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サレ公爵夫人転生〜離婚したいだけなのに、なぜか夫の愛人調査でバッドエンド回避〜  作者: 地野千塩


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第28話 この人が犯人です?

 怯えているマムはリスのようだ。かたかたと震え、背筋も丸まっていた。なお、よっぽど怯えているせいか、ブラッドリーの存在すら気づいていないようだった。


「魔術師エルに脅されているのね?」


 私はマムの視線に合わせてしゃがみ、一応確認した。


「え、ええ。公爵さまと不倫していたことを週刊誌に全部公表するって言われて。しかも証拠も持ってた。私が公爵さまに送った手紙とか」


 マムは顔を覆い、弱々しくうめき声を上げた。ブラッドリーの顔も青い。それはそうだろう。自分で蒔いた種が、こんな毒花を咲かせているのだから。


「フローラ、あなたが書いた愛人ノートっていうのも見せてきたわ。あ、ああ。不倫された奥さんがこんな辛い思いをしているなんて知らなかった。私、私、なんてことをしてしまったんだろう……」


 マムは悲痛な声をあげ顔を一切あげない。かわいそう。モブキャラの私は客観的にみたら、マムが一番かわいそうに見えた。こんな罪の意識に苛まれるとは。そうだ、アリアの言う通りだ。ここでマムを責めても何も解決しない。それに愛人ノートもエルが持っていることがわったじゃないか。それだけで大きな一歩だ。


「フローラ、ごめんなさい。私、あなたになんてことしてたの。それなのに、あなたは許してくれた。一緒に推し活もしてくれた……」


 まあ、それはフローラ・アガターの中身が佐川響子だからだけどね!


 マムは顔を上げ、私を見ている。まるで聖女でも見ているかのような視線だ。恥ずかしい。頬が赤くなる。ブラッドリーも似たような視線で私を見てきたが、それは無視でいいだろう。


「わかった、マム。エルを捕まえるわ」

「本当?」

「ええ。運命は変えられるよ。今、自分のしたことがわかったなら、これからは変えればいい話じゃない? 大丈夫。何回失敗しても、立ち上がればいいことでは?」


 そう明るく言うと、マムは泣き崩れてしまった。私にはこれ以上マムの世話はできないと判断し、アリアにバトンタッチした。


 そしてブラッドリーとともに修道院を出て庭へ。


「フ、フローラ。これからどうするんだ?」


 なぜかまだ顔が赤いブラッドリー。自身の髪の毛をかきあげていた。庭には子供の声と鐘の音が響き、何とも平和だが、ずっと呑気にはしていられない。


「エルの事務所へ行きましょう。あの男が脅していたのよ。もう脅迫状も愛人ノートの盗みも全部あの男が噛んでるはず」

「そうか?」

「そうよ!」


 呑気なブラッドリーの肩をたたき、二人でエルの事務所へ向かう。確かあの呪い会を開いた男爵家がエルの事務所も入っていたはずだ。


 教会からは少し遠いので馬車をつかって急ぐが、例の男爵家には行列ができている。全部エルの顧客らしい。しかもエルは最近復讐代行サービスをはじめ、高額だが、人気が上昇中だという。


「なんだよ、それは」


 ブラッドリーは引いていた。私も引くが、仕方なく行列に並び、十分以上たった頃、ようやくエルの事務所に入れた。


 エルは呪い会の時と同様、子供っぽい顔つきだった。高い声も耳につく。よくいえばとっちゃん坊や。悪くいえば子供おじさんという雰囲気だったが、事務所には護符、ドリームキャッチャー、クリスタル、魔法陣がかれた風呂敷などオカルトグッズが散乱し、バラやジャスミンの匂いもした。お香も炊いているのだろうが、前世のトイレの芳香剤とよく似ている匂い。


 ブラッドリーはこの匂いに咳き込み、くしゃみを連発していたが、エルはずっとマムへの恨み言を呟き、奇妙な呪文まで発していた。


「くだらない」


 思わず呟く。前世では科学が進歩していた。こんな非科学的なことはとうてい信じられないが、エルはこれで火がついてしまった。変な呪文とともに、私とブラッドリーの過去世とやらをリーディングし、相性が悪い、別れる運命だと脅してくるではないか。


「運命なんて自分で変えればいいわ。もちろん、変えられない部分もある。肌の色とか年齢や国籍とかは変えられない。でもそうでないものは変えられるわ」


 冷静に言い返すとエルはまた変な呪文を唱えていた。


「フローラの言う通りだ。エルもマムにバカにされて恨みがあるなら、見返すよう実力をつければいいんじゃないか? それは君の努力でも十分可能ではないかね」


 ブラッドリーにまで指摘され、ついにブラッドリーは顔を真っ赤にして逆ギレ。


「うっさい!」

「脅迫状も愛人ノートの盗みもあなたね?」


 私とブラッドリーが冷静なものだから、エルはさらに激昂した。手当たり次第、オカルトグッズを投げてくるが、困ったものだ。この赤ちゃん、ザガリーと同レベルだろう。


「だったら、エル。懺悔室に行こうか?」


 ブラッドリーは投げつけてきたパワーストーンを避けつつ提案した。


「そうね! 懺悔室へ行きましょう。神様に赦してほしくない?」


 この赤ちゃん、どうしたらいいかわからず、もうこの切り札をだそう。エルをチート懺悔室へ連れていけば改心する可能性大だし、色々と面倒なので、この方が早いと判断した。


「ケッ! そんな懺悔室なんて行かねーよ!」


 エルは悪態をついていたが、クッキーを与え、気が緩んだところで馬車を呼び、半ば無理矢理懺悔室へ連れて行った。


「あぁぁ! 神様! 俺は脅迫という罪を犯しました。ごめんなさい!」


 驚いた。懺悔室へ連れて行って三分程度、エルの泣き声が響く。


 この変化に私もブラッドリーもついていけないが、懺悔室から出てきたエルは憑き物が取れたようだった。


「僕は神様に赦されました! 改心します!」


 人が変わってしまった。信じられない。私ブラッドリーも引く。こんなチートはアリなのかと首を傾げるが、このチャンスは逃せない。その後、エルを礼拝堂に連れて行き、脅迫状や愛人ノートの件も全部吐かせた。


 マムの脅迫だけでなく、ストーキング行為も告白した。そして脅迫状や愛人ノートの件も。不倫をネタにマムを脅し、復讐を果たしたかったそうだ。


「でもうちに侵入するのは無理よね? 愛人ノートはどうやって入手したの?」

「フローラの言う通りだ。どうやってうちに入った? それに俺の不倫の証拠はどうやって得たんだ?」


 夫婦二人で問い詰め、全部吐かせた。エルには協力者がいるという。


「誰なの?」


 さらにエルに詰める。こんな風に問いるめるのは礼拝堂でしていいか不明だが、今はとにかくバッドエンドを回復したい。汗を流しながら必死にエルに喰らいつく。


「エリサだよ! あの洗濯女に近づいて協力してもらったんだ!」


 意外な人物の名前が出た。


「ふぇ、エリサ?」


 ブラッドリーも予想していない名前だったらしい。彼も変な声をあげていたが、教会の鐘の音が響き、かき消されてしまった。


「本当にエリサ!?」


 私も信じられない。ただ、鐘の音がやたらと耳につく。

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