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サレ公爵夫人転生〜離婚したいだけなのに、なぜか夫の愛人調査でバッドエンド回避〜  作者: 地野千塩


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第29話 真正モブキャラは面構えが違う

「なんで洗濯婦のエリサ?」

「知らないわよ、ブラッドリー! とにかく公爵家に参りましょう!」


 私たちは公爵家まで走っていた。エルは教会の神父やアリアに任せた。おかげでもうエルは改心していたが、問題はエリサだ。なぜエルに協力?


 それは謎だったが、エリサが一枚噛んでいたとしたら、辻褄があう。エリサは自由に公爵家に出入りが出きたし、誰もあの老女が協力者だとは疑えない。エリサも目立たないモブキャラだ。背景と同化している時すらある。一本取られた感じだ。


 今日もエリサが仕事で公爵家に来ているはずだ。私たちはとにかく走り続け、公爵家に到着。


「エリサ!」


 公爵家の庭にエリサがいる!


 私は叫びながら、エリサを追いかけて捕まえた。向こうは老婆だ。いくら運動不足の公爵夫人の私といえ、簡単に捕まえられた。


「エリサ。君は長年、ここで洗濯ものの仕事をしてくれたじゃないか。なぜだい?」


 ブラッドリーは責めていない。むしろ驚きと困惑が隠せない。私も同じだった。あれだけモブキャラ同士でシンパシーを感じ、噂話で盛り上がった仲なのに。


 公爵家の庭には洗濯物が干されていた。白いシーツは風に揺れ、太陽の光も眩しく反射的している。エリサの仕事ぶりは悪くない。だから余計に不可解だった。


 一方、エリサはわなわなと震え、そんな洗濯物を凝視していた。


「私はモブよ。モブキャラよ」


 そんなエリサだったが、突然、仁王立ちになり、はっきりと宣言した。


 一瞬自分の台詞かと勘違いしそうになったが、エリサの低めの声が響く。開き直っているようだ。ブラッドリーはこんなエリサに目が点になり、ハンカチで自身のおでこの汗を拭っていた。


「私はね、ずーと存在感のないモブキャラとして生きてきたんだ。子供の頃の劇では背景の山役だった。学校では目立つヒロインキャラたちに幽霊みたいだって笑われた」


 エリサの告白はよくわかる。自分のことかと思うぐらいで、背中がゾクゾクしてきた。


「そんな私だ。決してヒロインになれない背景の私。人の噂話を楽しんで何が悪い? 人の不幸は蜜の味。おいしい蜜よ。公爵、フローラ奥さんの不幸も楽しませてもらったわ」


 どんと胸を張り、大声で宣言するエリサ。堂々としているので誤魔化されそうだったが、これは見事な開き直りだ。清々しいほど罪悪感が無い。


「そんな時、エルに話を持ちかけられた。私も王宮の洗濯やってた時もあったからね。王宮魔術師のエルとは顔見知りでもあったのさ」


 さらに胸を張り、モブキャラの才能を見抜いたエルは完全に無能ではないと笑う。


 その面構え、本気だ。真正モブキャラの底力を感じる。一切、罪悪感もなく、犯人の協力もしていたエリサは、モブキャラとして一本筋が通っている。うっかりヒロインっぽく探偵役をしている私とは次元が違う。エリサはプロモブキャラだ!


「わかるわ! エリサ!モブキャラは噂話が生きる糧よ!」

「おお、奥さんでもわかるんかい。そうだ、私はプロのモブキャラさ。モブ中のモブなのさ。どんな噂でも収集し、人の不幸は舐め尽くすぞ!」

「さすがお師匠! 私を弟子にしてください!」

「ちょ、フローラ! なぜエリサを尊敬して涙まで流しているんだ!」


 この中でブラッドリーだけがまともだった。エリサを尊敬している私にツッコミを入れると頭を抱えていた。


「どうするんだよ、フローラ。エリサのせいで脅迫事件まで起きてるんだぜ。簡単に許すなよ」

「あら、公爵。私にそんなことを言っていいんか? あんた、ドロテーアっていう女と不倫中の時、一緒に株にはまって大損したこと、奥さんに言っていいかい?」

「え、エリサ。そんなこと知っているの?」


 それは初耳だ。確かマムの前の愛人はドロテーアという女だったが、株で大損したことなど聞いていない。


「それで公爵、出版社にお金を前借りしていたんだが、おかげでずっと執筆三昧よ。下らない提灯記事風のルポも書かされているとか面白いわ」

「あー、エリサ、なんでそんなこと知ってるんだ!」


 ブラッドリーはその場でしゃがみこむが、エリサは一切攻撃を緩めない。むしろどんどんブラッドリーの恥ずかしいエピソードを暴露していた。フローラさえも知らないワンナイトの愛人の存在や結婚前にギャブルにハマっていたことなども暴露され、ブラッドリーは回復不能状態だった。


「すごいわ、エリサ! なんでそんな噂まで知っているの?」


 もはや私はエリサを尊敬する他ない。キラキラとした目でエリサを見上げてしまう。さすがプロモブキャラだ。面構えから違う!


「モブキャラを舐めたら困るわ。私は噂話はなんでも知っている」

「エリサ! 最高! 私の推しになって!」


 私はキャーキャー騒ぎながら、エリサに抱きつく。


「ふぅ、奥さん。私と一緒に噂収集をしようか?」

「お師匠! 是非!」

「フローラ! そんな師弟関係を結ぶなー!」


 ブラッドリーのツッコミも無視し、私とエリサは先生と弟子の関係となった。今後もブラッドリーの噂を収集し、定期的に私に伝えてくれる契約も結んだ。


 エリサは敵にしたら面倒だが、味方にしたら心強い。ここはエルの協力者だったと責めるよりは、味方にしてしまった方がお得だと判断した。思えば愛人調査もエリサと一緒にした方が早かったかも。下手な探偵よりエリサは頼もしい。離婚もスムーズにいけるかもしれない。


「あぁ、もう。俺はもう知らない!」


 エリサにさらに都合の悪い噂話を暴露されたブラッドリーは逃げるように、屋敷の方へ帰っていく。


 残された私とエリサは目を見合わせてニヤリと笑う。


「奥さん、一緒に噂話を探しに行こう!」

「師匠! お供もします!」


 こんな私たちにブラッドリーだけでなく、フィリスやアンジェラも呆れていたが、予定より早くモブキャラライフが始まったかもしれない。


 それにエリサも推し活仲間に引き入れた。バッドエンドも回避できたし、脅迫事件も解決した。あとは離婚へ向けて動くだけだ。

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