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サレ公爵夫人転生〜離婚したいだけなのに、なぜか夫の愛人調査でバッドエンド回避〜  作者: 地野千塩


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第26話 チート懺悔室の謎

 翌日、ザガリーは公爵家の庭やキッチン、廊下や壁も掃除した。


「俺は真面目に生きる!」


 そう宣言し、あっという間に公爵家もピカピカになった。この変わりようにメイド二人もブラッドリーも目を丸くし、どんどん仕事をザガリーに与えていた。しばらくザガリーにここで働いて欲しかったが、地元に帰り、実家の何でも屋を再開させるという。夜にはザガリーのお別れパーティーを開く予定だった。


 私は公爵家のハーブ畑へ行き、ミントを摘んでいた。今日のパーティー料理に使う為だったが、解せない。


「ザガリーのあの改心の仕方。あのチート懺悔室に一体何があるのかしら?」


 あの様子だと殺人事件というバッドエンドは回避できそうだったが、チート懺悔室の謎は残る。いくら宗教が根付いている異世界とはいえ、そんな簡単に改心できるだろうか?


 ブラッドリーを懺悔室へ連れていった方がいいのかもわからない。離婚が遠のいてしまう可能性もあったが、これは何かがある。明日ににでももう一度、懺悔室に出向いた方がいいと決めたところ、洗濯婦のエリサが見えた。


「あら、エリサ。久々ね。何か面白い噂はない?」

「いや、その。あの……」

「え、何?」


 いつもハキハキとしたエリサだったが、口篭っていた。


「奥さん、ごめんよ」

「何でエリサが謝ってるの? どうしたの?」


 よく見るとエリサの目が暗い。噂話に盛り上がっている時が嘘みたいだった。


「いや、いいんだ」


 しかもオドオドしながら、公爵家の庭から退散していた。


「何、あれ?」


 腑に落ちないが、夜のパーティーの準備をしていたら、あっという間に時間がたち、エリサのことなど忘れた。


 そして夕方から公爵家の食堂でパーティーだった。貴族の一般的なパーティーと違い、小規模だ。ザガリー、私とブラッドリー、メイド二人しか参加者はいなかったが、テーブルの中央には大きな肉料理が並べられ、揚げ物、サンドイッチ、パン、サラダも並び、豪勢だった。


「うまい、うまい。こんな美味しいものを食べられる俺は幸せだな」


 ザガリーは肉を食べながら、感動して涙を流すほどだ。


 信じられない。前世で読んだWEB小説「毒妻探偵」ではマムを殺すような男だったのに。しかも障害者のフリまでしていた極悪人だったのに、憑き物が落ちたかのようだ。目元もスッキリとし、泣いているのに、顔は晴れやかだ。


「この様子だと、もう悪いことはできないですね」


 隣のフィリスは小声で呟いていたが、確かにもうマムを殺せないだろう。ほぼチート懺悔室のおかげだと思うが、バッドエンドは回避できた。メイド二人もブラッドリーも穏やかに笑い、ハッピーエンドという雰囲気だ。


 それなのに、喜べない。喉に小石が突っかかったような違和感が残る。そうだ、脅迫状の件が終わっていないからだ。


 この和やかムードを壊したくはないが、私はミントティーを啜ると、ザガリーに向き合う。


「本当に脅迫状を書いていないのね?」


 悪役顔を生かし、ザガリーを睨む。この空気は少々暗くなり始めたが、ザガリーはこくこくと頷く。


「だから、脅迫状なんて手の込んだことはしないから。何度も言わせるなよ」


 ザガリーが嘘はついていないだろう。


 だからこそ余計に引っかかる。消えた愛人ノート、ブラッドリーの不貞の証拠が不自然に消えているのも妙だ。確かにマム側の証拠があったが、ブラッドリー側の証拠が消えている。おかしい。まるでピースがバラバラになったパズルをいじっている感覚がする。しかもそのパズルは別のピースも混じっていそうな違和感がある。


「本当に何も知らないから! 俺がしようとしていたのはマムを殺そうとしていただけ! 公爵、信じてくれよ!」


 ザガリーはこの中で一番優しいブラッドリーに泣きついていた。こざかしい。改心したとはいえ、頭はバカにはなっていないようだ。


「フローラ、こんなにザガリーは泣いてるじゃないか。怖い顔で詰めるなよ」

「そうねぇ……」


 確かにこれ以上、ザガリーから責めても何も出ないだろう。


「他に何か知っていることは? 何でもいいから教えて」

「奥さんの言う通りですよ。さあ、ザガリー。ミントティーでも飲んで落ち着いてよく思い出しな」


 アンジェラがザガリーにミントティーを飲ませた。これで落ち着いてきたザガリーはサンドイッチを食べつつ、何か思い出したらしい。


「そうだ。マムの後を王宮魔術師のエルがつけているのを見た」


 新情報ではない。作業所のクリスからも聞いているので驚きはしないが、さらに知っていることを聞く。


「確かエルもそうとうマムを恨んでいたはず。俺はあいつと共謀してもいいと考えるほどだった」

「ちょっとザガリー。まだマムを殺そうとしているのね!?」


 フィリスは目を釣り上げて怒り、パーティー会場はガヤガヤと騒がしいが、私は一人黙って考える。


 エルが公爵家に脅迫状を出す理由はあるだろうか。エルもマムを殺そうとしていたのに、あろうことか私が介在し、改心までさせてしまった。元々殺害計画を立てていたエルからしたら、私の存在はやっぱり邪魔?


「どう思う、ザガリー。同じ犯罪者(未遂)としての意見は」

「ちょ、奥さん。俺はもう犯罪しないって」


 そうは言ってもザガリーは深く頷く。


「まあ、確かに俺は脅迫状なんて書かないが、犯罪心理としてはなんとなくわかるね。殺したいほど憎い女が改心して教会にいるとか、確かにむかつくわ。改心させた奴にも。梯子外されたような気分だ」


 さすがザガリーは犯罪者(未遂)だ。さらに脅迫状の犯人も予想させた。


「犯人はエルだろ。おそらく不倫の証拠を集めていたのもエルだ。で、時をみてマムを脅そうとしていたんじゃないか? 俺が見たところ、エルは暴力系っていうより、ねちっこいタイプの脅し系って気がする」


 ザガリーは腕を組み、うんうんと頷いている。


「でも、エルが愛人ノートを盗むには無理だろ?」


 ブラッドリーのツッコミはもっともだ。相変わらず不貞の罪悪感はなく、呑気にサンドイッチを齧っていたが。


 ザガリーの予想が合ってたとしたら、エルはこの公爵家に侵入できない。愛人ノートも奪えないとなると?


「誰かエルにも協力者がいるんでは? スパイ!? あ、私じゃないですよ!?」

「フィリスなに言ってるだい。って、私でもないよ!」


 メイド二人の空気が不穏になる中、考える。確かのブラッドリー側の不貞の証拠を握っている「協力者」がいてもおかしくないが、誰だ?


「お、俺でもないぞ!」


 ブラッドリーも否定し、このパーティーはグダグダなまま終了。ザガリーも余日の早朝、地元に帰ってしまい、もう彼から犯罪者心理を聞くのも不可能になった。


 結局、脅迫状の件も何もわからないままだ。確かにマムの殺人事件は回避できたが、不穏な空気が濃くなってきた。本当にバッドエンドを回避できているのかも疑問が残る。何か別の大きな謎も隠れている?


「ということで神父さん。全然わかりません。脅迫状の犯人は一体だれだと思います?」


 結局、懺悔室へ行き、神父に相談していた。それにこの懺悔室も謎だ。狭く、仕切りがあるだけの部屋なのに、極悪のマムや犯罪者(未遂)のザガリーが改心する何かがあるのかも疑問だ。


「大丈夫。全て神様のご計画のまま、進んでいきます」

「そんなこと言われてもわからない。神様は脅迫状の犯人は知っているの?」

「ええ、悪は必ず表に出ます。神様がそうなさいますから、大丈夫」


 神父の声は優しいがますます自信がなくなってきた。成り行きでうっかりヒロインになってしまったが、荷が重い。一刻も早く身軽なモブキャラに戻りたい。


「モブキャラに戻りたいです。もうヒロインきっつ!」

「奥さん、一体何を!?」

「もう無理! ヒロインとか探偵とか無理! 全然謎が解けないー! もうヒロインの座からモブキャラへ降ろさせてもらいます!」


 涙目になりながら訴えていた。我ながら子供みたいで恥ずかしいが、想像以上にヒロインの仕事は大変だった。


「言ってる意味がよく分かりませんが、才能を多く与えられた人には世のため、神様のために働く責任があります。一方、何も与えられていないモブキャラは、何の責任はありません。ただ、感謝は必要です。これがモブキャラのお役目ではないでしょうか?」


 私の愚痴に神父が戸惑い、説教が始まった時だった。廊下からバタバタと足音がし、シスターの大声が響いた。


「大変です! 神父さま! 修道院でマムさんが倒れてしまいました!」

「何だって!?」


 神父もシスターと共にバタバタと外に出て行ってしまった。懺悔室には一人、私だけが残された。


「え、どういうこと? まさかバッドエンド回避できていないの……?」

 

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