番外編短編・バッドエンドフラグ!?
その日、私は朝からクッキーを焼いていた。
「ふふふーん」
鼻歌交じりで、上機嫌だった。全てのバッドエンドを回避し、探偵の仕事も推し活も順調。離婚は成立していないが、ブラッドリーは反省し、今のところ、不倫していない。仕事もぎっしり詰め込まれ、不倫する時間もないというのが本当のところだったが。
このクッキーもブラッドリーへの差し入れのために焼いていた。王都の編集部で缶詰状態になっていると連絡を受けた。何かやる気と元気が出る食べ物もリクエストされ、クッキーを焼いているというわけだ。
「おぉ、我ながらいい感じにできたわ」
クッキーの出来もよく、私はますます上機嫌だ。丁寧にラッピングし、バスケットに詰めると、さっそく編集部まで行くことに。
本当は馬車に乗りたかったが、歩いてもいける距離だ。最近、探偵の仕事でレストランに潜入し、賄い料理で体重が増えていたし、少しは運動した方がいいだろう。
公爵家から王都の公園まで歩き、大通りに出たところだった。
「危ない!」
子供が大通りに出ている。しかも馬車が走ってくるではないか!
咄嗟に子供を守るために駆け出したとき、大きな衝撃が走った。
ドッカーン!
どうやら馬車に轢かれたらしいが、子供は助かった。
だったら、いいんじゃないない?
私が生きてるかどうかは不明だったが。
そして次に目覚めた時だった。
「は?」
なぜか佐川響子に戻っていた。しかも異世界転生する直前の時刻だった。場所も文花おばさんの家に近い道にいた。
「なんじゃこれ? どういうことだ?」
とはいえ、うっすいモブ顔やちんちくりん体型はフローラより馴染みがある。視界もぐっと下がったが、心地いい。ちゃんとモブキャラに戻れた気がしたが、すぐにスマホでWEB小説「毒妻探偵」をチェックしたら、第二部の連載がスタートしていた。
一部は私、佐川響子が変えた結末に変わっていたが、二部が酷い。フローラが復讐の鬼と化し、愛人達を軒並み殺していくというサイコ・スリラー・サスペンス・ミステリーに変わっていた。
「ひっ、何この悪魔的な作品は……」
思わず顔が引き攣る。作者の文花おばさんのメンヘラっぷりが滲み出ている。
「おーい、響子ちゃん!」
そこに文花の夫・川瀬のおじさんが走ってやってきた。
この男もブラッドリーと同じだ。不倫を繰り返すようなゲス男だが、顔が真っ青。年は五十歳ぐらいだったが、一回りぐらい上に見える。疲労と心労か、頬もこけ、髪も白い。
「川瀬のおじさん、どうしたの?」
「実はうちの妻が、いつも以上にメンヘラ地雷女になっているんだ! あぁ、どうしよう。俺、復讐されて殺されるかもしれない」
ガタガタと怯え、本当に殺される寸前の人みたかった。川瀬のおじさんに聞くと、文花のメンヘラは毎日悪化し、今では悪魔みたいらしい。
いい年した川瀬のおじさんだが、情け無い。不倫していた自業自得じゃないかと思ったが、こっちのバッドエンドも回避できるだろうか?
「わかった、おじさん! 詳しく話を聞かせて!」
反射的にそう叫び、川瀬のおじさんを宥めていた。
実はこの展開、少し面白がっていた。どうせフローラの物語はあの異世界ではハッピーエンドで退屈する可能性大だったし、この世界でバッドエンドを回避するのも悪くない?
「いくよ、おじさん! バッドエンドを回避してハッピーエンドに変えようじゃん?」
そう言うと、腕まくりし、ニッコリと笑っていた。




