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第15話 オアの大陸の勇者と魔王⑧


 時は遡る。


 あの日、魔王に全滅させられそうになった瞬間、ユナの死のお守り——空間魔法によって救われた、あの運命の分岐点へ。


 その魔法の使えない状態で。


 舞台は魔王城の玉座の間。


 初めて魔王と対峙した勇者一行は、まずその風貌に言葉を失った。


 人間。男。高身長。そして目を疑うほどのイケメン。


「えっ? モデル? 超カッコイイんですけど」


 オシャレ魔道士ミナポが即座に食いつく。遅れて階段を駆け上がってきたユナも、その輝きを前に「うわっ、眩しッ!」と驚喜の声を上げた。


「ふざけやがって……」


 勇者は一人、ギリギリと歯軋りをした。


「よく来たな、勇者よ。俺が魔王だ」


 魔王は、手には魔法書を持ち、8等身のスタイルを紺色のスーツに包み、グレーの長髪を爽やかに掻き上げた。そして白い歯を見せて微笑むその姿は、あまりに不敵で、あまりに美しかった。


「ふざけやがって!」


 勇者はさらに語勢を強めた。


「いい気構えだ」


魔王は、また白い歯をきらりと輝かせる。


「──勇者よ、この魔王城の攻略に来て今日で3日目か? ようやく1階の迷宮と、2階の四天王を倒したみたいだな。これは褒美だ」


 魔王はそう言うと、いつの間にか勇者一行の背後には中型の亀のようなモンスターが二足で立っていて、それらが一斉に勇者たちの背中に触れると、数秒後にコテンと甲羅から後ろに倒れ、そして消滅した。


 まさかの先制攻撃に勇者一行は顔をこわばらせた──が、急に身体中に力が溢れてきて、魔道士たは魔力が完全に復活したから余計に驚かされた。


「フェアにいこう」


 魔王のその一言に、ミナポとユナが「ヤバっ、カッコイイ」と声を揃え、「後悔するなよ、色々と。絶対に殺してやるからな」と勇者はキレた。


 戦闘開始──


 すぐに勇者が腰に下げていた鞘から剣を抜き、そして魔王目掛けて走り出す。


「うおおおおーー!」


 ──が、それは囮。その間にミナポが戦士マードリックを詠唱を終えた風の魔法で吹き飛ばし、瞬時に魔王との間合いを詰めようとした。


 ──だが、その突進は突如として魔王の前面に現れた岩で作られた巨大な掌によって防がれた。


「【ハンドストーン《13頁右上部》】」


 魔王は魔法書を開きながらそう唱えた。もう片方の手で髪を掻き上げながら。


「……さすがに魔王の魔法は詠唱なしよね。けど、その程度のモンスターじゃマードリックは止まらないわよ」


 ミナポがそう言った刹那、岩で作られた掌のモンスターが断末魔の悲鳴を上げながら消滅していった。


 長さ2メートル、重量60キロを超えるマードリックの大剣による一撃。その威力は地面をも揺らした。


「ミナポ、相手がイケメンでも普通に攻撃するんだな。安心したぜ」


「それとこれとは話が別に決まってるでしょ。敵は倒すわよ」


 そう言ってミナポが杖を向けて再び風の魔法を放った──が、今度はその風自体を魔王がハンドストーンで受け止めた。


 ──が、刹那、勇者が魔王目掛けて飛び上がっていた。


「うおおおおおーー! 死ねッ!」


 勇者の華麗なる一閃──


 ──しかし、それも寸前の所で魔王の前面に現れたモンスターによって防がれてしまった。


「【ゴクノヤミキシ《329頁一面》】」


それは、3本腕の顔だけが骸骨の人型のモンスターで、それを見た瞬間、勇者一行は驚愕をした。


 何故ならそれは、この魔王城の2階で倒した四天王の一角だったからだ。


「う、嘘でしょ……。凄く苦労して倒したのに……。魔王は四天王も出す事ができるの?」


「言い忘れていたな。俺が“作成魔法”で作ったモンスターはこの魔法書に保管されていて、いつでも出す事が可能だ。最高戦力の四天王も例外なくな。そしてその数の上限は俺の魔力の量に委ねられる」


 魔王はそう言うと、ゴクノヤミキシを10体出現させた。


「そ、そんな……一体でも苦戦したのに……」


「桁が違う……魔力の……」


 ユナとミナポは戦意喪失し、膝から崩れ落ちた。


「立て!」


 すかさず勇者が声を上げた


「──それでも立つんだ! 俺たちは魔王を倒す為にここに来たんだから! 戦う勇気だけは失うな!」


 鼓舞。さらに勇者は一刀のもとにゴクノヤミキシの一体を斬り伏せた。


「──俺たちだって強くなっているんだからッ!!」


「そうだ、挫けるな! 勇者に続け!!」


 戦士マードリックが巨大盾を構えながらゴクノヤミキシの群に突っ込んでいく。


「そうね。心が負けたらそこで終わりだもんね!」


 オシャレ魔道士のミナポが立ち上がり、風の魔法で2人を援護する。


 ユナは──


 ……ユナは──


 冷静に状況を見極めていた。


 確かに勇者の一撃でゴクノヤミキシは葬れたけれど、それは会心の一撃のような、ラッキーパンチのようなもので、現に残りの9体には躱されていたし、防がれていたし、寧ろ反撃されて押されていた。しかもゴクノヤミキシには極モードという格段に強くなるふざけたモードがあり、それを今まさに発動してきた。


 状況が地獄絵図のようになった。マードリックの自慢の大剣と鋼の巨大盾が粉々に壊され、勇者の華麗なる一閃がバシッと乾いた音を鳴らして手で受け止められ、ミナポの風の魔法は既にそよ風のように役に立っていなかった。


「そ、それでも! それでも俺たちは勝つんだ!!」


「おおっ!!」


「負けるもんですか!!」


 ユナはそんな3人との温度差を感じながら、だからこそ苛々し始めて、そしてキレた。


「うっっぜーッッ!!」


 天を衝くような咆哮。


 その場に居た誰もの行動を静止させた。耳の機能があるのか分からないゴクノヤミキシでさえも。


「えっ、ど、どうしたんだユナ? ってか、今のってユナ?? えっ、ユナそんな大声……? えっ、うぜー?? えっ、えっ? えっ?」


「えっ、えっ、えっ、ってうるせーよ勇者!」


 ユナは即座にそう怒鳴りつけた。


「──あーっ! もうウンザリだわ、マジで! もう全滅間違いないから言っちゃうけど──私、マジでオマエらの事が大嫌いだったんだわ!! すげー嫌だったんだわ、オマエらと旅したこの10年がな! 少しも楽しくなかったわ、いや、マジで!!」


 それは勇者一行にとって何よりも衝撃的な一言だった。ゴクノヤミキシに大剣と巨大盾を砕かれた時よりも、ゴクノヤミキシに剣を簡単に受け止められた時よりも、もはや風の魔法がそよ風になっているなと本人さえも気付いた時よりも、何よりもショックだった。


「ど、どうしたんだユナ? ユナは優しい聖母だろ?」


「そ、そうだよ、ユナはそんな発言をしないだろ……はっ、分かったこれも魔王の仕業か? 精神魔法のような──」


「……俺は、精神魔法は使えないぞ」


 魔王はそう言った。


「違うわ。ユナの本心よ。これはただの本心よ。この危機的状況の中で遂に本性を曝け出したのよ!」


 ミナポはそう言った。


「──私は薄々気付いていたわよ。ユナ、あなたが性根の悪い女だってことは。皆から聖母なんて言われてそれを鵜呑みにする人間なんてちょっとおかしいもの。ずっとニコニコしているなんて人として薄気味悪いもの。だから私はずっと──」


「うるせー! 知ったような口を利くんじゃねー! オマエは……オマエらは何も知らねーよ、私の事を! 優しい私の性格に付け込んで何でも押し付けてきやがって!! こっちだって面倒くせーんだよコノヤローが!!」


「な、何よアンタいい加減にしなさいよ! あんまり調子に乗っていると吹っ飛ばすわよ」


「ああっ!? やってみろよ! そよ風しか出せないいくせによ! このブスがっ!」


「ブッ……? 何ですって!? だ、誰がブッ……なのよ? 私がブッ……ならアンタなんて超ブスでしょうが!」


「うるせー、ブス! 黙れ、ブース!」


「ふざけんじゃないわよ、超ブス! 超ブース!」


 魔王はそんな様子を眺めながら、9体のゴクノヤミキシを魔法書の中にそっと戻した。


 そして、新たに丸テーブルと椅子の形をしたモンスターとティーセットのような形のモンスターを出現させると、その椅子に座り、ティーポットから紅茶のようなものをティーカップに注ぎ、そして優雅に飲み始めた。視線は勇者一行に向けて、楽しそうに笑みながら。


「これも、また一興」


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