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サレ公爵夫人転生〜離婚したいだけなのに、なぜか夫の愛人調査でバッドエンド回避〜  作者: 地野千塩


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第30話 推し活に突き進みます

 その後、エリサはブラッドリーの恥ずかしい噂を数多く披露した。中にはデマも混じっていたが、これには不倫常習犯もダメージを受けたらしく、公爵家の自室で寝込んでしまったぐらい。


 せっかく離婚に向けて証拠集めを再開しようとしていたが、これだと話が進まない。


「キャー! ロン様! こっち向いて!」


 結局、私は推し活に突き進むことにした。今日も王都の広場で推し活中。推しのロン様がステージ上で歌い、踊り、ファンたちの黄色い悲鳴を受けていた。私も喉が枯れるほど声援を送り、うちわを前へ掲げる。


「ロン様! きゃあ、こっち向いた!」


 推しがこちらを向いてウィンクした。それだけで倒れそう。右隣にいるマムも顔を真っ赤にし、一生懸命うちわを掲げる。


 左隣にいるエリサも、老婆と思えないほど声を張り上げ、推しとともに歌を歌う。私の後方にいるクリスもそうだ。最近はこの四人での推し活が多く、すっかり打ち解けていた。見た目や年齢、立場はバラバラなのに、不思議なものだ。


 マムはあの脅迫事件以降、すっかり改心し、王都の菓子屋で働いている。シスターのアリアの紹介だったらしいが、働きは真面目だと聞いていた。


 一方、脅迫事件の犯人、魔術師エルも改心し、地方の修道院に出家することになった。田舎に帰ったザガリーも真面目に家業を継いでいると聞いた。つまり、殺人事件も脅迫事件も回避し、バッドエンドは免れたらしい。


「ロン様!」


 ということで私が安心し、絶賛推し活中だ。観客席で他のファンと同化し、背景の一部となっているのも最高だ。モブキャラ魂が喜んでいる。もう今のように推し活中とはいえ、幸福なモブキャラライフエンドの道筋が見えてきた。


「奥さん、あー、楽しかったね」

「そうだね、エリサ!」


 イベントの帰りは、王都のティールームへ向かい、推し活仲間四人でお茶をした。


 最初はマムの存在にエリサやクリスも警戒気味だったが、同じ推し仲間だ。ロン様の衣装、歌、ダンスの内容に盛り上がり、親友のように仲良くなっている。


 それにティールームのスコーンやマフィン、ドーナツ、サンドイッチ、レモンパイも美味しく、紅茶もあっという間に二杯目だ。


「ああ、私、幸せ。こんな風に美味しいお茶とケーキと共に推しが語れるんですよ。これ以上の平和があるかな」


 しみじみと呟いてしまった。殺人事件とか脅迫事件とか暗いものから回避できた為、余計に平和を実感してしまった。


 エリサやクリスは普通に頷いていたが、マムは違う。脅迫事件の被害者ゆえか、泣きそうな目を見せていた。


「そうね。私が今生きているのは当たり前じゃない。生かされているのね」


 マムが言うと、ぐっと重い台詞だ。前世で読んだWEB小説「毒妻探偵」の存在を知っている私は、安易に笑えなかったが、なんかクリスの表情が暗いことに気づく。確かに福祉作業所での仕事は忙しく、ストレスフルとは聞いていたが、お菓子もほとんど食べていない。


 てっきりザガリーの件で落ち込んでいると思ったが、違った。クリスが自宅で飼っていた黒猫が行方不明になり、困っているという。


「正直、ザガリーなんてどうでもいいんだけど、うちのチビ子に何かあったら、どうしようかと」


 クリスの頬は引き攣り、疲労感も出ていた。昨日は夜中まで探し回ったそうだ。


「そうか、猫か。王都の公園の方で見たっていう噂があった」


 ここでずっと黙っていたエリサが口を開いた。


「本当?」


 クリスより私の方が食いつく。さすがお師匠のエリサだ。それにしてもクリスも心配だ。


 私たちはティールームを後にすると、王都の公園に向かい、そこから手分けして、黒猫の目撃者を探した。まだロン様のファンも多く残り、同じ推しだというと、親切に協力してくれる人も多かった。


「スタッフさん、黒猫を見ませんでした?」


 さらにロン様のスタッフにも声をかけ、情報収集したところ、裏手の茂みで見たという。


 急いで茂みに入り、黒猫を探す。エリサ達にも呼びかけ、茂みを探し回ると、猫の鳴き声が聞こえた?


「エリサ、あっちの方から聞こえる!」


 私は声がする方角へ走り、公衆トイレの前まで来ると、そこでミャーミャー鳴いてる黒猫を発見した。お腹は減っている様子だが、怪我もしていない。毛並みもツヤツヤだ。ホッと肩の力が抜けた。


「チビ子! 会いたかったわ、どこ行ってたの!」


 クリスは黒猫を抱きしめ、安堵の涙を流していた。この件も無事に解決した。エリサは私のおかげだと胸を張り、ますます師匠として尊敬したくなったが。


「フローラ奥さんとエリサ、探偵にでもなったらいいのに。その噂収集能力、自分の為だけに使っていたら、もったいないわ。今の黒猫探し、どう見ても探偵業だったわよ」


 マムはなぜか静かに指摘した。思わずエリサと私は顔を見合わせた。


「師匠、私たち、探偵に向いてるの?」

「何を言ってるんだい、フローラ。私たちはモブキャラだ。プロのモブキャラじゃないか」


 珍しくエリサは戸惑っていたが、クリスと一緒にいる黒猫が鳴いた。


「ミャーオ!」


 私たちのことは、何も知らないような鳴き声だった。

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