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サレ公爵夫人転生〜離婚したいだけなのに、なぜか夫の愛人調査でバッドエンド回避〜  作者: 地野千塩


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第31話 だからモブキャラに溺愛展開は不要です

 ブラッドリーはここ数日、ずっと寝込んでいた。エリサに恥ずかしいエピソードを披露され、よっぽどのダメージを受けたらしいが、これだと離婚の話は全く進まない。


「どう思う、フィリス」


 今日は公爵家の庭でフィリスとお茶会をしていた。庭のバラは美しく、空も綺麗。紅茶の匂いも豊か。クッキーやマフィンなどのお菓子も美味しい。ケーキスタンドの中身は甘い香りしかしないが、フィ リスの口元は引き攣っていた。いつもは田舎娘らしい快活な顔だが、今日は明らかに引いている。


「奥様、あろうことか、愛人と推し活して、脅迫事件の協力者のエリサとも師弟関係ってどういうことですよ。さすがに私も呆れました」


 フィリスはクッキーをバリバリと噛み砕くと、ため息をついていた。


「いや、だって推し活は楽しいわ。フィリスも参加しない?」

「奥さん、そんなことより、どうやって離婚まで動くんです? いくら証拠があっても公爵さまは寝込んでいますよ。なんの話も進んでいないですね」


 フィリスのツッコミはもっともだ。とりあえずバッドエンドは回避できたが、憧れのモブキャラライフというハッピーエンドまで着地できていない。


「そうなのよねぇ。どうやってあの男と離婚できるかしら?」

「まあ、証拠は全部集まったんでしょ?」

「ええ。マムやエリサも協力してくれたわ」

「愛人にまで協力してもらうって本当呆れますけど、だったらもう離婚に突き進むまでです!」


 フィリスはこれから仕事があると、紅茶を飲み干したら、公爵家の屋敷の方へむかってしまった。


 一人残された私は、突然胸がチクチクしてきた。原因はすぐにわかった。フローラの「感情」が騒ぎはじめ、離婚はするなと叫んでいた。


「いやいや、フローラ。あんなゲスい不倫男だよ。なんでそうまでして離婚したくないの?」


 フローラの「感情」に呼びかけるが、答えない。それどころか、さらに胸をヒリヒリと刺激してきて、飲んでいた紅茶が苦く感じる。ケーキスタンドの中見も急に色あせて見えてしまい、まいった。


 私は無理矢理、佐川響子としての「自我」を優位にし、推し活でもすることにした。


 今日はイベントや舞台はないので、書斎で新聞や雑誌記事を整理し、ニヤニヤと眺める。


「うーん、やっぱりロン様はイケメン……。供給過多で幸せ」


 そう呟くものの、なぜか飽きてきた。楽しいはずなのに、ついさっきフローラの「感情」に刺激された心は、なんだか満たされない。それどころか、退屈。


 書斎の窓の外からは平和な空が見える。小鳥も飛び、木々のざわめきも聞こえてきた。実にのん気な風景だったが、あくびが出てきた。


「やっぱり平和すぎる気がするわ……」


 反射的に書斎の机の引き出しから、愛人ノートを取り出す。エリサから返してもらったものだが、ブラッドリーのかつての愛人の記録が事細かに記載されていた。フローラがつけた記録だったが、これはもう探偵レベルの調査結果だ。


「確かにこれは細かいわ。このままフローラの調査スキルを腐らせるのは、もったいないのか?」


 そうつぶやいた時、フローラの「感情」は明らかに喜び、困惑。ここまで喜んでいたのは珍しい。


「まさかフローラ、探偵でもやりたいの?」


 ちょうどその時だ。ブラッドリーが書斎へ入ってきた。


 病みあがりなのでパジャマ姿だった。髪もボサボサで目の下も真っ暗。一応世間ではイケメン公爵と通っているのが信じられないほどだ。


「ど、どうしたのよ?」

「フ、フローラ……」


 なぜかブラッドリーは妻の名前を呼び、うめいていた。


「寝込んでいる間、反省したよ。やっぱり不貞はよくなかった。君はもちろん、マムまで被害を受けるとか想像していなかった」


 その声は弱々しく、吐息混じりだった。


「ようやく反省したのね?」


 とはいえ、ここまで全く罪悪感もなかった男だ。簡単に信用できないが、あろうことかブラッドリーはやり直したい、フローラが一番好きだったと言うではないか。


「結婚式も教会でやり直そう。一からまた始めたい」

「そんな今更……」


 ブラッドリーは私に近づき、壁の方まで追い詰めてきた。


 さらにブラッドリーは私に顔を近づける。毛穴が見えそうなほど近い。


「運命を変えられるって言ったのは君だろう。お願いだ、やり直すチャンスをあたえてくれ」


 必死だ。近くのブラッドリーの顔は汗ばんでいるぐらい。鼻息も荒い。


 そしてブラッドリーはドンと壁を叩いた。いわゆる壁ドンだ。


「い、一番ってことは二番目がいるんでしょ?」


 ブラッドリーにこう言い返すしかない。私は口をぱくぱくさせながらも、なんとか突っぱねる。


「いや、二番はいない。絶対的な一番だ」


 フローラに「感情」は大フィーバーを起こしていたが、無理矢理佐川響子の「自我」を取り返し、書斎から逃げた。


 走って自室へ逃げこみ、フローラの「感情」は押さえ込んだが、わからない。


「だから、モブキャラには溺愛展開は不要です!」


 そう叫ぶが、現状は芳しくない。離婚どころか、相手はやり直しを求めていた。ハッピーエンドに行けない気がして仕方ない。悪寒がしてくる。


 一体どこで間違えたのか。私は異世界転生してから今までの記憶を辿ったが、どこが分岐点だったが、さっぱりわからない。頭を抱えていた。

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