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第4話 新米メイドとお茶会です

 公爵家の食堂、かなり広い。テーブルも無駄に大きく、会話するのに不便じゃないかと思うほど。


 天井のシャンデリアは無駄に豪華だ。椅子もふかふかとし、窓からは薔薇が見える。そういえば、「毒妻探偵」の中ではフローラが庭仕事をしていた。人手不足もここまで来ると、泣けてくる。公爵夫人がする仕事とはとても思えないが、これも離婚したらチャラになるだろうか。


 そんな未来を想像すると、口元がにやけてきた。それにてテーブルの上は豪華なティーセット。サンドイッチやスコーン、クッキー、マフィンなどいい匂いだ。もちろん、紅茶の匂いもいい。ふわりと優雅なティータイムになるだろう。


 しかし、当の主役の新米メイド・フィリスは怯えていた。クマにでくわしたリスのようだ。フィリスは赤毛でぽっちゃり体型だが、全くメイド服が似合わず、田舎らしい雰囲気の娘だった。親しみやすくもあるが、なぜか一度も私と目を合わせようとしない。指先が震え、笑顔も消えていた。


 アンジェラはため息をつきながら、紅茶を注ぐ。その顔はだいぶ呆れていた。


 こんな三人、全く会話がない。外の鳥の鳴き声が響く。いい空気じゃない。本来なら新米メイドの歓迎だったはずだが、何これ?


 私は公爵夫人らしく、背筋を伸ばしていたが、思い出した。フローラ・アガターとしての記憶だが、確か昨日、この屋敷でメンヘラした。昨日がフィリスの初出勤の日だったが、うっかり彼女が不倫を連想させる地雷ワードを踏み、フローラがキレた。泣いて、叫び、皿を割り、すっかりフィリスが怯え、今に至るということか。


 私は腕を組み、少々考える。フローラというヒロインが考えている事がわからない。そんな皿を割った時点でブラッドリーの不貞が終わるわけでもない。ただただ皿代がもったいない。それを片付ける手間、時間も無駄だ。どう考えてもブラッドリーと離婚する方向に進んだ方が、コスパ&タイパがいいはずだ。


 とはいえ、フローラはブラッドリーが好きらしい。その「感情」は、私の「自我」としても理解できるが、全く関係のない新米メイドを怯えさせる必要はないだろう。これは単なる八つ当たりと言ってもいい。


「ごめんなさいね、フィリス。せっかく働きに来てくれたのに、嫌な思いをさせてしまったわ」


 素直に頭を下げた。モブキャラの私、目立つ事に比べたら、謝る事など全く苦じゃない。それにどう考えてもフローラが悪い。客観的に考えてもそうだ。


「は?」


 フィリスは目が飛び出るほど驚き、飲んでいた紅茶もむせていた。アンジェラも同様だった。


「お、奥さん。どうしたんです? 頭でも打ちましたか? まるで人が変わったみたいじゃないですか? 奥さんが自分から謝るなんて、あり得ませんって」


 このアンジェラの動揺。普段からよっぽどフローラは人に迷惑をかけて来たと悟った。確かにサレ妻の彼女は可哀想。でも、いつまでも被害者意識でいるのは、よくない。ありのままの赤ちゃんじゃないのだから。客観的なモブキャラ視点でも思う。


 前世でもサレ妻がネットに愛人の個人情報を載せ、炎上していた。わたしはそんな炎上を楽しんで見ていたものだが、その影響で関係のない人も迷惑を受けていた。確か愛人の弟さん、お兄さんの会社にクレームの電話が入ってしまい、ご近所からも誹謗中傷を受けたという。


 ネットではサレ妻が感情的に擁護されていたが、私は被害を受けた関係ない人のが可哀想って思ってしまった。モブキャラらしく、客観的に見ると、こういう八つ当たりっぽいことは同意できない。


 故にフィリスにも素直に頭を下げられた。もっともフローラの落ち度を代わりに謝るのは変な気もしたが、今はそれが最善ルートだろう。


「ごめんね。私、心を入れ替えて別人になるわ」


 まあ、本当に別人なんだけどね!


 心の中でツッコミを入れたが、これにはアンジェラは目をうるうるとさせていた。


「まあ、奥さん! なんと素晴らしい心がけでしょう! 素晴らしいわ!」


 アンジェラはなみなみと紅茶を注ぎ、私に差し出してきた。


「奥さーん! 嬉しいです! 私のような田舎ものも歓迎してくれるんですね!」


 フィリスも涙目で感謝してきた。


「実は私、田舎から王都のここに出てきたばかりで。不安だったんです。言葉遣いも悪いし、礼儀もなっていないし、緊張しちゃって」

「大丈夫よ、フィリス。失敗は誰にでもあるわ」


 そう言っておく。礼儀作法などのハードルが上がったら困る。今でさえ、フローラの記憶を頼りながら、必死にやっている私。決してメイドの礼儀作法など強く言えないのが現状だった。


「さあ、奥さん、フィリス。スコーンやサンドイッチ、クッキーも出来立てですよ。みんなで食べましょう」


 アンジェラに勧められ、三人でお茶を楽しむ。スコーンはサクふわ。クッキーは甘く、サンドイッチもその甘みを中和させて美味しい。紅茶もスッキリとした喉越しで、おかわりしたくなるぐらいだ。


「アンジェラ、ありがとうね。こんな美味しいお菓子が食べられて、嬉しいわ」

「本当に奥さん、どうしたんです? 本当に人が変わったみたいです」


 アンジェラは疑いの目。まさか異世界転生して来たとは口が裂けても言えない。


「いいえ、心を入れ替えただけですから」


 私は笑顔で紅茶を啜る。相変わらずアンジェラは疑って来たが、この一件でフィリスとは打ち解けてしまった。連日、フィリスとこんな風にお茶会を楽しむようになってしまった。


「本当に奥さん、頭をどこかでぶつけました?」


 一方、アンジェラの疑いはますます濃厚になってきた。

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