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サレ公爵夫人転生〜離婚したいだけなのに、なぜか夫の愛人調査でバッドエンド回避〜  作者: 地野千塩


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第39話 憧れのモブキャラライフが始まります

 クロエの件も無事解決し、ブラッドリーの怪我も順調に治っていた。今日はリハビリもあるらしいが、私はブラッドリーの病室まで見舞いへ行く。クッキーとともに、もう一つ特別なスケッチブックも持ってきた。


「これはクロエが描いたロン様の絵よ。素敵だと思わない?」


 そう、クロエからもらったスケッチブックだ。ブラッドリーにも見せた。ちょうど病室で退屈していたブラッドリーは、興味深くそれをめくっている。


「お、この絵は全部うまいな。ロン様の色気や誠実な人柄もよく表現されている」

「でしょう。不倫したからって絵は絶対やめて欲しくないわ。それとこれとは別問題よ」


 何気なく言っただけなのに、ブラッドリーは黙りこくってしまった。ブラッドリーも小説家だ。何か思うところがあったのかもしれない。


「そうね。ブラッドリー、あなたの小説を書くスキルと不倫は特に関係ないわ」


 病室の窓からは爽やかな風が吹き込み、ブラッドリーの髪の毛を揺らす。穏やかで平和な光景だったが、ブラッドリーは下唇を噛み、目も潤んでいた。


「フローラ、君はすごい」

「は?」


 突然、ブラッドリーに見つめられた。その目はいつになく澄んでいた。


「憎き愛人を許し、一緒に推し活までしている。そんなこと、普通の女は無理だ。普通の女なら復讐するだろう。やり返すだろう」


 いや、それは中身が佐川響子だからね!


 心の中でツッコミを入れたが、ブラッドリーには尊敬の眼差しを向けられ、こそばゆい。そんな聖人を見つめるような視線、何か大幅に誤解しているような気がする。


「フローラ、お願いだ。もう一度やり直したい。俺はフローラが一番だ」


 少し掠れた声で言われた。フローラの「感情」は喜びで大フィーバーを起こしていたが、今の私は佐川響子だ。そう簡単にフローラの「感情」に飲まれたくなかったが。


「本当に反省してる?」

「してるって! もう不貞はしない。だから、もう一回だけチャンスをくれ」


 頭まで下げている。声も緊張しているのか低く掠れ、風音の方が目立つぐらいだった。


「どうか、チャンスだけでも! やり直すチャンスを!」


 必死に頭を下げているブラッドリーを見ていたら、気が変わってきた。今までは離婚してモブキャラライフを目指す予定だったが、一度ぐらいはやり直しのチャンスを与えてもいいかもしれない。


 ブラッドリーに復讐や仕返しすることも全く考えていなかった。そんなことをしても平和なモブキャラライフは手に入らない。不貞の証拠は全部揃えていたが、一度だけなら、左の頬をさしだしても悪くないかもしれない?


「いいわ。ただし一回だけ。もし今度不倫したら、即離婚ってことでいい?」

「フ、フローラ!」

「本当に私が一番好きなのか証明して見せてね」

「やった!」


 ブラッドリーは泣くほど喜んでいた。あんなに不倫し、罪悪感すらなかった男だったが、脅迫事件やクロエの件で、ありのままの赤ちゃんを辞めたくなったのかもしれない。要するに丸くなったんだ。


「でもその前に」


 私はそう言うと、バスケットの中から愛人ノートを取り出し、ブラッドリーの目の前に突きつけた。


「当然、蒔いた種は刈り取ってもらいますよ。ここの愛人、全員に謝罪し、慰謝料など補償もしなさい!」

「ひっ!」


 ブラッドリーは悲鳴を上げていた。耳まで塞ぎ、よっぽど直視したくない模様だ。


「いや、それは面倒っていうか」

「またクロエみたいに復讐されてもいい?」


 あえてニッコリと笑って見せたが、ブラッドリーは項垂れ、渋々、元愛人全員に謝罪行脚をしに行くことを約束した。


 これでバッドエンドの芽は全部摘み取れそうだ。これが終わったら平和なモブキャラライフは保証されたと言っていい。もう殺人事件も脅迫事件も、愛人の逆恨みもない。バッドエンドな運命は変えられた。


「フローラ、何を笑ってる?」

「ええ、未来が楽しみで仕方ないから」

「そうだな、俺と素晴らしい夫婦になろう」

「その前にやることは全部やってね?」


 一応、釘をさした。ブラッドリーは愛人ノートを抱え、顔がげっそりしていたが、私は笑顔だ。


 憧れのモブキャラライフまであと少しだ。胸がドキドキと騒がしい。さて、どんな噂話を収集しよう。推し活も何から始めよう。想像するだけで口元がゆるんでしまう。


 この時の私は明るい未来ばかり考えていた。

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