでは不可能だと気付き、「……あ、いや、ゼンちゃんはクロール覚えなくても大丈夫だよ。あれって息継ぎが必要な人がやるものなんだ。ほら、ゼンちゃんとマイちゃんはそもそも呼吸とかしてないから大丈夫なんだ。逆にバタ足だけでずっと泳げる方が凄い事なんだよ」と、適当なのか的を射ているのかよく分からない言葉でごまかした。


 ただ、マイちゃんはショックを受けていた。


「してないんだ……オラ、呼吸してないんだ。オラ今まで呼吸をしていると思っていたからちょっとショックだよ……」


 そんなマイちゃんにミヨクは、基本的にぬいぐるみだからね。と教えようかとも思ったのだが流石にそれは気が引けていると、ゼンちゃんが「大丈夫だマイ。そもそもオイラとマイは呼吸がなんなのか分かってないんだから。しているとかしてないとか、そんなのは些細な事だ」と言い、マイちゃんも「そういえばそうだねゼンちゃん。オラもミョクちゃんに無いって言われたからショックだっただけで、本当は呼吸がなんなのかよく分かっていないよ。ただオラにも分かるのは、オラたちが生きる上では必要がないって事だね、ね、ゼンちゃん。だからオラはもうショックから立ち直ったよ。さあ、泳ごうゼンちゃん」となんだか納得してくれたようだった。


 生きるのに呼吸が必要のないぬいぐるみ。仙人は恋パナ(しかも初恋)の強制終了の件も含めてミヨクに何か言いたかったのだが、ゼンちゃんとマイちゃんのバタ足のバシャバシャがやがて仙人の顔面に飛んできて、その威力で眼鏡が落下をし、それを湯の中から拾い上げて再び掛けると、なんかどうもよくなってきたのでゼンちゃんとマイちゃんの楽しそうな様子を見て「ホッホッ」と笑う事にした。


「──ところで、ミヨクはどうしたのですか? 随分と久しぶりの再会ですが……もう100年以上経つんじゃないですか? 何かあったのですか?」


「あっ、うん。そうだね、100年以上は経ったかもね。前に会ったのがいつだったかはもう忘れたけど、確かその時の仙人の髪形は真ん中分けだったような気がするよ」


「……ああ、だったらやはり100年以上前ですね。そのくらいの頃の髪形です。儂は不老ではないですから、やはり老いに応じて髪形の分け目は変わりますからね」


「ああ、まあ、毛量は変わるよな。俺も不老ではないからその気持ちはよく分かるよ。禿げるのは嫌だよな。あっ、そういえば、俺がここに来た理由だっけ? いや、特に深い理由はなく気紛れなんだけど、ついでだから教えておくな。ラグン・ラグロクトがそろそろ復活するぞ」


「ああ、気紛れでした。だったらゆっくりしていって下さい。温泉以外には何もありませんが。えっ? ラグン……ラグン・ラグロクト!? あのラグン・ラグロクトですか? え、ええー! そ、それって物凄く重要な話じゃないですか!?」


 仙人のその驚きは今日一番この天上の山を揺らした。



 ◇◇◇



 魔法使いや気聖使い、魔獣、神獣、神に使命を与えられて作られたルア、etc、と、普通に暮らす力を持たない普通の人々よりも圧倒的に強い存在が数多いるこの世界の中でも、未だに歴代一位の害悪として長寿者(ミヨクや仙人やファファル等)に記憶されているのがラグン・ラグロクトであった。結局ルアさえ倒せなかった最強にして最悪な世界の絶望の主。その復活の話は仙人の心をやはり騒つかせた。


「──儂が生まれた日に儂の国を滅ぼした存在。ラグン・ラグロクト……」


「……そうだね。その後で国どころか大陸も滅び、実に80%くらいの生命が死んだね。世界の誰もがラグン・ラグロクトの恐怖を認識した悪夢のような7日間だったよ……」


「確かミヨクはその悪行をずっと見ていたんですよね……」


「……うん。見ていたというよりは、見ている事しか出来なかったが正しいかな。ラグン・ラグロクトには魔法が効かないからね。全くね。完璧にね。だからラグン・ラグロクトの最悪の悪行を見て、ただ見て、ああ世界は滅ぶんだな、と思う事しかできなかったよ」


「それが復活するんですね。ミヨクやファファル様の魔法が通用しない最悪な存在が」


「しかも今度はルアも居ないし、封印の魔法使いのソクゴも居ない状況でね」


「世界は滅びますか?」


「分かんない。ただ、あのままの……800年前と同じなら世界は滅ぶと思うよ」


「と、言いますと?」


「ここに来る前にオアの大陸で作成の魔法使いにも言ったんだけど、俺、実は知らないんだよラグン・ラグロクトの事を。ある日、急に現れて、それで7日で大陸を滅ぼしたんだよアイツ。それまで何処に居たのかも知れないし、何をして、どんな奴なのかも知らないし、話をした事もないんだ。なにせ俺が見たラグン・ラグロクトはおそらく理性を持たない獣のようだったからね。だから、今思えばなんだけど、もしあの状態をその身に神獣を宿した事による暴走だったと仮定するのなら、今回の復活にワンチャンないかな? と俺は考えていたりするよ」


「どういう事ですか?」


「今回の復活でラグン・ラグロクトが800年前の続きの状態なら世界は終わり。そうではなくて、神獣による暴走状態から解けて理性があり会話ができるようなら、世界が滅びない可能性もあるんじゃないかな、て事」


「なるほど。理性の有無。それが鍵だと?」


「そう、だからワンチャン。だから俺だいぶ前に夢の魔法使いに頼んでいたんだよ。ラグン・ラグロクトが復活する日が分かったら教えてくれって」


「会いに行くんですか、ラグン・ラグロクトに?」


「行く。行って、理性があるのなら話してみよえと考えいるよ。どの道、ラグン・ラグロクトは倒せないんだから、だからワンチャンの奇跡のような希望に縋りたいんだ」


「儂でも無理ですかね?」


 仙人はそう言った。


「──儂は魔法使いではありませんし、800年前には気聖もありませんでした。何よりも儂はラグン・ラグロクトが滅ぼした国の唯1人の生き残りです」


「……分かんない」


 ミヨクはそう答えた。


「──でも、そうなんだよね、今は800年前とは違うんだよね。あの時は俺とソクゴと……まああとはファファルが最強だったけど、3人とも魔法使いだったんだよな……。魔法はラグン・ラグロクトとは相性が最悪だったから、もしかするとお前やお前に等しい力を持った魔法使い以外なら倒せるのかもな……」


 とはミヨクは言うものの、本当はルアとラグン・ラグロクトとの戦いを間近で見ていたから、その可能性は恐らく低いなとは思っていた。


 神に使命を与えてられて作られた、神に最も近い存在であったルアでさえも倒せなかったラグン・ラグロクト。


「──まあ、でもどの道ラグン・ラグロクトが復活したら世界は奴と戦わなければならないだろうからな……。俺はもう見ているだけは嫌だからその前に最善を尽くすよ。お前はラグン・ラグロクトが復活するって事だけは覚えておいてくれ。現在のこの世界の最強の1人として」


 現在の世界の最強の1人、気聖の生みの親ロシ仙人。


「……その割には、ついでみたいな感じで話していませんでしたか? ラグン・ラグロクトの事を?」


「……うん、ごめん。ほら、俺ってあんまり深く考えて生きていないから。どうせお前もいざとなった時にしか動けないだろ? お前が動いたら気聖の被害に遭う人間が多々いるんだから。それも踏まえると、そもそもお前は最初から最後の切り札なんだよ」


「最後の切り札……。言葉の響きはカッコいいですが、ごまかさないで下さいミヨク。前々から言いたかったのですがその適当な性格はあなた最大の欠点ですからね」


 ミヨクはなんだか怒られた。200歳以上も歳下の仙人に怒られた。なのでマイちゃんがピクリと反応をしたが、よく考えると仙人はもう友達(さっき一緒に遊んだから)なので、やんわりと聞き流していた。いや、それよりも実はバタ足が楽しくてしょうがなくなっていた。


「おい、マイ、両手もバタバタして見ろ! もっと早く泳げるぞ」


「あっ、本当だ! 早いね。早いよ。楽しいね、楽しいね」


 バシャバシャバシャバシャ。その後、仙人の眼鏡は4回ほど湯の中に落ちたのだった。「ホッホッ」。


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