番外編短編・文花の独り言
復讐。倍返し。ざまぁ。スカッと。世の中のエンタメやSNSは、人の悪意をありのままに肯定していた。
「ふふふ。だったら私も小説の中で夫の愛人に復讐してやるわ」
川瀬文花、サレ妻の専業主婦だ。今は家にこもってWEB小説を執筆中。殺人事件に巻き込まれた経験をもとに、サレ妻公爵夫人が愛人調査能力で探偵になる話だ。
夫は作家だ。しかも不倫を芸の肥やしにしているような男。こんなWEB小説を書き始めたのも、文花なりの復讐だったりもする。
「ちょ、文花ちゃん! そんなおっそろしいWEB小説書くの辞めろ! しかも俺の妻だと匂わせながら投稿するとかマジ辞めて! SNSでは暴露系WEB小説だと炎上もしているじゃないか! 文花ちゃん、一体何回炎上を繰り返すんだ!」
夫はこの様子に呆れ、怯え、WEB小説を書く文花にもすっかり怖がっていたが、知らない。世の中、周りを見渡してもエンタメを見てもSNSを見ても復讐を肯定するようなもんしかない。
文花は悪いことをしている自覚は全くなく、ノリノリでWEB小説内で愛人キャラを殺し、ざまぁしていた。
しかし、その目論見、なぜか上手くいかず。
「文花おばさん、響子です」
親戚の女子高生、佐川響子が遊びに来た。女子高生のくせにおばさん臭く、人の噂が大好きな子。文花のこともネタにして楽しんでいるらしい。イライラする。家に来てもすぐにつまみだしたが……。
その直後だ。おかしなことに、WEB小説がうまく書けない。なぜか愛人を殺す展開にいかず、あろうことか愛人と推し活する展開になってしまう。
「は?」
指が勝手に動き、全然プロット通りにいかない。まるで神様に操られているような感覚。このWEB小説、愛と平和のゆるゆるなろう系作品に仕上がる。まるで別人格の「誰か」が書かせたみたいじゃないか。しかも夫もこの様子を見て、感心し、小説の書き方の基礎など教えてくる始末。
「な、何これ?」
困惑していると実家から電話がかかってきた。なんとあの佐川響子が交通事故にあい、一時期死にかけていたらしい。脅威の回復力で後遺症も全くないらしいが、記憶喪失気味で「自分は異世界転生した」と言っているとか。
「は?」
ますます意味がわからないが、とりあえず響子がいる病院へ。
元気そう。こんな入院中も看護師と噂話で盛り上がっているってどういうこと……?
「ねえ、響子ちゃん。サレ妻の私は復讐していいのかしらね」
病室でなぜかつぶやいてしまう。ヘラヘラ笑っている響子を見ていたら、気が抜けて溢れた。
「それで文花おばさんが自分のことを好きになれれば」
「は?」
「結局、そんな復讐したいのってさ。自分のことを否定しているからじゃない? 自分が誰よりも愛されているって自覚あったら、復讐ってしたいのかな?」
「愛されてる……?」
響子の言っている意味、わからない。そんな感覚、全くわからない。夫にはメンヘラ地雷女だと怖がられている。愛されているなんて……?
思わず病室を飛び出しロビーへ逃げると、一人の男が座っていた。妙な男だ。一見三十歳ぐらいだったの男が、聖書を読んでいた。牧師だという。名前は羽生尋人。よく病院に出向き、病人の支援や祈祷も仕事にしているというが。
なぜかわからない。羽生の語り口が意外とまろやかで否定しなかったせいだろうか。さっきの響子との会話やサレ妻の立場、WEB小説のことなど語ってしまう。もはや愚痴だったが、羽生は一切否定せずに聞いてくれた。
「本心では夫にも愛人にも復讐したい。でも本当にそれでいいのか、ぐらついているところ」
「なるほど」
ここで羽生は聖書を開き、何やら朗読。全く意味不明の言葉だった。敵を愛せとか、復讐は神がするとか、善をもって悪に勝てとか。
「そんな善をもって夫や愛人に勝てるかしら?」
「勝てますとも!」
羽生はちょっと偉そうにドンと胸をはっていた。
「せっかく小説書けるんだったら、聖書をテーマに書いてほしいですね。それだったら旦那さんも絶対勝てない領域です。ギャフンと言います」
「そ、そうですかね?」
なぜか斜め上のアドバイスをされた。偶然にもキリスト出版社で小説のコンテストもやっているとか。
「絶対ギャフンと言いますよ。聖書の小説なんて書いたら」
「いや、そうですかね……?」
「さあ、聖書の小説を書きましょう! そうだ、天使が飲食店やってる設定とかよくないですかね?」
さらに斜め上のアドバイスをされ、夫や愛人への復讐心、よくわからなくなってしまった。
ご覧いただきありがとうございます。久々の番外編短編でした。
本作、なろうリワードのポイントもついておりまして、大変ありがたかったです。他にも色々と新作も準備中ですので、よろしくお願いします。




